013-複製人形は、地獄の中でただ微笑む
「がああっ、ぎゃっ、ぐあああああああっ!!」
密閉された部屋に、悲鳴が響く。
ノルンは笑顔を浮かべたまま、苦悶の悲鳴を上げるアロイテを見ていた。
彼女はカプセルの中で、バイザーを付けたまま叫んでいた。
「あああああッ、くぅ!」
彼女は事故防止の観点から、関節各部を固定されている。
アロイテは何に苦しんでいるのか?
それは、情報の奔流だ。
『やはり、苦痛を伴うようですね』
「ええ、獣人には耐性があるようですが....人間の治験例は少ないですからね」
連邦に人間は少ない。
獣人が人口の97%を占めており、残りの3%が人間を含む希少種族である。
そのために、例が少ないのだった。
「ぎゃあああっ、はあっ!!」
再びアロイテが絶叫した。
ノルンもかつて、同じ施術を受けているものの。
彼女は人造生物であり、クローン元であるシンの染色体を変えただけの存在。
人間と同じ感覚を持たないので、苦痛を感じてもそれを外に出すことはしない。
というよりも、苦痛がどのような刺激か理解していない。
「うっ、ぐあああああああっ!!」
「とはいえ、悪い事をしました」
『ノルン様の独断なので、出来る限りシン司令官の目からは隠してくださいね』
「はい」
アロイテは今、超高速での知識の植え付けが行われている。
といっても、人間の脳とはそう単純ではない。
ただ植え付けただけでは、すぐに忘れてしまう。
学習装置――――知識インジェクターは、一つの知識につき、その人に合わせた「理解の時間」を設ける。
人格をコピーし、何十、何百と。
理解する時間を重ねていくのだ。
それが脳に大きな負担を生み、脳は強制的にそれをシャットダウンしようとする。
その作用を薬物で繋ぎ止めているのだ、苦痛にもなるだろう。
「あああああ!! おえええええっ!!」
「吐きましたね」
『大丈夫です、想定の範囲内ですから』
叫んだアロイテは、そのままの姿勢で吐く。
それを、素早く宛がわれた回収機が回収する。
「ああ、ついでに腸内環境も調べておきましょうか?」
『衰弱している状態でそれをやるのは後でいいでしょう』
人外とAIの会話は、冷徹なものであった。
まさに、奴隷になるよりも酷い体験だ。
「それにしても、やはりシン様は.....強いお方ですね」
知識インジェクターはかつての時代においてシンも使っているが、シンはうめき声一つ上げず、かつ終わった後もそのまま仕事を行っていた。
並の精神力で出来る事ではない。
『ええ、でなければ――――あんなことがあった後に、あの苦しみに慟哭した後に、正妻を放って女を作ったりはしません』
「ええ、全くです」
シンは既婚者である。
だというのに、既に別の星系で一人たらし込んでいる。
今度はアロイテを。
「ぎぃぃぃぃっ、ぎぁあああああああ!!」
「アロイテ・シュバク。9歳、獣人であれば老人ですが.....」
『獣人社会に人間は適応できませんからね、奴隷として売り飛ばされそうになったという情報も採取しましたが、恐らくはその消えることのない幼さのせいでしょう』
ここにシンがいれば、「エルフと人間か」と呟いたことだろう。
平均寿命10~12年の獣人からすれば、アロイテはいつまでも歳を取らない貴重な存在である。
物好きでなくとも、大枚を支払うだろう。
『教育はあと六時間ほどで終わりますが、恐らく彼女は耐えられないので事後処置を行います、他の業務はありませんので自由にどうぞ』
「では、私はここで彼女を見守ります」
ノルンは、苦痛の絶叫が響き渡る部屋で、ただニコニコと笑いながら立っていた。
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