大会準備のひとときに
※こちらの作品は 高鳥瑞穂様の『「そんなの、ムリです!」~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~』の二次創作になりますm(__)m
思いついたネタを書き殴ってみたので、敬称・設定諸々が無茶苦茶になっているのでご了承ください。
本編26‐6~9 辺りを外野から見た想定のニンカ視点になります。
これまでとは全く違うEFOの公式大会で、運営からのご指名が届いた時は心底ビックリした。
内容はあたしの一番の長所であるDPSを、他職を交えて条件付きで競い合う大会だという。
これまでの実績から殿堂入りを果たしたリーダーやロイドさんは別格として、今大会の優勝候補に挙げられるトラキチに、前回大会でこれでもかと暴れ倒して注目度が爆発している親友。
数え切れない程の激戦を勝ち抜き本戦出場を決めたねむ蝉に、同じく狭き門に自力で挑むと宣言した相棒。
そんな皆と肩を並べてあたしだけの武器で戦える。
観客側でなく「サザンクロス代表」として参加できる。
……皆には言えないけど実は密かに燃えていた。
普段から二人で過ごしているVRルームの中。
部屋の奥に設置した大きなソファーに寝転がりつつ、大会に向けて少しでも使えそうなネタはないかとネットとにらめっこをしていたら、聞き慣れた通知音が響いて手が止まる。
「……セリスからの動画紹介?」
彼女がこういう事をするのも珍しければ、誘導先がトラ小屋というのも……。
「……ぷっ、あはははは」
「なにかあったのか?」
あんまりにも想定外なモノを見せられて我慢できずに笑いだしたら、近くにいた相棒が不思議そうにこっちを見ている。
「……ねえ、こっち来てこっち。すごいのが出てるよ」
寝っ転がっていたソファーをペシペシと叩き、上体を起こそうと体を捻る。
黙ってやって来て、何も言わずにあたしの隣に腰掛ける相棒に対してもたれかかるように座り直す。
……今では当たり前のように振舞えている事に感慨を覚えつつ、相棒にも観やすいように拡大した動画ウィンドウを目の前に差し出す。
「トラ小屋の……腐食龍動画?」
「まあ短いからまずは見てみて」
あたしと同じように首を傾げる相棒に苦笑しつつ、再生させると動画が動き出す。
「……は?…………ええええ???」
「まさかあたし達の記録をこんなにあっさりと覆されるとは」
本気で驚いた声を上げ、色んな感情を込めた呆れ声に同意しつつも画面に手を伸ばし、少しずつ動画を動かしてみる。
いつ見ても意味が分からないあの人の、デタラメでいて洗練された3連撃が件のボスに突き刺さる。
そしてナンヤカンヤあった末に、あの人の弟子として「武器チェンファイター」なんてイロモノを習得している彼女も、傍目からは遜色無い動きで追従し多くのプレイヤーを追い詰めている厄介なボスを文字通り蹴散らした。
思わず、といった形で前のめりになっていた相棒も、繰り返し動画に目を通して落ち着いたのか、力を抜いてソファーへともたれかかる。
……体を揺らされたついでに、もう少し密着するように倒れ込むと、相棒の手があたしの頭へと伸びてきた。
「言いたい事は山程あるんだけどさ」
「うん」
「コレをこなせるのが世界中でこの二人だけ、ってのはマジでどうなってんだよ」
「それな」
EFOプレイヤーの十割が同意するツッコミどころに頷いてから、自然と一緒に笑いだしていた。
なぜ? どうして? どうやって?
そんな疑問をぽつぽつと語り合っていたら、ふと気づいたように相棒が声を上げた。
「この方法もやり方も、全部トラ発なのか」
「……うん、たぶんそう。昨日話した時も何も言ってなかったし、この前一緒に暴れた時もいつものやつは見えなかったし」
「ああ、アレかあ……」
なんだかんだで彼女の起こすビックリに巻き込まれて来た身としては、何かに気づき何かを起こそうとする時の彼女の癖には敏感にもなる。
誰よりも聡明で、焦がれる程の才能を振り回し、それでいてどこかそそっかしくて、誰よりも優しい親友。
そんな彼女だからか、事あるごとにナニカを起こして話題になっていく。
……現についーとや動画に対する阿鼻叫喚の嵐に気づき、ひと笑いしてから何となく分かったことがある。
「セリス、また何かに巻き込まれたのかなあ」
「……否定し辛いのが困る」
「ダヨネー」
笑っていいのか微妙なラインだから、相棒からの否定の声も弱い。
「……まあコレが公開されたって事は、うちからも何らかの動画を出す準備をしているんじゃないか?」
「ああ、それはありそう」
色々とできるのに必要以上を出し渋るあの人と、配信者に対して前向きに動き出している彼女。
どういう経緯で始まったのかはさておき、コレが目に見える形で発信されたならたぶん間違ってはいないだろう。
「今日のうちに繰り出してるんなら、EFOの方にまだいるんじゃないか?」
「……そうだね、ちょっくら突撃して来ようかな!」
まだ遅いと言うほどでもない時間帯、心配の方に気持ちが傾いていた所、相棒が援護してくれる。
撫でられていた手から離れつつ、ソファーから立ち上がって色々と散らかしていた準備のアレソレを引っ込める。
「それじゃ、行って来るね!」
軽い返事を聞き流しつつ、ゲームの方へと移動して彼女を見つけるまでにほんの少し。
そして後から「必勝動画」なる問題作に気づき、ゲームの界隈で話題を掻っ攫う様に笑い転げるまでに数時間。
気分転換というには十分すぎる程楽しませてくれる、そんな得難いギルドが大好きだ。