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ドキンダムシスター、バイクで駆ける。

「バイクはスピードアタッカーで-9000で封印で

 ハンデスでトリプルアタッカーでシールドを剥がせるんですぅ!!!」


相変わらず脱カードゲームできない女がここにいる。


「お前はいい加減カードゲームやめろ」




もし自分の人生を乱数を制御できたらどのように生活するだろうか。

彼女は彼女の命運故に自らの活動に制限を課している。

それは例えば宝くじを買うとか、ギャンブルをするとかである。


一時期、俺は彼女に言ったことがある。

そんなに運勢が良いのであれば賭け事をやればいいじゃないかと。

そうすればもやし生活とはおさらばできるじゃないかと。


「そのようなことをしてしまえば、たちまち私は神の加護を失うでしょう」

「神の加護? お前の並外れた運の良さとかか?」

「それもですが、神の代行者としての力そのものすら失う可能性があります」


心なしかそういう彼女は誇らしげである。


「まぁ運がいいことは悪いことじゃないが、代行者の力ってのはその……」

「当然この世にふさわしくない者を亡き者にする力です」

「俺としちゃあそのままそんな力はなくなっちまったほうがいいと思うけどね……」


運がいいのはいい。

悪いよりはマシだ。

だが人を殺める力など碌なものじゃない。

まして良い悪いは別としてこんな常識を欠如した人間にこんな力を

当たることが俺の尺度からすれば理解しかねる。


最も神なんてものは人間の理解を超越している存在だろう。

考えてることも違うのかもしれんが。


まぁそんな事を俺は思っていたが

彼女は「何故ですか?」という顔をしていた。

あいにくと俺にそれを回答を持ち合わせてハイなカッタ。





「まぁそれはそれとしてだ、どうせなら実際にバイクでも乗ってみたらどうだ?」





どうやらバイクというのは架空のアイテムか何かと思っていた彼女を連れて

俺達はバイク屋に来ていた。


「デュエプレでしかバイクは見たことがなかったのですが

 バイクは人型の形状ではないのですね」


頼むからでかい声でカードゲームの話をバイク屋の前でしないでほしい。

ただでさえ存在しない俺の社会的尊厳がマイナスに振り切れるような気分になる。


「実際のバイクっていうのはこういう二輪、タイヤが二個ついたエンジンの付いたものだな」


連れてきてから思ったがこの女、当然のように免許は持ってなさそうなんだよなぁ。

失敗したかと思ったがこの「見た目の女」がバイクを眺めているのである。

ニコニコした店の店主が当然のようにでてきて彼女にバイクについて解説を始めてしまっていた。


「お嬢さん、バイクに興味があるのかい?」

「ええ、実はバイクというものを初めてみまして、乗ってみたいと思ったんです!」

「初めてって……はは、冗談がうまいねぇ、免許は持ってるのかい?」

「免許? 免許ってなんのことですか?」


まぁなんか免許も持ってない、服装も完全に「アレ」ということで

ヒジョーにチグハグな会話をしているのだが

美人というのはこういう時、得である。

多少頭が悪い会話をしていても大目に見てもらえるし

女性の場合、男性にとって色々知ってて頭のいい女より

多少知恵足らずぐらいの女のほうが男はマウントを取れるので気分良くなるから

人間関係が円滑に進みやすいのだ。


しかし世の中外見がいくら良くてもどうにもならない話が彼女にぶち当たるのである。

つまり「お金がない」のであるが、それは暫く先の話。


笑ってはいけないのだが、バイク屋の店主は彼女にママチャリを推めていたのである。

たしかにこのお店はバイクの他に自転車も売っていたのだが……

しばらくほっぽらかしておいたら完全にママチャリを推められている。

まぁ免許もないし、そうなるとそうなるか……という感じではある。


そんな彼女の近くに行って俺は言った。

「店長さん、すみません、ご迷惑かけてしまってませんか?」

「おお、旦那さんですかね? 迷惑なんてことはないですよ」


……間違ってもこのヤバい女の旦那ではない。

が、いちいち言うあれこれ言うのもめんどくさかった。





「ええ、違います」


だが人間譲れない一線もあるというものだ。

なにか首筋が一瞬切れるような感覚を感じたがきっと気のせいだろう。


「ただ、こいつバイク走ってるところもあんま見たこと無いっぽいんで

 店長さんなにかデカいバイクちょっとでいいから走らせて見せてあげてほしいんです」


そういうと店長さんは店の奥の方にあるなかなかデカそうなバイクを持ち出してくれた。

そんなバイクを見て彼女は言う。


「複雑な形をしていますね……まるでパイプオルガンのようです」

「ハハハ、実際このバイク作ってる会社はバイク作る技術で楽器も作ったりしてるからね」


そういいながらエンジンを駆けるとレバーを回してエンジンを吹かしてみせる。

そして店長はそのままバイクを発信させると急発進し、50m程度進めたところで

反転させて戻ってきた。


「なるほど、こればバイクというものなのですね、

 たしかにこれは大型クリーチャーも倒せそうです!」

「クリーチャー?」


店長は顔に?を浮かべながら話を聞いていた。


「あー気にしないでください、時々意味わからないこと言うんで」


不審な顔をしつつも店長は出したバイクを店の奥にしまっていき

商売人の顔になりつつ今度は自転車の話をし始めた。


「こっちはエンジンもないですが、当然免許も必要ないですし

 女性でも歩くよりは全然楽ですよ!」


そういい、彼女に再び自転車を勧め始めたのである。


俺は少し気になり、それとなく話しかける。


「……ちなみに自転車はわかるのか?」

「自転車はわかります、乗ったことはありませんが……」


そもそもこいつがいつどの時代の人間なのか

どういった知識ならもちあわせてるのかすら俺は知らない。

少しは互いのことに興味を持つべきなのかもしれないが

そんな事に精神を割く余裕があれば俺はとっくに社会復帰を果たしているだろう。


店長は良ければこれに乗ってみてくださいということで

いきなり試乗が始まったわけなのだが彼女は果たして自転車乗れるのだろうか。


最初は後ろから支えてあげたほうがいいだろうか。

俺は運動神経が悪くてなかなか自転車の補助輪が外れず苦労した思い出を思い出した。

彼女も一見戸惑ってるかのようにも見えた俺は声をかけた。


「大丈夫か?初めてだとうまく乗れない人もいるんだが……」


といった瞬間である。

猛烈なスピードで自転車のタイヤは回転を始め、あまりに凄まじすぎる

回転速度にタイヤは空転してスリップを起こし始めた。


このままでは転ぶ!

そう思い駆け寄ろうとするとこの女はペダルから足を離して地面を蹴り上げると

一気に自転車を走らせ始めた。


……あれママチャリだよな?

俺の知ってる自転車の速度ではない。

あっという間に自転車は点になりドコかに消えていった。

普通に並走してる自動車より速度が出ていて意味がわからなかった。


そして30秒したほどだろうか、走っていった方向から凄まじいスピードで

再び自転車が走ってきてシスターはブレーキを駆けると横滑りさせて

無理やり自転車を自分の足を使って止めたのである。


一体時速何キロでてたんだ……少なくとも車より早かったし50km以上でていただろうか。


「お、お客さん……そんな服着てるし、てっきり運動はからきしかと思ってたけど

 本当は競輪選手かなにかなんですか?!」


店主も思いっきり動揺している。

正直俺も同様が隠せない。


「いえ……外出時に見かけたことはありましたが乗るのは初めてですわ」


そんな彼女はとても気分の良さそうな顔をしていた。

めちゃくちゃ強烈なブレーキングをしたためタイヤが若干剥げてしまっている。


「まぁ正直ここまで漕げると思ってなかったんだが……一応まかりなりにも商品だぞ」

そういい、俺は自転車のタイヤを指さした。


それをみると彼女は動揺し謝罪した。


「す、すみません、てっきり走らせることで消費するものだと思ってなかったものでして……」

「い、いいってことよぉ……正直乗り方わからない人間に好きにさせたこっちにも

 責任はあるからよぉ」


優しい店長さんである。少しぴきってそうな雰囲気はあるが。

しかし我々は大きな問題があることにまだ気がついていない。


「もし気に入ったならその自転車、買ってくれてもいいんだぜ!? どうだいお嬢さん?」

「おいくらぐらいするんですか!?」

「今乗ってたやつでいいなら1万円でいいぜ、どうだいやすいもんだろ?」


……。

こっちを見るな。こっちを。


「無いもんはないぞ」


店長さんは彼女の顔色をうかがいながら話しかける。

「お嬢さん、いくらなら買えそうだい?」


優しい店長さんだ、しかしヒジョーに残念なことに

その女にその自転車を購入する能力はない……。


彼女は元気が良かったさっきと打って変わって泣き出してしまった。

ーーおもちゃを買ってもらえないガキじゃないんだぞ、勘弁してくれ……。


そしてそれはものの見事に俺の方に飛び火してきた。


「おいにーちゃん、奥さんじゃないにしろ知らん関係でもないんだろぅ?

 やすくしてやるから買ってあげたらどうだい」


いやいやいやいやいや……。

そんな金があったら困りはしないんだよと。





……結局俺は泣き落としという女の最大の武器のせいで5000円の出費を強いられた。

タイヤが剥げてしまって実質新品としてはもう並べられないということで

大サービスということで5000円にまけてもらったのだ。


店も俺も大迷惑な話である。

だが彼女はとても満足げに毎日出かけては自転車で爆走しているらしい。




毎日彼女が走るコースは近隣住人の間では「デッドゾーン」と呼ばれて恐れられているらしいが

それはまた別の話。

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