シスター看病する
閑話休題、まぁそんな話もあった程度の話。
時は遡り、彼女がカードショップに行った翌日になる。
案の定わかってはいたが自分は翌日起きたのは夜の20時。
寝たのは前日の21時ぐらいなので約23時間ほど寝ていた。
途中目が冷めたりもしていたが体が重すぎて動けなかった。
日頃動いていないのもあるが何より脳が拒絶反応を起こしていて
気持ち悪いような、無理に起きようとすると吐きそうな衝動が来る。
まぁいつものこと。
病院への通院などもありそういう日は決まって翌日は終わってた。
病院などは数時間の外出だからそこまで目立ってダウンすることもないが
前回はほぼ丸一日外出だったからまぁ反動もデカい。
正確に言うと少し違うことがあったとすれば、目が冷めて起きてみれば
えらい心配された事だろうか。
目が冷めて起き上がったとき、彼女は駆け寄ってきて大丈夫ですか?
と言われたとき、寝ぼけていた俺は「おはよう」等と呑気なことを言っていた。
「てっきり童話のように一生起きないのではないかと思いましたわ」
まぁ普通の人はそう思うっちゃ思うか。
自分にとってはよくあることだが。
……少しいい香りがする。
寝起きは空腹と尿意に大抵襲われる。
当然だ、約23時間も寝ていれば人間として必要な機能がまず働こうとする。
トイレに立ち上がろうとしたことでいい香りの正体はわかった。
コンロの上に鍋が置いてあった。
兎にも角にも済ますものは済ませ、戻ってくると彼女はコンロの火をつけ
鍋を温めていた。
匂いに惹かれてコンロの前にいる彼女の近くになんとなく寄っていくと
「もし食べれそうならと思って。 お腹の加減は如何ですか?」
「あーお腹へった。 良ければ食べたい……」
「そうですか、では温めるまで少し待っててください」
起きたばかりでまだまだ気だるい。
それでもいつもなら自分で食事も用意しなければならない。
正直俺ももう40だ、嫁さんなども期待できないし、親……もうしばらく顔も合わせてない。
なので人に料理を作ってもらうことなどもう一生無いと思っていた。
一人のときは重たい体を引きずってでもカップ麺でも作るか
少し高いがカロリーメイトなどをぼりぼりとくって急場をしのいでいた。
体が重い。だが俺はコタツ机の前に座って待っていた。
彼女は黙ってコンロの前に立っている。
やがて彼女が鍋をそのままもってきたので俺は鍋敷をそっと差し出す。
彼女は「ありがとうございます」というとそこに鍋をのせ、再びキッチンに向かうと
茶碗とスプーンを持ってきてくれた。
「さあ、お口に合うかわかりませんが召し上がってくださいな」
そういいながら彼女は茶碗にお玉で雑炊をとり、スプーンをさして
こちらに渡してきた。
俺は両手を合わせ
「いただきます」
というとありがたく雑炊をすすった。
卵と米だけのシンプルな雑炊だが美味しい。
めんつゆなどで味はつけてあるようだ。
何故か……俺は少し目頭が熱くなったが、感情をリセットした。
続けて雑炊をほうばり続ける。
「少し多めに作ったので残りも良ければ食べてください」
そういうと彼女はいつものようにスマホを取り出して没頭し始めた。
結局、俺は全ての雑炊を食べ尽くし
「ごちそうさま」
というとキッチンに鍋を運びとりあえず水に浸した。
流石にすぐに洗う元気はなかったので居間に戻ると
布団の中に戻った。
布団の中に入ってスマホを俺も覗いたが特筆するべき事柄はなかった。
そんなスマホごしに彼女の様子をうかがった。
特になんの気もない、いつも通り彼女は彼女でスマホをいじっていた。
心身が弱ってるとき、どうしても弱みを見せたくなる時がある。
しかし俺はいつも一人だった。
「どうしてここに来たんだ?」
言葉も交わす相手はいない。
彼女はスマホから顔を離すとこちらを見た。
「残念ながら特別な理由はありません。
というより私自身何故ここが選ばれたのかもわかっていません」
そんな彼女に特別な表情はない。
見た所特になにかの不安を感じている様子もない。
「自分がよくわからんところに飛ばされてきて不安だったりしないのか?」
「そうですね……特にどこに飛ばされてもやることは代わりはないので」
そういえばこいつにはすることがあるんだったな。
世を良くするために人を殺すとかメチャクチャなことを言っていたが。
強い人間は人を殺すということに抵抗感がないのだろうか。
俺は弱い人間だ、だから人が殺されるということだけでもそれは怖い。
「そういえばこっちにきてから特になにもしていないがそういうのは……かまわないのか?」
直接的な表現は憚られた。
気分じゃないしそういう雰囲気でもない。
ただ彼女は理解したようだ。
「特別、殺す必要のある人物がいれば殺しますが……
さしあたって今のところは身の回りにそのような人はいませんし
なにより……」
そういうと彼女は私の目を真っ直ぐ見ていった。
「貴方のような善人が殺してほしくないと思っているようなので
特別なことでもなければ殺すことはやめようと思いました」
はは……善人か。
「俺が善人かは怪しいところだがな。 決して世間から褒められるような生き方はしてない」
そういいながら俺は目を逸らした。
彼女はどんな顔をしているかはわからない。
ただ俺はきっとひどい惨めな顔をしているだろう。
だから見ていられなくなった。
「誰にも迷惑をかけない人などいませんよ、その事を気に病む必要はないと思います」
俺は泣きそうになった。
「そりゃそうだ、そう思うなら家賃払え……」
布団に顔を押し付けたまま俺は言った。
「それは無理な相談です、私は日給400円ですので」
「お前のせいで無駄な出費が増えた……」
「そのうち出世したらお払いしますわ」
「お前の世界で出世とかあるのかよ……」
「失礼な人ですね、そのうちと言ったらそのうちです」
「ギャンブル中毒者みたいな言い訳してるなよ……」
そんな事を言っていると水道の流れる音がした。
充血した目を音の方に向けると彼女は鍋の後片付けをしていた。
「……ああ、そこまで気を使わなくてもいい、おいておいてくれれば後でやるから」
しかし彼女は俺の言葉など気にせず手際よく作業を済ませてしまったようだ。
戻って来る彼女の足音がする。
「私の大義ではないですが、貴方のような者が気をやまずに済むようにすることも
私は大事だと思ってますから」
なにか頭の中から少しだけ光が差したかのような感覚。
少しだけ彼女の方を覗くと……
相変わらずスマホに向かってギャオっていた。
「またこいつ私のツイートに噛みついてきましたわ! 一体何が悪いっていうんですか!」
「……お前もうマジでXやめろって」
「そんなこと言ったって私が何をしたっていうんですか!」
ほんの少しだけ彼女のことがわかったかもしれない。
そんな名前も知らない女の話。




