過激派シスター爆誕
本当はシスターを関西弁にしたかったけど諦めたっていう話。
なおこの話はコメディです。
特定の何かを上げ下げする目的はありません。
激しく眩しい光とともに突如現れた女性は
まるで中世の世界観から現れたシスターかのような佇まいでそこに現れた。
そして彼女はこういった。
「我、神の代行者として今ここに参上した」
そう言いながら彼女は左手で首から下げた十字架にキスし
そのあと刀を抜き出していった。
「さあこいつでどいつを臓物ぶちまければ人々の信仰を深められるかなぁ?」
俺の名前は幸太郎。
しがないサラリーマン・・・だった。
なんてことはない、特別過酷だったわけでもないが激務の日々と
持ち前の虚弱体質がうまくコラボレーションした結果、
貯蓄を切り崩しながらかろうじて生きながらえている中年である。
なにかの魔法陣を描いて黒魔術を実施したわけでもない。
交通事故にあって転生したわけでもない。
ただただしんどい体を動かすのも辛くて布団にこもりながら
スマホでXを眺めていたときの出来事である。
Xという媒体では様々な情報が雑多に流れてくる。
その日はたまたま与党の総裁選が行われており
どうやらその結果は多くのネット民から支持を集める人物とは違ったようだ。
私は特別その手の発信をする人間をフォローしたりはしていないが
嫌でもその手の情報は流れ込んでくる。
国のTOPを決める話ではあるのでそれはそうなのだが
ある意味社会からドロップアウトしてしまった自分からすると
野となれ山となれという気分だったのだ。
そんなときだった。布団にこもりながら横になりながらスマホの画面を見ていた
自分の後ろからとてつもなく眩しいなにかの光が溢れ出てきたのだ。
外観は絵に描いたような美しい、金髪碧眼で服装に違わぬ聖女のような佇まいなのだが・・・。
手には発言に違わぬ物騒な代物。そして何よりゾッとするような何かを見下しているかのような
冷たい目だった。
自分はまずこのあまりにありえない非日常に困惑しすぎて身動きすら取れない状態だった。
ただ彼女から発せられる清廉さから「逆に」布団から出ることができなかった。
下はパジャマで髪もボサボサで些か以上に恥ずかしい状態であったからだ。
そんな私に彼女は問いかけてくるのである。
「堅苦しい言い方苦手なんで砕けた言い方にさせてもらいますけど~
誰を殺せばいいと思いますか?」
…誰かを殺してなにかが変わるなら苦労はない。
些か皮肉屋な自分は思ったがそれ以上に言っている内容がやばすぎて
脳が理解を拒絶していた。
しかし彼女の顔は至って真剣というか、凄みがあるというか。
美人が本気で怒ったときのような表情である。
この世の中には確かに殺したほうが世界にとって良くなる人物というのは存在するだろう。
だが実際問題それをやるっていうのはどうなんだ?という話であり
至極真っ当な人間であればあいつ殺してよとも言いにくいわけで。
ただ10秒ぐらいうーんと唸りつつたどり着いたのは
「こいつなんで俺の家に勝手にいるかわかんねぇし頭おかしいやつかもしれん
というかほぼ間違いなく頭おかしいからなんか理由つけて出てってもらったほうがいい」
という結論だった。
じゃあどうやって出てってもらおうか。
真っ当にお帰りくださいというのが筋なのだろうが・・・うーん。
なんかこの人変なこと言おうものならこっちが切られそうな「ガチな人」感あって怖い。
というか何故シスターの服に刀なのか謎なのだが
抜き出した刀は見ているとまるで吸い込まれるかのような光り方をしており
以前歴史博物館だかでみた本物の真剣の「それ」と同じ。
つまり本物である可能性が極めて高そう・・・。
下手なことをいうより適当なことをいってあしらって出ていってもらおう。
そう思った自分は何を言うべきか改めて悩んだ。
なんてことはない、ただの思いつきだがちょうど見ているスマホを私は彼女に見せた。
「なんで人を殺さなきゃいけないのかよくわからんけど…この人とかいっぱい色んな人が
嫌がってるし殺したら喜ばれるんじゃないの?」
と画面を指差すと、シスターはがっつりこっちに顔がくっつくほど覗き込んできた。
さらりとした艶のある髪が顔に当たる。
私は文章が見えるように彼女の目線が追従できる速度でXの情報をスクロールして見せた。
彼女はふむふむと言った具合に情報に目を通している。
碧眼の瞳がスマホに映り込んでいるが、そこから彼女が真剣に情報を読み取っていることが
感じ取られる。
時間としてはほんの数秒だっただろうか。
「よし、わかった」
そう言うと彼女は立ち上がった。
……?
ふと横を見るとそこには__血まみれになった彼女がいた。
「え???」
「あぁ?」
よくみると血は固まっているようであり、独特の匂いが立ち込めてくる。
吐き気を催し、なにかに逃げ場を求めるかのようにスマホの画面を見るとそこには
『殺害』の2文字がトレンドに__理解が追いつかない。
「この者は確かに多くのものから支持されていないにも関わらず
権力の座につこうとしているようなので『試しに』にこの世からさよならしてもらったわぁ」
言葉にされるとさらに意味がわからない。。
ただこの女の何かを見下すかのような笑顔には狂気を感じる。
「お、お、お前マジなのか?! そんなずっとここここにいただろ?!?!」
「マジも大マジ。神の代行者だぞ? このぐらい造作もない」
その顔つきは神の代行者とは程遠く、むしろ快楽殺人者という言葉がふさわしい「笑顔」だった。
しかしその顔は俺を数秒みたあと不満げに歪んだ。
「お前。私のことが気に食わないのか? 気に食わないんだろうなぁ、顔にそう書いてある」
当たり前だろう。
どんな手品を使ったのか知らんがいきなり人の命を平然と散歩するかのように奪うやつに
いい顔をするやつがこの世にいるのだろうか?
少なくとも俺はその手のサイコパスではない。
しかし彼女は再びニタニタした顔になり私に向かっていった。
「心配するな、お前のような反応をする『正常』なやつは私の『対象』ではないよ」
その文言はまるで私を守護するかのようであり
その言い方はまるで「お前は評価にすら値しない」という
私の『傷んだ心』をえぐるような物言いだった。
『それこそ』が沈んでいた私の心の薪に火をくべた。
「お前、自分がしたことが理解できているのか?」
義憤を感じていた。
いらぬ世話を焼きすぎる悪い癖。
別に自分の知らない赤の他人が一人死んだだけ。
だがこの『女』の態度が気に食わないという事が燃料となり
いうべきことを言うという『不必要』な言動に私はでた。
私のその物言いに女は表情を変えず
「何をそんなに怒ってる? 社会のゴミを一人消しただけだろう。
それとも何か? もっと他にお前にとって殺してほしいやつがいたのか?
悪いやつなら今からでも殺してきてやっていいぞ?」
そんなことを言ってのけた。
こいつは人間じゃない。
『化け物』だ。
しかもこの化け物は性格が化け物なだけではない。
どういう手品を使ったかわからないが本当に人を殺すことが出来る
本物の化け物のようだ。
震える声を押さえつけるように声を出した。
「もし……お前が本当にやったなら……お前がお前自身を裁くべきだ」
自身は振り絞って言ったつもりだったが
長らく声を出さない生活をしてきたせいか
大した声量もでず、かすれた音で声が出た。
「私が私を裁く? 何を言ってるんだ?」
恐る恐る化け物の顔を覗くと、そこには本気で悩んでるシスターがいた。
「……本当にわかってないのか?」
「ああ、よくわからないから教えてくれ」
……マジかこの女。
自分がしてることわかってないのか?
色んな意味で正気じゃねぇなこれは……
「俺がこの人がーっていった訳だし、俺の責任も少しはあると思うけどよ……
正直周りの人が悪いだのなんだの言ってるだけで殺されてたら
そのうち地球から人類いなくならないか?」
「どうして?」
「どうしてってマジで言ってるのか?
この世の中悪人もいっぱいいるんだからそいつらがいい奴を悪いって言ってたらどうするんだ?
悪人の片棒をかつぐことになるぞ。ちゃんとそこまで考えてたのか?!」
些か自分の口調は早口のオタクみたいになりつつあった。
「ふむ……確かにお前の言うことは正しい。
つまり正しいことを言ってるお前の言うことは正しいのではないか?」
『化け物』が鳴りを潜めるかのように真剣な顔で問い詰めてくる。
「まぁ正しいかはそっちで判断してくれよ。
たしかに俺は自分を悪い人間だとは思ってないけど
このスマホに映ってる奴らが言ってることは正しい保証はどこにある?
正直俺も自身はねぇよ」
ふむ。と眼の前のシスターはやや下を向き、口元に手をやり、考え込み始めた。
人の生死に関わることを考えるのはいいことなんだが
そのムダに高い実行力は政治家に必要なものでお前に必要なものではないと言いたい。
「わかった」
シスターはそう言うと指をパチっと弾き音を立てると
突然周りに立ち込めてた血の匂いが消え、彼女が被っていた返り血は消え失せたのだ。
もしやと思いスマホを見てみると今までの殺害や死亡といった
物々しいトレンドは消失していたのだ。
そんな俺の様子を見ながら彼女はドヤ顔で言ってきた。
「私は間違った裁きを行った場合、それをなかったことにも出来る
だから安心しろ。正直さっきまで私を見る目が怖かったぞ」
いやいやいや……何でもありかよこいつ。
「ただ取り消しを行う場合、私は上長から始末書を書かねばならない!」
「いや上長って誰だよ!」
「上長は上長だ!」
「会社かよ!」
神の世界にも中間管理職があるのだろうか。
リアルにリストラという名の『首切り』がありそうでなかなか怖い世界だ。
なんだかこんなやり取りをしていていい加減疲れたというか
馬鹿げてきた俺は深い溜め息をついた。
「……で、結局なんであなたは私のところに来たんですか?」
もしかして俺が神に選ばれしなにかにでもなったのだろうか……?
こんな迷惑な女を送りつけられるぐらいなら
交通事故にあってありがちな転生でもしたほうが嬉しいんだが。
しかしこの女はなにかしたり顔でこっちを覗いてくる。
「もしかして自分は神にでも選ばれちゃったとかおもいましたかぁ?」
ちょっと鼻にかかった腹の立つ声で言ってくる。
「別にそこまで思い上がっちゃいない」
というか正直若干というかかなり迷惑だ。
「実は、この世の中いい人っぽい人には宝くじの1等賞は絶対当たらないって知ってましたぁ?」
「なんだよその地味にリアルっぽいオカルト話は」
「そんなちょっとかわいそうな感じの人1億人ぐらいからあみだくじで
あなたを選びました!」
ちょっと嬉しそうに言うのが逆に腹が立つ。
「てか1億人分もあみだくじしてんじゃねぇよ! 絶対無理だろ!」
「そこは文明の利器コンピューターで解決しました!」
「神様コンピューター使ってんじゃねぇよ! もっとなんかこう世の中のためになることしろよ!」
「そのために私が来たんです~というわけでぇ末永くよろしくお願いします!」
お前は何を言っているんだ。
ミルコ・クロコップもそう言ってるよ。
「あのな、そもそも俺がいいやつってなんでわかるんだよ。
俺の考えてることがわかるのか?」
そういうと彼女は急に俺が寝転んでる布団の中に入り込んできた!?
心を病んでその手の事とはだいぶ久しいのだが流石に生身の女が
いきなり抱きついてこられると心の整理が……
「離れていても雰囲気はわかるんですが
密着させることで相手の心を読むこともできます……えっと
胸が……でかい?……
次の瞬間私の視界はくるくると回転した。
初めて体と頭がバイバイした瞬間であった。
本日のキルスコア2