黒騎士(くろきし)
黒騎士。
黒騎士とは、かつて用いられていた強化兵士の一種である。
商品名を黒物質と呼ばれた着色された万能物質であったナノマシンは、当初、この世界の再構築に最適であるとされ、諸々のものに使われていた。しかし、それが原初から存在していた、ほんの単純な悪意のプログラムに染まることで、感染性のある汚泥と化すことが判明し、黒物質は廃棄された。
ハローグローブにおいて、悪意汚染された汚泥の存在と囚人と名前がつく前の泥の獣と言われる敵対的な存在の駆除において、当初、白物質を中心としたナノマシンの投与によりつくられた白騎士と呼ばれる強化兵士が用いられていた。やがて白物質の上位互換である白騎士物質の開発に至り、それを投与された白騎士は汚泥に対する強力な対策と見られていた。
しかし、人間由来の弱点があることや汚泥に対する耐性がどうしても弱くなることから、犠牲は大きかった。
そこで、代わりに作られたのが黒物質を改良した黒騎士物質を利用した強化兵士である。
人間由来の弱さを補うため、初期ロットの彼らは完全に一からデザインされた人造人間であった。
その人格は創造主αがかつて親しんだ作品と、当時の開発スタッフを参考にしたと言われているが、定かではない。
後期になるにつれ、白騎士の複製を使った黒騎士や、人間から改造されたもの、著名黒騎士の複製体も作成されたが、優秀な黒騎士は、概ね初期ロットと同じ人造人間であった。
黒騎士は、白騎士と違い脆弱ではなかった。
強い彼らは、汚泥の除去や泥の獣の駆除に功績を上げた。
創造主αは、彼らを身近に置いて身辺警護に当たらせるほど信頼した。一説には、創造主αは彼らを契約で縛っていたという。
そんな黒騎士は、最盛期三桁を超える数が造られ、中央局の上層在籍し、うち十数名ほどは恩寵騎士としての栄誉も受けた。
しかし、プロテクトを強化されたとはいえ、彼らは黒物質を持つものであり、一度突破されると、その人格は悪意により、容易く書き換えられてしまう。
その危険性に、創造主αですら気づいていなかった。
ある時、黒騎士は一部を残して叛乱を起こした。強力な黒騎士達は汚泥を身に纏いながら、中央の兵士たちに襲いかかった。
その後、多数の犠牲を出しながらも、乱は鎮圧されている。
現在では公式に黒騎士はいないものとされ、黒騎士の情報は開示されていない。
黒騎士を参考に作られた黒物質を投与された不死身の強化兵士獄卒が作られているのみである。黒物質の人体への影響を考え、獄卒となるのは重犯罪者のみであり、劣化版とも言える彼らの質も黒騎士たちと比られるものではない。
黒騎士はすでに、管理局でも知るものも少なく、公式書類からも名前を消されている。
しかし、叛乱に加担しなかった数名の黒騎士は、今でも生存しているという噂もあった。
これは、我々、管理者直属の調査員にも詳細が明らかにされていない。
しかし、一部、特別扱いされている獄卒のうちのいくらかに、その黒騎士、もしくは黒騎士の複製体が存在するのではと推測されている。