大神殿地下 ギラと精霊の目
「メイフィン……!?」
「ルロ……それにギラ、か」
どうやらメイフィンの知り合いらしい。彼女は小声で2人の男性について教えてくれる。
「手前にいるのがルロ。奥にいるのがギラ。2人とも四剣四杖だ」
「ギラ……ああ。まとめ役だっていう……」
実質〈アドヴィック〉の代表みたいなものだろう。
そのギラはといえば、右肩にレーザー光のようなものを受けていた。
(いったいなんなんだ……ここは……)
立方体はなんらかの金属でできていた。中も同様だ。中心部には台座があり、そのそばにギラが立っている。
彼の周囲にはさまざまな高さの棒が立っており、その先端部から右肩に向けてレーザー光が走っていた。
これだけでも意味がわからない。ただの遺跡じゃないことはわかる。なんというか……そう。高度な文明の香りがするのだ。
そもそも湖底にこうした施設が建造できている時点で、相当な技術力があるのがわかる。遺跡自体が機能している点も見ると、とても古の時代に作られたものだとも思えないが……。
俺とメイフォン、それにリュインはゆっくりと下へおりていく。ギラはその場から動かなかったが、ルロという男は両手にそれぞれ剣を持ち、こちらを強く警戒していた。
「見張りがいたはずなんだがな……?」
「観念することね! あなたたちが〈精霊の目〉を奪い、ここでなにか悪だくみをしているのはお見通しなんだから!」
リュインが正面にビシッと指をさす。まぁだいたいアハトからの報告なんだが。
「四聖騎士の暗殺も失敗に終わったぜ。残りの四剣四杖もお前たちだけだ。残念だったな」
「なに……? メイフィン、どういうことだ……?」
ルロに問われたメイフィンは、あきらめたように口を開いた。
「聞いてのとおりだ。わたしは任務に失敗した。いまは……捕虜のようなものだ」
「捕虜て。ブラックな職場をやめて、スカウトにこたえて転職したってだけだろ?」
まだまだメイフィンから情報は聞ききれていないが、いまの時点でもかなり有用な情報を得ることができている。手を組むうえで互いにメリットもあるし。
「んで? おまえら、ここでなにしてんの? ここはなにをする施設なんだ?」
「ち……!」
ルロという男は問答無用で斬りかかってきた……が。
「うぁ…………!?」
急に倒れこんだ……いや。針が俺の後ろから飛び、それがルロに刺さったのが見えていた。
答え合わせをするように、メイフィンが俺の隣まで歩いてくる。
「毒針つかった?」
「ああ。もともとこいつは気に入らなかったんだ」
「ぐぅ……っ!!」
どうやらメイフィンとすこし因縁があったらしい。まぁ暗殺を生業にしているような組織のトップたちだし。いろいろ問題を抱えていてもおかしくはないか。
だが倒れこんだルロに変化が生じる。白目をむいて泡を吹き、全身がビクンと痙攣したのだ。
これは……覚えがある……!
「おいメイフィン……!」
「ち……! 奥歯にクスリを仕込んでいたか……!」
まじでそんな奴いんのかよ! なにかあったときの自決用か!?
変化は一瞬だった。これまで見てきたやつら同様、ルロの筋肉が異様には発達し、内側から服が破れていく。
もうすっかり見慣れてしまった筋肉の怪物が誕生した瞬間だった。怪物はすばやく立ち上がると、叫びながらこちらに拳を振るってくる。
「ゴアアアアアアアアアアア!!」
「く……!」
「さがれ!」
リュインは真上に飛び、メイフィンはバックステップで距離を取る。俺は真横に飛んで拳をかわした。
「相変わらずすげぇ迫力……!」
まともに受ければ、この身体でもケガを負ってしまうだろう。
俺はフォトンブレイドを取り出すと、今日何度目になるかわからない光の刀身を出現させる。
「おおおお!!」
「ルアアアアアアアアア!!」
怪物はタックルをしかけてきたが、激突の瞬間に深く腰を落とす。そして下からすくいあげるように、フォトンブレイドの刃を振るった。
「ギュルアアアアアア!?」
怪物の片腕が宙を舞う。俺はそのまま重さのない光の刃を、複雑な軌道を描きながらなんども振るった。
全身のあらゆる箇所を斬り刻まれた怪物は、そのまま床に崩れるように倒れこむ。
しかし……この怪物。もうすっかり慣れてしまった感がある。変化しても驚かなくなったし。
「さぁて。残りは……て、ん?」
ギラに視線を向ける。するといままで右肩にあたっていたレーザー光はとまっており、ギラ自身は額に汗をかきながらこちらを見ていた。
「あの状態のルロを……これほどあっさりと……!? それにその武器はいったいなんだ……!?」
怪物に変容したルロだったが、床には直前まで彼が持っていたと思わしき武器や道具が落ちていた。だが精霊の目らしき貴石は見当たらない。
「マグナ~! 残りは1人よ! やっちゃえ~!」
上からリュインの応援が聞こえてくる。
うーん……いつもながら戦闘で役に立たねぇな……べつにいいけど。
「マグナだと……!?」
俺の名を聞いたギラがわかりやすい反応を示す。そして彼はメイフィンに視線を向けた。
「メイフォン……! この男が……!?」
「……そうさ。大図書館の地下で戦った男だよ」
「その光の剣……! そうか、お前が……!」
うん……? 妙だな。俺の名を知っているのはわかる。大図書館でメイフィンは俺の名を知ったし、彼女をとおして話を聞いたんだろう。
だが俺はあのとき、メイフィンにフォトンブレイドは見せていなかった。彼女も俺がこの武器を持っていると知ったのは、今日が初めてのはずなのだ。
だがギラのこの反応。まるでマグナという人物は、光の剣……フォトンブレイドを持っていると知っているような感じがする。ありえそうな線は……。
「ああ……もしかして。ガイヤンに聞いたのか? 俺がこの剣であいつの腕を斬ったって」
「………………」
ギラはなにも答えない。でもまぁ……図星かな。
この男は〈アドヴィック〉のまとめ役という話だ。玖聖会と直接やり取りする機会も多いだろう。ガイヤンから俺の話を聞いている可能性は十分にある。
「ギラといったか? 精霊の目、持ってる? あとここはなにをする施設なんだ?」
精霊の目と言ったとき、ギラがわずかに視線を横に向ける。そちらに視線を向けると、台座に大きめの貴石がはめ込まれているのが見えた。
ああ……あれが〈精霊の目〉だろうか。可能性は高そうだ。
「ふんっ!」
「っ!」
ギラは俺の質問に答えることなく、大きく右腕を真横に振るう。すると全部で7本のナイフがこちらに向かって飛んできた。
器用なやつだな……! こんな一瞬で複数のナイフを投げられるのかよ……!
だが俺はまだフォトンブレイドの刃を納めてはいない。飛んでくるナイフをすべて光の刀身で弾いていく。
すべてのナイフをはじき終えたとき、ギラは壁際まで離れて距離を取っていた。
「はっは! どこへ行こうってんだ? ここに逃げ場は……!」
ねぇぜ! そう言おうとしたときだった。
ギラは刀身が青く光る小剣を取り出しており、それで空を切る。するとなにもない空間に青い断裂が生まれた。
「え……!?」
「転移の魔道具だ! 逃げる気だよ!」
「………………!」
ギラはためらいなくその断裂の中に身を沈める。次の瞬間、空間の揺らめきはもとに戻っており、そこにギラの姿は確認できなかった。
だがやつの立っていた場所には、ボロボロに崩れた小剣の破片が落ちている。どうやら使用回数に限りのある魔道具らしい。
「まさかあの状況で、ばっちり逃げられるなんてな……」
「……あの剣状の魔道具は〈流転灯〉。総帥から知恵を授かった金海工房の職人が作ったものだよ」
すげぇな金海工房。剣の形をしていたらなんでもアリかよ。まさか魔法じみた力で転移までできるとは……。
「ああ……大図書館の地下でエンブレストが青いサークルを引いていた剣も、金海工房製の魔道具だったんだな。メイフィンはもってねぇの?」
「ああ。帰還用にギラが持っていた」
クロメは青く光る小剣を持っていなかった。あの子はまたべつの方法で転移しているのだろうか。
「敵が消えたわね! ねぇマグナ。いまのうちに四聖剣がないか、いろいろ探しましょ!」
「まぁこういう遺跡なんて、なかなか来る機会がないだろうからな」
四聖剣はないと思うけど。
「……わたしはまだ毒が効いていて体調がわるい。すこし休ませてもらう」
「ああ、わかった」
そういうとメイフィンは壁際に移動し、腰を落とす。どうやら本当に体調不良のようだ。
毒は自分で用意したものだったし、解毒剤も持ってはいると思うんだけど……。
「しかし……ギラはここでなにをしていたんだ……?」
あらためて台座やいくつも立っている棒を調べる。リュインはあちこち飛び回り、四聖剣を探し続けていた。
『かなり精巧に加工されているな。どことなく大図書館最下層と似た雰囲気を感じる。年代測定はできないが、おそらく巨象とそう変わらない時代に作られたのではないか』
「それ、すっげぇ大昔の話だろ? 今も動くってありえるのか?」
『普通なら考えにくいが……この星にはわたしたちが解析できないエネルギーがある。ぜったいに不可能だと決めつけることはできん』
まぁそうか。俺はリリアベルのリクエストにこたえつつ、いろんな場所を調べていく。その途中で〈精霊の目〉と思わしき貴石を台座から取り外した。
「おお……でっか……」
その貴石は手のひら大くらいのサイズがあった。緑に輝く水晶という見た目だ。よく見ると中心部には小さな炎のような揺らめきも見える。
『ふむ……持ち主の魔力を向上させる機能があるのだったか。おい。こいつはわたしたちで回収するぞ。神殿長たちにはここにはなかったと適当に言っておけ』
「え……!? リリアベルさん、それ泥棒……」
『働きに対する対価だ。そもそもこちらには、アハトがエドを追い詰めたという成果がある。報酬にもらうしてもすくないくらいだろう』
そりゃこの国からすれば10年来の仇敵であるエドを追い詰めたというのは、かなりすげぇことだろうけど……!
たぶんリリアベルのことだから、そんな出来事がなくてもここで〈精霊の目〉を回収するつもりだろう。
「んでもどうやって持ち出すよ。このサイズじゃ、懐に入れても目立ちそうだし……」
「どうした。そいつを内密に持ち出したいのか?」
体調が多少は回復したのか、メイフィンがこちらに歩いてきた。
リリアベルの声は聞こえていなかったはずだが、俺の様子から〈精霊の目〉を持ち出そうとしているのがわかったらしい。
「まぁそんな感じだ。これが〈精霊の目〉でいいんだよな?」
「……そのはずだ。わたしも見たのは1度だけだったが……このような貴石、そうそうにあるものではないからな」
そういうとメイフィンはこちらに手を差し出してくる。
「貸すがいい。わたしなら隠しながら持ち出すことができる」
「え? マジ?」
俺は疑いもせずにメイフィンに〈精霊の目〉を手渡す。すると彼女はそれを持ったまま、一回転して見せる。
次に正面向いたときには両手に〈精霊の目〉は見当たらなかった。
「え!? どこいったの!?」
「ちゃんと持っているから安心しろ」
薄着なのに……! いったいどこに隠したんだ……!? き……気になる……!
しかしさすが暗殺者。武器や道具を隠すのはお手のものってわけか。
「……おそらくわたしは、四聖騎士を狙った罪人として身柄を拘束されるだろう。だがお前がこのままこの国からわたしを連れ出してくれれば……」
「〈精霊の目〉を国外に持ち出せる、ね」
ちゃっかりしてんねぇ! つまりあとで〈精霊の目〉を渡すから、このまま国外へ連れ出してくれと言っているのだ。
それには俺が矢面に立って「彼女の身柄はわたしませーん」と言わなければならないのだが。
……え。一番大変なの、俺じゃない?
『いちおうメイフォンの身体情報を、転移装置に登録しておく。だが時間はかかるぞ』
いざとなれば、聖都に設置した転移装置でシグニールへ飛ぶこともできる……か。
まぁまだこの国はいろいろあれそうな予感があるし。どうするかは様子を見ながらになるな。
「わかった。ならそれでいこう。ぜったいになくすなよ?」
「ふん……わたしをだれだと思っているんだ」
暗殺できない暗殺者……と言おうとおもったが、怒られそうなのでやめた。
なんだかんだで甘いとは思うが、これでメイフィンに恩が売れるのも事実。きっとエンブレストの行方ふくめ、素直にいろいろ教えてくれるだろう。
「うーん……四聖剣、ないわね……」
「だろうな……」
リュインもあきらめたのか、こちらへ飛んでくる。
俺たちは〈精霊の目〉に関する口裏合わせをしつつ、立方体から出たのだった。




