第三話:ティータイムと洒落込みますか
「知らなかったならしょーがないな!それでリアラは何でこんなとこで寝てたんだ?」
「わたしは⋯⋯詳しい事は言えないの。 だけど。家を⋯⋯実家を追放されたの」
うわ、美味いっ!このソーセージみたいの!
真面目な顔で話すリアラには悪いがお腹がぺっこぺこで話どころではない。
こちとら覆面と花火だけで山賊を追い払ったばかりなもんでな!
⋯あの一悶着のあと、
俺と三姉妹は馬車の中へと招かれ、とりあえずのお礼とお詫びにと用意された昼食をご馳走になりながら雑談に花を咲かせていた。
まあ、実際に食べているのは俺だけで花を咲かせているのが女性陣なのだが。
ともかく、馬車の持ち主であるお嬢様の名前はリアラ。
付き人のメイドは俺たちを招き入れたあと再び爆睡をかましているため名前は分からない。
だからもちろん、昼食を用意したのもリアラだ。
ちなみにこれは余談だが、本日のランチメニューはホットドッグにコーヒー。
初の異世界メシ。超馴染むんですけど。
「しーちゃん聞いた!?実家を追放だって!! まさかのざまあ展開かしら!?」
「お姉ちゃん。 これ現実。 失礼」
誰よりも現実を現実として捉える気のない長女が興奮に叫び、それを三女がたしなめる。
にしても異世界コーヒー、超苦いや。
マイペースな俺、長女、三女に気を止めることもなく、次女とお嬢様は深刻な顔。
「どうして、その、追放なんてされたんだ? 何かリアラがやらかしたのか?」
「わたしが⋯⋯わたしが不出来だから。お父様やお母様の望む通りには出来ないから」
絞り出したようなリアラの言葉に次女の顔は怒りと悲しみに染まる。
その近くで、
『ざまあ系はそんなに好きじゃないのよねえ』とぼやきながらも耳をダンボにする長女とリュックサックから取り出したヌンテンドースイーチで動物達の森をスコップ片手に荒らしていく三女。
深刻そうな話をしているのだし、もうちょっと真剣に話を聞いてあげたらどうかな?――場の空気を読まない二人へ無言で訴えかけた俺は静かに机上のホットドッグに手を伸ばす。
よし、今なら食べてもバレないぞ!次女の気が逸れている今がチャンスだ!
「親の望み通りにならないからって追放!?何だそれ!? そんなの、おかしいだろ!!」
「さっしー⋯ありがとうなの。 もう気づいてると思うけど、わたしん家、貴族だから⋯仕方ないの。全部、全部わたしが悪いの!」
「ブフォッ――!」
吹き出した。 俺がじゃない。 次女の視線にビビった俺がホットドッグを喉に詰まらせて吹き出したわけではない。
メイドだ。 仰向けに寝ていたはずのメイドが天井目掛けて盛大に吹き出した。
⋯⋯きったねえー。
「お嬢様、人が寝たふりしているのをいいことに随分とご都合のよい説明をなされていましたね。 何ですか追放って。この、家出娘が」
「ちょっ、レイラ!? すぐ言うじゃん!?」
「⋯⋯家出娘?」
おお、今度の話は面白そう。
俄然、興味が湧いてきた俺は次女のコーヒーを片手に、女性陣へと体を向ける。
――ブフォッ!今度は俺が吹き出してしまった。
なんだよあの顔――
あの、壁に手を当て恐怖に震えるお嬢様の前で仁王立つ次女とは長い付き合いになるのだが、あんな顔を見たのは初めてだ。
安心してホッとした顔半分、はらわた煮えたぎった鬼の形相が半分。 それが鼻を中心に綺麗に真っ二つにわかれている。
気づけば俺は彼女達から距離をとっていた。
⋯⋯あれは呪われたおかめ納豆だ。
「なあリアラ。 嘘はよくないよな?」
「いや、あの、さっしー? 嘘じゃないの、ちょっと話を盛っちゃった感じかな?」
「ちょっと?お嬢様ちょっとですか? 普段はともかく高貴なパーティーの時くらい派手なメイクはやめなさい!と怒られた腹いせに、深夜に馬車を盗んでまで飛び出してきたのがちょっとだと?」
どんな話の盛り方だ。全然違う、違うにもほどがあるだろうよ。地球のお笑い芸人でもそこまで盛らないぞ、多分。
ギャルっぽいとは思っていたが、まさかそんな理由で家出とは。
まんまギャル。しかもかなりキツめのガチ勢じゃん。
「だっ、だってパパもママもパーティーの度に言うんだもん! というか、レイラだって何で寝たふりなんてしてたの!?」
「そんなの昼食のじゅん⋯⋯おもてなしするのが面倒だったからに決まってるじゃないですか。 お嬢様。話を逸らさないでください」
うわお、悪いほうに言い直すひとって本当にいるんだ!?
俺の中のレイラさん好感度が急上昇だよ!
そんな、甲乙つけがたい駄メイドと主人の軽快な最底辺トークを静かに見守っていた次女。
ついに、その口を開く。
「話は分かった。 リアラ、歯を食いしばって口を閉じろいッ!」
「えっ!?ちょっ!?えっ!?」
「お嬢様、失礼します」
鬼と化した次女が吠え、ダメイドレイラが主人を背後から羽交締める。
いや、誰の指示もなく速やかに状況を判断して動くあたりダメイドではないのかも知れない。動く方向さえ間違えていなければ。
「召喚!アイ姉!雫は目隠しだ!」
召喚される長女と次女。 さらに距離を取る俺。
とはいえ。なにも俺が余裕を持って一連の流れを傍観しているのはリアラが殴られるのを見たいからではない。
沙清水ねえの性格から次の行動が読めるからだ。
「うふふ、腕がなるわねっ!」
「めんどう。 貸しいちねリアラ」
「えっ何が!? わたし何されるの!?」
さて、女子会の邪魔をするわけにはいかない。
男は静かに午後のティータイムと洒落込みますか。 お腹たぷたぷだしこれコーヒーだけど。
◇
『ちゃーらー・ちゃーらー・ちゃーら・ちゃーらん・らあ〜』
俺のスマホから今は懐かしき大改造な匠の曲が流れる。
うーーむ、いつ聴いても心に沁みる名曲。ここぞという時のためダウンロードしといてよかった。
「できたぞリアラ! 流石あいねえ、匠も驚きのビフォーアフターっぷり!」
「これが⋯わたしなの!?」
そう!それがあなたなのです!なんということでしょう!
匠が手を加えなくとも王宮の丘に咲いた一輪の花のように美しかった美白のお嬢様が、匠の手により派手な目元が特徴的な現代ギャルへと変貌を遂げたではありませんかッ!
――⋯俺的にはすっぴんの方が良かったあああ!
「すごいっ! 異世界のギャルメイク?だっけ?? これぞわたしが求めていた顔なのッ!」
「我ながらなかなかの出来栄えね!気に入ってくれてよかったわあ」
馬車の箱⋯これ正式名なんてゆんだろ?
名前は分からないけど俺たちが今乗ってる、馬車の後ろ部分に接続された箱の中に設置されていた鏡。そこに映る自分の顔を見てリアラはうっとりと頬に手を添える。
長女がメイクを施している間に俺たちが異世界から来た事は話した。⋯メイクとは縁がなく手持ち豚さんな次女が話していた。
リアラもレイラさんも、それはもう驚いてはいたが、俺たちの服装や二人への接し方から納得がいったようで。
『なるほど、それでお嬢様を見ても平静を保っていたわけですか』、とダメイドレイラさんは頷いていた。
あの言い方的にリアラはこの世界では一目見れば誰もがわかるほどの有名人らしい。となると、だいたいの想像はつくな。
「タクト黙ってないでリアラに感想は? こんな美女ギャル爆誕にノーコメントなんて男としてどうかと思うぜッ?」
おっと、まさかの。
感想、ねえ⋯⋯。
「いいんじゃないかな? ギャルっぽくて。なんというか、ギャルっぽいと思う。ものすごくギャルだね!」
そんな唐突に女子の外見について話を振られても気の利いたことなんて言えるかっての。
こちとらコンビニでタバコも買えない十六歳男子なんだ。
美人三姉妹で見慣れているとはいえ、異世界のお嬢様ギャルに可愛いなんて面と向かって言えるわけがない。
⋯⋯すっぴんの方がタイプだし。
動揺を隠すためコーヒーを口にふくみ内心もじもじとしている俺を見てうふふっ、と長女が笑う。
「たっくんたら恥ずかしがっちゃって!りーちゃん、あれでも褒めてるからねっ! 本当は可愛くて可愛くて今すぐ抱きしめたい!とか思ってるからっ!」
「愛花姉ちゃん!?そこまでは思ってないからッ!!」
「そこまでは。 リアねえ。 あれが本音」
くっ、ハメられた――
だから言ったろ!?悪魔融合した三姉妹には勝てるはずがないんだよー!!
「あ、ありがとう。その、少し恥ず⋯⋯ありがとうなの」
リアラもうつむき加減で照れ笑いしながらも嬉しそうにもじもじとお礼を言うのはやめてッーーー!
何だよこの空気!冬季限定のいちごパフェより甘酸っぱいぞおい!
沙清水「ったく、とんでもない嘘つきやがってー。安心した途端お腹がグッと空いてきたわ」
リアラ「さっしー、ごめんなの!おわびじゃないけど、あっちにホントドッグがあるから食べてなの!」
沙清水「ホントドッグって⋯⋯その響きは日本人にはちょっと⋯⋯ってあれ? うちのホットドッグは??」
タクト「俺が食べた」
(座ったまま腕を組むタクトと鳩が豆鉄砲顔になる沙清水)
沙清水「⋯⋯うちのコーヒーは?」
タクト「もちろん、俺が飲んだ」
(座ったまま腕を組むタクトの頭をガシッと掴む沙清水)
沙清水「⋯⋯⋯⋯制裁は?」
タクト「コーヒーのお礼だ!グイッと飲み干そうじゃなイカ!」
(アイアンクローで宙に浮くタクトの体)
沙清水「⋯⋯うちだって異世界メシ楽しみにしてたんだああああ!」
タクト「美味かったけどコンビニクオリティーだったああああ!」
(馬車の壁にめり込むタクトの体)
愛花「ごめんね、りーちゃん。壁にめり込ませちゃって」
リアラ(わたし助けて貰う人たち間違えたかも知れないの)




