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第二話:寝起きお嬢と気怠げメイド

「ぶひぃー、行ってきまーす」


 ん? 今何か俺の発言が数瞬前とは違う醜いものへと捏造された気が⋯⋯? しかもそれが後々何かに繋がるような⋯⋯気のせいか?


 まあいいや。

 思考を止め、白馬車を狙う山賊三人組に気取られないよう慎重に歩を進める。


 奴らとの距離は多分⋯きっと⋯おそらく十メートルほど。

 近くとも遠い距離だ。これだけ間があれば作戦が失敗しても走って逃げれば何とかなるだろう。なんせ俺、50メートル走6秒台前半だしね。これまじでッ!


 ⋯⋯両手を横に高く広げ、三姉妹に到着の合図を送る。

 ――まもなく俺の背後から山賊めがけ飛び抜ける複数の光の矢と夏の夜空に聞き慣れた爆発音。


 たーーまやあーーー。山賊三人組の頭上に色とりどりなお花畑の完成だいッ!


「あっつううう!なんだ!?」

「なんなんだ!?」

「なんなんなんなんなんなんだ!?」


 目、じゃない、耳が痛いわ!


 似たような叫び声をあげ一斉に俺へと振り返る山賊三人組。

 次の瞬間、俺の顔(ムンク)を見た彼らは一字一句違わずまったく同じ叫びを発することになる。


「「「ぎゃあああまじで何なんだーーーーー!?」」」


 飛び上がる二人と腰が抜けへたり込む一人の山賊。

 ――うし!ナイスリアクションッ!


 山賊目線で今の状況をイメージしてみよう。

 うすら暗い樹海にメイドインジャパンの精巧なホラー覆面しかも無地パーカーのフードを上げているため俺の上半身は顔以外真っ黒。


 うん。普通に怖いわな。へたり込んだ山賊の下の地面がちょっと湿っぽくなっているのも仕方あるまい。


 なんかこのまま放っておいても勝手に帰ってくれそうな雰囲気だなー。


 まあ念のため、台本を進めるとしますか。せっかくだしね。楽しくなってきたわけではないんだけどね。


 マスクの下で思いっきりニヤけた俺は喉を閉め粒の粗い低音ボイスで、用意したセリフを囁く。


『ココハ我ガサズカリシ(・・・・・)トチ。キサマラノヨウナ⋯ゲホッ⋯ワカルナ?』


 ごめん、もおむりノドがむり。ウエッ!


 台本だと『立ち去れ愚者ヨ』と続くのだが⋯

 しずくとの打ち合わせ通り俺のバックに強大な存在が居る雰囲気は出せたはずだから大丈夫⋯⋯カナ?


 そんな、喉がチクチクと痛む俺の不安に。

「わ、わかった分かりました!お前の、いや貴方様の背後には魔王が、魔王様がいらっしゃるのですね!?ボクたち帰りますッ!」


 早口でこたえながらあとずさる山賊たち。

 話が早い――はやすぎるのよ!?俺のギミック、まだ何も発動してないのに!!


 くそっ、このままじゃなんか消化不良だ。

 逃げられる前に台本を進めないと!


『ソウカ⋯ナラバコレヲ喰ラウがヨイ――魔性ノ息』


 鎌をもつガイコツが人差し指をクルクルして魂を操作するイメージで。左腕のパーカーのソデから指に見せかけた着火マンの先端を出す。それを右腕に隠し持つ手持ち花火のピラピラとした着火部に接着。――着火マン。ファイアーーー!


 カチッ、と小さな押し込み音が鳴るとともに現れる赤い炎。

 それは黄色いピラピラに火を与え瞬く間に明るい光と白煙を宙に漂わす――


 どうだ山賊共!これが俺の魔性の息だッ!(手からでるけどね!)


「な、な、何で!?ボクたち帰るっていいましたよ旦那!?いや、お姉さま!? 何ですかいその魔法!?」


 この状況でムンクの性別と媚び方まで考えるとは、やるな、山賊A!


 やっべえ楽しくなって来た⋯いやいや念には念をいれて続きもいっちゃうか!

 俺は更なる恐怖を与えるため次のセリフを高らかと言い放つ!⋯と、同時に鳴り響くクラッカーの爆発音。


『コノケムリハ――(パンッ!)――⋯⋯だ』


 ――⋯おいちょい待て、しずくか!?ここまで俺に恥ずかしい思いさせといてキメゼリフのタイミングでクラッカー鳴らすとか貴様は悪魔か!?魔王か!?


『⋯⋯ガッデム』

 思わずシブイ声のまま片膝をついてしまう。


 しずくめ。絶対あとで泣かす。

 泣かされるのは俺かも知れないけど可能な限りは泣かせるようにつとめて努力してやるからな。


『⋯⋯⋯ワカッタナ?貴様ラガ悪事をクワダテルホドニ我ガ魔性ノ息ハ効果ヲ増シ貴様らの肉体を(パンッ)パンッ!?⋯⋯ダ!』


 またキメゼリフのタイミングで!次は誰だ!?

 ⋯⋯チラッと後方を振り返ればニシシッ、と笑う次女。

 ――貴様らマジモンの悪魔かッ?(暴言)

 思わず俺もパンッ、とか言っちゃったじゃないかッ!

 

 しかし山賊三人衆は予想外のうろたえっぷり。

  

「パンッ、ダ!? 声が出る前にはじけたよな!?」

「どうなってんだ!? しかも音の発生源がここより少しばかり後方な気がするぞ!?」

「うるせえ!黙れお前らッ! 全身が黒と白の毛並みに覆われるような言葉だと思わないか!? この御方は俺達にこれから先、サッサの葉を口にくわえてサラサラして生きたいのか!?って仰られてるんだよッ!」


 俺の言葉とクラッカーの音を融合させ勝手に恐怖を生み出してくれる山賊A.B.C。

 こいつら察しが良すぎないか? というか異世界にも居るんだパンダ? もしくは想像?

 何にせよ、もう悪さもしない雰囲気だしこれはこれでいいか。


「旦那ッ!⋯⋯でいいんですかね?ボクたちは帰りますッ!帰って真面目に働きます!」

「まさか山賊デビューの日に貴方様に出会えるとわ!悪いことはするもんじゃないですね!」

「えっと⋯そういう事なんで!ではまた!失礼します!」


 握っていた剣を放り投げ、『お詫びとお礼の印に! 道中で拾った物ですが!』と、見るからに高級そうな銀色のかんざしを地面にそっと置く山賊C。そのまま三人揃って転がるように樹海を降りて行った。


 ⋯⋯山賊デビューって何だよ。デビューせずともお宝拾ってんじゃんかキミたち。しかも、また会うつもりなのか?バカだなー。


「お疲れさん!ナイス演技だったぞ!」

「思ったより楽な仕事。お疲れたくにー」

「たっくん頑張ったわね〜よしよししてあげるっ!」

 

 山賊あらため山馬鹿たちの姿が明確に見えなくなると。ねぎらいの言葉を口に、三姉妹が大樹の影から姿を現した。

 近づくなり俺の頭に手を乗せる長女。


 ああ〜愛花姉ちゃんにヨシヨシされるの久しぶりだ〜やったあ〜ボクうれち〜〜⋯⋯ってなるかあーーーッ!


(しずく)沙清水(さしみ)ねえも!なんであのタイミングでクラッカー鳴らすかな!? 一応おれ命懸けで行ったんだから決めゼリフくらい言ってもよくない!?」


 さすがに怒ってもいいはず!

 俺はムンクの覆面のまま二人に迫る。


 雫の顔には変化なし。わかりやすく目が泳ぎだす沙清水ねえ。

 口を開いたのはコホンッ、と咳払いを一つした長女だ。


「たっくん。二人は、たっくんに恐い言葉を使って欲しくなかったのよ」

 

 真剣な顔の愛花姉ちゃんだが、山馬鹿が帰って以来ずっと頬が引き攣っている。

 俺は知っている。愛花姉ちゃんは笑いすぎたあと頬が引き攣るクセがあるんだ!


「ああもお!あいか姉ちゃんまで! はあ、もおいいよ! いいからさっさと馬車開けよう」


 俺は諦めた。生まれてから一度も、この三姉妹に口でかなった試しがないからだ。ちなみに俺の名誉のために言うが個別になら口論で勝った事はある。だが、三姉妹が揃った時は無理だ。こいつら、悪魔融合してエクゾディアになるんだもん。(暴言?)


「悪かったってー。これでも最初は本当に心配してたんだぜー? タクトが降りたあとにシズが『あっ⋯⋯サシねえ、言葉が通じなかったらどうしよう』って言い出してさー」

「そう。気づいた時こわかった。クラッカーはその反動」

「三人とも顔面蒼白になっちゃってねーー?不思議だけど日本語がわかる山賊さんたちでよかったわあ〜」


 ⋯⋯⋯⋯⋯もしかしておれ、めちゃくちゃあぶなかった? 今さらだけど背筋が凍って冷や汗びっしょり。先の山馬鹿の一人のように腰が抜け座り込む。


 そーいや言葉のこととかまったく考えてなかったわ。


 たまたま、奇跡的に言語が同じだったから助かった訳で。山賊目線で考えてもだ。

 突然こんな樹海に未知の言葉を発する異形のムンクが現れたところで――⋯⋯あれ?そっちの方が怖くない? 


 例えば、日本語を話す化け物に出くわすより、得体の知れない音を発する化け物に出会った方が数倍は怖い気がするのだが⋯⋯


 冷静になった今、三姉妹も同じ結論に至ったようで。

 ⋯⋯どうすんの、この空気?


「ま、まあ結果オーライだね!うん! 三人とも心配してくれてありがとね!」

「お、おう!そうだな!タクトのおかげでこの馬車の中の人も助かったわけだしな!」

「うん、たくにーお手柄お手柄」

「そうねっ!もうみんなで撫でちゃおうっ!」


 謎のテンションでワシワシと俺の頭をなでる三姉妹。

 その中央に座り込み。

 あっはっはっは、と不自然な高笑いを上げる俺。

 

 ここが樹海で助かった。

 これじゃ、危ないキノコで犬の幻覚を見る女子に頭を差し出して喜ぶ変態さんだ。


 まあこんな深くに人が来ることもないだろうから――


『ねえ、さっきからうるさ⋯⋯何してんのアンタたち!?危ないキノコでも食べてその男が犬に見えてるの!? そっちは撫でられて喜んでる変態なの!?⋯⋯こわっ!』


 誰だ!?フラグ立てたの誰だ!?俺か!?俺でした!!


 声の方へと視線を向けると白馬車の窓からこちらを凝視する美女。手を口に当てあくびをする眠たげな、俺と同年代くらいの美女。

 口調はともかく見目は麗しく。

 輝くようなツヤのある白に近い金髪と、同色の瞳。

 

 そのお嬢様が俺を見るなり大慌てで窓を閉めながらこう言ったんだ。


『こわっ!⋯⋯気持ち悪いのッ!』 


 信じられるか? この馬車、俺が命懸けで守ったんだぜ?


「――ちょおっと待ったあああ! 馬車のおんなー!?命の恩人にそれはないだろうよお!」


 恥ずかしさとショックに黙り込んだ俺とは違い。

 瞬間湯沸かし器の如く怒りを沸騰させる沙清水ねえ。


 日頃は大概の事は笑い流す次女だが、仲の良い人間を馬鹿にされるとガチ(・・)キレ(・・)る性質を待つ。


「おんじん? 恩人とは何の事でしょう?」


 閉じたばかりの窓が少しだけ開き、先のお嬢様とは違う女性の声で、気だるそうに疑問が返ってくる。


 あ⋯⋯もしかして。この人たち自分の馬車が襲われていたのに気づいてない感じ? なんかこの女性も寝起きのしゃがれ声みたいな感じだし。


「しらばっくれるなよ! あんたらの馬車が山賊に襲われてたからこいつが体張って追い返したんだ! 中にいたなら知らないわけがないだろッ!!」


 沸騰中(あっつあつ)次女(さしみ)が荒々しく返事を返す。

 いやまあ俺自身も、

『命懸けで守ったんだぜ?』とは言ったけど、

『こいつが体張って追い返した』と紹介されると恥ずかしさでいっぱいになる。


 だって俺、ムンク被って花火持ってキメゼリフ遮られただけだもん。ぶっちゃけ俺何もしてない。山賊(あいつ)らムンク見た瞬間に諦めてたから。


 ただ、沙清水ねえが俺のために怒ってくれるのが嬉しくもあるため何も言わない。

 

 そんな沈黙も束の間。馬車の扉が開かれ二人の女性が出て来た。


「まじごめんっ! 私らさっき起きたから襲われてたのも知らなかったの!」


 一人目は先のお嬢様。そのオーラや容姿には似合わないギャル風口調もさることながら、黒のハーフパンツにヘソだし服といった身軽な服装。寝起きだからか異世界だからか化粧っ気がないすっぴんにも関わらず目がぱっちりとした色白美人。


「すみません、お嬢様の言う通り爆睡かましてました。 襲われてたんですねワタクシら」


 ギャル嬢様に続くのは仕草も口調もダルそうなメイドさん。メイド服だから多分、メイドさん。

 ビルの屋上でタバコ吸いながら『あー今日の客キッツゥ』とか言ってそうだけどメイドさん⋯⋯?


 ねえ? この世界にコスプレ文化ってないよね?




 ここまでノリで読んでくださったノリのいい読者のミナ皆様なら。ノリでブクマや高評価していただけるはず!?(ウルウルとした懇願の涙を目に浮かべる三女の背後から誠心誠意のお願いです)


タクト「ちょっ!さしねえ――目薬さしすぎだって!」


愛花「しーちゃん!?だいじょーぶ!?おめめ痛くない!?」


雫「んっ。 これもモチベーションの維持向上のため。 ブクマ待ってる」


?「オシズーーー!!!(涙)ええ子や!あんたはほんまにええ子やでええ!(鼻水とラーメンをすする音)」(敬具)

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