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第一話:ロケ花アゴアッパー

「何かさ〜最近のファンタジー小説ってこの展開見なくなったよね?」

 

 新緑の葉が生い茂るしずかな森の中。


「まーなあ。王道も過ぎれば飽きるわな〜」


 立ち並ぶ大樹の影から一昔前にネット小説でよく見かけた光景(テンプレ)をひっそりと眺める俺。

 ⋯⋯と幼なじみの三姉妹。 

 そのうちの一人。

 三姉妹の次女が俺の呟きにのんびりと返事を返す。


 冬休み始めに染めた赤髪を肩あたりで揺らす十七歳ぴちぴち(・・・・)新鮮JK、門松沙清水(さしみ)ねえだ。


「たっくん!さっちゃん!これは現実なのよ!? 展開的には私たちが助けてあげないとでしょ!?」

 

 ――いやあ。助けるっ、つっても俺たちはここに来たばかりの地球人なわけですやん?見るからに野蛮な山賊相手に何をどうしろと? 


 見た目はおっとり華やか美人、中身はどっぷりファンタジーオタク。俺とさしみねえをたしなめる長女、愛花(あいか)姉ちゃんに視線で訴えかける。


 しかしまあ。何とも異世界の樹海には合わないオシャレ女子(ガール)だな。


 ボディラインが鮮明に出るニットのワンピース(ホワイト)をピタリと着こなし、頭には黒色モコモコバケットハット。ほっそりくびれた腰には銀髪が光る。

 これで十八歳、現役女子大生とは思えない妖艶さだ。


「たくにー。 んっ」


 んっ?

 思考が逸れたところでスソを引かれ我にかえる。

 目線を下げると俺のパーカーをちょこんっ、とつまむ小柄な女の子。


「たくにー。 あれ助ける。 いい物ある」


 身長差から自然と上目遣いに俺を見上げるピュアな瞳。

 心臓がドキリと跳ね上がる。それはもう、嫌な予感で。


 長々と言葉を発するのを嫌う三女はパンパンに膨れ上がったクマさんリュックサックをガサゴソと漁り始めた。


 この子は学年的には俺より一つ下、十四歳中学三年生の(しずく)。三姉妹の三女だ。

 つやのある黒髪をつむじあたりでお団子に丸めた奥ゆかしい大和撫子系美少女。 まあ⋯⋯その見た目だけは。

 

「あった。 たくにー。 これ被る」

 

 三女が取り出したのはムンクの叫びのムンクそっくりなツラをした被り物。

 おぞましい顔が前面にあり、後ろにメッシュが付いた頭にすっぽりと被るタイプの覆面。


 で?これを俺に被れと?

「えっ、普通にいやなんだけど。しずくさん、先に目的を述べたらどうかな?」


 俺の問いにニコリ。と無感情な撫子笑みを見せる三女。


 次の瞬間。

「グフッ――」


 見惚れそうなその笑みを浮かべたまま俺のお腹にグーパンチを埋めた三女は。

 小柄な彼女の顔あたりまで下がった俺の頭に問答無用でムンクを被す。


「ブッ!」

「ぷっ!」

「ぶふッ!」

 思わず息が漏れた――おい、姉貴ども!口抑えて笑ってないで妹の暴挙を止めろよ⋯とめてください!!


「ちょ、しずくまっ、何させる気!?」

「だから助ける。 これ持って」


 無表情のまま押し付けられたのは季節外れな花火セットと着火マン。

 ⋯⋯⋯俺の首ぐらいポロリと落とせそうな剣を握る山賊相手にこれで何をしろと?

 ムンクと山賊のドキドキ花火大会!ポロリもあるよ!(物理)がお望みだとすればそれに応える気は俺にはないんだけど?


「その手があったかッ! シズク!ナイスアイデア!」

「はい!? さしねえわかったの!?」


 とは聞いてみたものの、どうせいつもの悪ノリに決まっているが。

 みんなの視線は存在しないメガネをクイッと持ち上げる次女に集まる。


「おうよ!この天才名探偵沙清水(さしみ)ちゃんの名推理によるとだな!?

 あの、見るからに貴族のご令嬢とその従者が乗ってそうな馬車の半透明な結界を囲む山賊トリオにまずは打ち上げ花火を打ち込むのだよッ!

 次に、爆竹と手持ち花火を燻らせた煙幕のなかムンクが登場(・・)! 恐怖と混乱に陥った山賊達は武器を捨て蜘蛛の子を散らすよう逃亡(・・)! そして誰もいなくなった樹海にムンクのおぞましい叫び声だけが残るといった寸法(・・)! そうだろマイシスター!?どうよ(・・・)!?」


 ――ドヤ顔やめい!

 たまたま語尾のリズム感がよかったからといってラッパーみたいな腕組みキメポーズをキメられても。というか探偵じゃなかったのか?

 ああ、雫に殴られた腹が立ち上がりそうだ。


 ドヤり次女のワンマンショーはまだ幕を閉じない。

 

「ふはっ、ふはははは!流石はシズ。我が妹!

 うちの目にはムンク(俺)の叫びに気を失ったご令嬢と、恐怖のなかムンク(俺)目掛けて剣を振り下ろす従者の顔がありありと思い浮かぶぜよッ!」


 そう来たか⋯⋯⋯⋯⋯俺の目には、

『む、ムンク!お前の事は一生忘れないからな!』とか言って、山賊が捨てた剣を嬉々としてメルカリに出品しているさしねえの姿が思い浮かぶぜよ⋯⋯!(わけあり最安値)

 

 天才迷探偵さしみちゃんの至極まと外れな推理に場が冷えかえるなか発案者の三女が一歩前に出る。

 

「流石。 サシねえ。 御名答」

 いつも通り無表情な顔の雫が沙清水ねえの迷推理をばっさりとぶった斬⋯⋯

 はい?


「――――はいッ!? なに言ってんのシズクサン!?」


 いやいやいやいや。

 何で俺がそんな低予算コメディ映画のかませ役みたいな事やらなくちゃなんないのさっ!? 覆面被って花火にぎってレッツ山賊退治へゴーーー!ってか!?


 沙清水ねえのシナリオ通りならそのあとの俺ってゾンビになって三姉妹(キミたち)にボコボコにされるか、デュラハンになって爆裂娘の標的にされる、そのどっちかだよね!?


 某頭のおかしい紅魔族(こうまぞく)の顔が頭をよぎる俺――を横目に右手をグッと握りしめ左手のひらにポンッと乗せる妖艶長女。


「そっかあ、なるほどだねっ! お姉ちゃん、二人が立派に育ってくれて嬉しいわあ。 たっくん? しーちゃんの案でいきましょうかっ!」


 頭のおかしな奴らの先頭、長女愛花が三女の案を推す。

 邪心も疑心もない、真っ直ぐな笑顔で崖っぷちに立つ俺の背中を押す。

 ⋯⋯あんたが邪神か。


「満場一致で可決っうー! よかったなタクト! さすがにヤバそうなら後ろから援護するから安心しろっ!なッ!?」


 この!生まれつき三枚おろしのぴちぴち次女がロケハナ片手に戯言をぬかしよって!


「さしみねえ!俺は一致してないしロケット花火の援護射撃が何の役に立つんだよ!?」

「大丈夫よたっくんッ! 山賊に襲われた貴族の馬車を助けて失敗するパターンはないわよ!」

「小説の中ならねっ!? これは現実なのよ、って最初に言ったの誰だっけ!?」


 まずい、こいつら目がマジだ。このままなら俺はリアルムンクの叫びを上げる事になってしまう!実際のあの絵で叫んでるのはムンクじゃなくて自然らしいけどさっ!?

 そんなの、どーーでもいいんだけどさーーーー!


「大丈夫。 たくにー。 耳かして」


 首を可愛らしくこてんっ、と傾け俺の耳を引っ張り下げる三女。

 どうせロクな提案じゃない!


「⋯⋯で⋯⋯して⋯⋯ゴニョゴニョゴニョ」


 ――あれ?意外と。それならいけるかも?


「たくにー。 試す価値あり」

「うーーん。それで助けれるならありだよなー。 最後のゴニョゴニョは口で言うもんじゃないけどな」


 どうするか。無茶な案ではあるが可能性が見えてしまえば賭けてみたくもなる。


 小声で計画の詳細を詰める俺と雫を見て、次女が頬を膨らます。

 

「なんだよふたりでーうちにも教えてよー」

「お姉ちゃんも気になっちゃうかな〜どんな作戦なの?」

「たくにー。 だめ。 これはふたりの秘密」


 俺の右肩を愛花姉ちゃんの柔らかな手が揺らし。左肩を沙清水ねえの熱を帯びた手のひらが圧迫する。

 ⋯⋯痛っ!? この女、握力ゴリラか!?(暴言)

 

「雫、その言葉は嬉しい。だが文字通り俺の命に関わる問題だ。 すまないが二人にも話すよ」


 気分はハリウッドのスーパースター!なキメ顔で俺は雫の頭に右手をポンッと置く。

「痛っ!ごめんてっ!」


 間髪入れずに手の甲つねられた。


「たくにー調子のらない」


 ごめんなさい。



         閑 話 休 題(ゴニョゴニョゴニョ)



「まっ――ということで俺はこの作戦に賭けてみるから三人は援護よろしくね」


 ざっと説明を済ませた俺はムンクの覆面を被り直す。

 今朝、家を出る前に物干し竿から取ってきた洗い立てのオーバーサイズ黒フーディーパーカーのそでを伸ばし指の先まで完全に隠してから左手に着火マン、右手に手持ち花火を束で忍ばす。


「こっちは準備オーケーだよ! そっちは――」


 振り返れば三姉妹も各々の手に彩り豊かな花火を構え持つ。なんか三女だけ、紐を引っ張るとテープが飛び出るタイプのクラッカー持ってるけど。


「なぜにクラッカー⋯⋯?」

「たくにーの誕生会用に用意してた。いざというときに使う」


 そうなんだ? いざという時にどう役立つのか分からないけど嬉しいから黙っとこう。

 あ〜。本当は今ごろ四人でケーキとか食べてたんだろーなー。

 まさかあのとき――


「タクト、回想はあとあと! そろそろ助けてやんないと!」


 あっそうだね。うっかり回想シーンに入るとこだった。


「よし、じゃあちょっくら行ってくるわ。手筈通りに頼んだよー」


 これから俺は、真剣を持つ山賊相手に立ち向かう。

 しかし、不思議と恐怖は感じない。


 実感がないのか、創作の上でとはいえ見慣れた展開だからか。

 それとも⋯⋯後ろに三姉妹がいるからか。

 ははっ。認めたくはないが。いつのまにか、俺にとって彼女たちは守るべき存在に――


「タクト!びびって噛むなよ!」

「たくにー。 雰囲気が大事。 思うより大袈裟でよし」

「ちゃんと見てるからね! おっきな声で頑張るんだよっ!」


 ――いつのまにか、彼女たちにとって俺は見守るべき存在になっていたようだ。 ⋯発表会当日の保育園児かおれは。

 

 とまあ、言いたいことは山ほどあるが。これまでの経験(三姉妹のおもちゃとして過ごしてきた日々)から喉を飛び出そう(・・・・・)とする言葉を呑み込み。


 いつものように、右手を少しだけ上げて毎朝の恒例挨拶で返す。


「ういー、行ってきまーす」


「「「いってらー!っしゃい。!」」」

 







タクト「前から思ってたんだけどさ?シズクのリュックってなんでいつもあんなにパンパンなの?肌身離さず持ってるしさー」


雫「最先端の開運法。 ラッキーアイテム。 用意しなくてすむ」


沙清水「それってアン・ラッキーアイテム的なの入ってた場合どうなんの?比率で決まる感じ?」


愛花「ラッキーアイテムが5割、アンラッキーアイテムが5割だとその日の運勢はどうなるのかな??」


(無表情のまま数秒悩み、無言でロケット花火をタクトのズボンのベルトに差し込み着火マンを導火線に近づける雫)


タクト「ちょっとまったあああ!!!わかった、わかったから!ロケ花アゴアッパーは流石にシャレじゃすまないから!なっ!?しかもなんで俺だけえ!?アッ――――アパーーーーー!」


雫「⋯⋯まだ着火してないのに」



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