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電波猫のお仕事  作者: おばば
石器時代編
74/128

74.電波猫と命の重さ

 古式に従えば、死者に供えるべきは樒や丁子の類であるという。それらは各々に毒性を持ち、故に、獣に屍肉を貪られることを防ぐという。

 しかし、荼毘に伏した後、それらの捧げ物がどれ程に意味のあるかは分からない。獣に食まれる肉を落とした骨に、獣よけを供えるなど、無意味でしか無いのでは無いか。

 そんなことを考えつつも、それでも花や、或いは記憶にある弔草の類を墓前に供えている。

 きっと価値は無い。だが、意味はある。少なくとも私の中には。

 墓前に花を供えると、誰もいない家に向かう。

 小雪を弔って2日だ。

 呆然としたままに、人工乳の封密を行い。さらに原料に至るまで真空処理をしてしまえば、思考は自ずと家屋に逸れた。

 788472′42.882″。私が交戦回路を起動していた時間だ。人の時間に直せば15年程になる。

 長いな、と独りごちる。

 通常であれば、我らの生涯にも等しい年月である。

 既に簡易催眠の殆どはエラーに塗れて機能していない。当たり前だ。推定稼働年数の何十、何百倍とも言える年数が過ぎ去った。それでも機能しているのは、生命を対価とする程の重みを持った幾つかのみだ。

 その幾つか、が問題であるのだが。


 母屋に目を向ける。

 長らく手入れをしていないそこは、埃が堆く積もり、虫らによる蚕食も激しい。

 それらを一つ一つ、修繕していく。喰われて駄目になった梁を、柱を取り替え、穴の空いた屋根を取り替える。枝葉を纏めた箒で床を掃き清めて、埃を庭先に集めていく。床下や屋根裏に巣くった虫たちを追い出して、野に放つ。

 最後に、それらの廃材を焼いてみれば、驚くほどの煙が立つ。

 野外に放った家畜が煙を恐れて逃げ去っていく。

 轟々と音を立てて、燃えさかる。

 それに背を向けて、母屋を見れば。かつての姿に相違ない。旅立つ前に、桐の箱に収めた衣類、いずれは春陽の子に贈ろうとしていたいた物だ、それらは虫にも食われず、ありし日のままであった。

 石で拵えた厨にも、便所にも変化は無い。

 木造の部分、特に虫に食われた所を取り替えてしまえば、そこに見えたのは幼い春陽と過ごしたままの家そのものだった。

 真新しい木目を見せる新木に旧木が交じる。

 春陽の背を刻んだ柱が、春陽の腰掛けて染みばんだ縁側が、鮮やかに目に映る。

 それらの一つ一つに記憶が想起される。

 それらを振り払う。そんな思い出は返ってこないのだと、言い聞かせる。誰でもない、私がそれを捨て去ったのだ。

 最後に、実験に用いた鼠たちを荼毘に付す。

 数百を数える彼等の一匹一匹を石の柩の中に並べていく。それらの上に稲藁を被せて火を付ける。無菌室を解除してから急速に腐敗していった彼等から、腐肉の焼ける悪臭がする。

 それでも目を背けずに最後まで見届ける。

 柩の中で灰となった彼等を庭先に据えた甕の中に入れる。甕は高さ2m程だが、その全体が土中にある。その奥底に薄く灰が積もる。甕に蓋をすると、地面すれすれに拵えた土台の上に、石碑を置く。石碑は大きなものでは無い。私の体躯の二倍に届くかどうか、といった程度の小さなものだ。鏡面の様に切り出した表面には短く、慰霊碑、と刻んである。

 きっと私は同じ事をする。何時になるかは分からない。けれど、病の為の薬を作る、未知の動植物の毒性を確かめる。命でしか確かめられない何かに直面した時、私はまた彼等の命を求めるだろう。

 身勝手に取り決めた、命の重さに従って。

 

 

 

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