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電波猫のお仕事  作者: おばば
石器時代編
6/125

6.電波猫と魔力

 半ばまで断ち切られた首は、顎下の皮によって支えられ、抱かれ首の如き有様だった。

 幾許か、拍動の度に吹き上がる血も既に引いて、その巨躯はいま、浅い湿地のなかに倒れ伏していた。

 

 その時、私を襲っていたのは抗い難い程の寒さだった。

 蛇殿と分かれてから、あれ程魔力を連続使用した事は無かったが、今なればこそ、彼の言っていた「体が怠い」という言葉の重みが分かる。

 世の中に本当の意味で無料で使える力など無いのだ。魔力は、恐らく筋肉や脳髄に比して、消費熱量が格段に高い。先の熊との1件でも、時間に直せば数10秒程であろうに、私は溜め込んでいた熱量の殆どを失って、いまにも凍死しそうな程だ。

 感覚の遠のいていくなかで、何とか熊の死骸ににじり寄り、溢れ出る血を舌先で舐め取っていく。微かな塩味と甘み、強烈なアンモニア臭、泥が喉にまとわりついて、いまにも咽せそうだ。

 それら全ての感覚に蓋をして、ほんの数日前の事を思い出す。




 嵐が治まったのは、蛇殿が海底で砂に埋まってから数日後だった。私の体を覆っていた軟体質の膜は、次第に収縮し、やがて全てが体に吸収された。

 すわ、溺死かと戦く間際に、浜辺に打ち上げられたのは、我ながら僥倖と言うほか無い。

 不思議と減らない腹と乾かぬ喉に任せて、初めての「陸」とやらを歩き回った。ゴツゴツとした青黒い熔岩の合間に、僅かにできた黒い砂地から少し歩けば、そこは羊歯と地衣類が繁茂し、鬱蒼した針葉樹が日光を遮る、樹海とも呼ぶべき異界であった。

 熔岩の末端が近いからか、澄んだ水が、幾つもの沼を作り、その部分だけ開けた頭上から、光が零れていた。

 船にいた頃からは想像も出来ないほどの動物の痕跡、捕食者がいない故か、余りにも無防備な彼等の首に、あるいは胴に爪牙を突き立て、体の感覚を取り戻していく。


 違和感に気づいたのは、イネ科の植物の葉が浅く前足を切った時であった。

 鋭い痛みに、反射的に、「何か」を使った感覚があった。その何かは、蛇殿の魔力に余りに似ていた。彼の腹の中にいたときは知覚出来なかったそれは、薄暗い下生えのなかで、薄紫に発光する膜のように見えた。

 あまりにも期待を上回る置き土産に歓喜したのも束の間、強烈な空腹に見舞われた私は、止血されたことを良いことに、再びの狩りに勤しんだ。


 狩りに魔力を使い始めたのは、或いは使えるようになったのは、それよりも暫くしてからだった。

 蛇殿の感覚で使えば、あっという間にガス欠になる魔力を、私の体格に合わせて出力を調整し、なんとか実用レベルに持っていった。

 魔力は波であり、物質であり、あるいは粒子のような物だ。

 波として、拡散させるのは、蛇殿との会話の折からやっていたので、特に造作なく使うことが出来た。あらゆる物を透過して、反射することが殆ど無いので、索敵には殆ど使えないが、稀に反応を示す動物がいるため、恐らく魔力を潜在的に認識できる動物は他にもいるのであろう。

 物質として使うことも、蛇殿の魔力膜と同じであり、自分の肉体の表面や、末端に、固体化した魔力を纏う事が出来た。これは鋼のように硬いものから、糸のように柔く、長いものまで出来るが、体のどこかとは繋がっていなくてはならず、爪が剥がれるように引き剥がすと、霧散する。

 粒子は、恐らく薄い膜を放射している状態と思われる。思われるというのは、やはり反射する物がなく、どこまでも飛んでいって帰って来ないので、まだまだ正体が分からぬだけであるが。薄い葉に載せた水滴に根気よく打ち込んでいたら湯気が立ち始めたので、恐らく電磁波のように、熱量の輸送に使えるのだろう、但し、効率は頗る悪い。

 図らずもしも、蛇殿の様に必要なときに武器として、或いは防具として使うことが、燃費の面からも最適であると確認できたのだった。


 そんな確認をしながら放浪していた時である。蛇殿に比べれば明らかに小さい、然れど、確かに魔力波を発する熊を見つけたのは。


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