表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電波猫のお仕事  作者: おばば
石器時代編
5/125

5.電波猫と熊

 ーーー想念は革、撓やかでいて薄く、剛力すらも受け流す。

 後ろっ跳びと同時に前面に広げた魔力膜は、意図するとおりに展開して、瞬く間に押し潰され、元来の脚力では到底跳べない距離を私は移動する。

 既に全方位に展開している電磁網は3m先に無視できない巨木を認識。即座に背骨を縦に回し、後ろ足先に重心を振って回転する。

 圧倒的な加速度を確認して、脳髄にプリセットした簡易催眠が、このままではどのような体勢でも圧死を免れないとエラーを吐く。後ろ左足の第二関節をミリ単位で稼働して、ベクトルに螺旋を掛ける。

 衝突まであとコンマ1秒を切った所で、エラーを破棄、四肢の先に爪を想意した魔力膜を形成、鉞でも打ち付けたかのような爪痕を斜めに残しながら、運動エネルギーを消費しきる。

 地面を鞠のように転がり、瞬きの間に四肢で下生えを踏みしめて反転、羊歯の繁茂するなかを、ジグザグに走る、走る。

 背後に怪音、奴さんは明らかにこちらを追尾している。

 泥濘に足首まで埋まりながら、その巨躯は私の頭から尻尾までに3を掛けてもまだ余りある。

 首下に反転した白い三日月模様、拡大した瞳孔の縁には今にもしたたりそうなほどに鬱血した白目、口角には泡が立ち上がり、黒い毛皮が濡れ細って滴りおちる。

 明らかに異常な心拍数が、奴と、自分の体から確認できて、どうしようもなく同類なのだと認識してしまう。このような拍動、自己の血管に魔力膜を形成し無い限り、数拍で血反吐に埋まることだろう。

 泥濘が爆ぜる。こもった水音よりもなお早く、右前足が私の頭蓋に墜ちてくる。

 再度の跳躍、左前に生えていた橅の木に数年は消えない爪痕を残して駆け上がる。

 地表3m。立ち上がった奴よりも遥か頭上を取った所で、落下を開始。奴を目視する余裕などどこ振っても出てこないが、これで駄目ならもはや、生き長らえる術はなし。

 回転する視界の隅に、後ろ足で立ち上がる奴が見えた気がした。


 想念は鋸、背骨から尻尾先にまで、魚の鱗を模した細刃を無数に形成する。急速に体温が下がっていくのが分かる、死が内側から迫ってきている。

 どの道博打、掛け金は双方命、勝率がイーブン以上であるのはこの機会を逃してない。

 折り曲げた体勢から、筋肉に酸素を投げ渡して、伸縮勁を練り上げる。

 一瞬、奴と目が合う。

 相変わらず血走った眼、殺意以外を感じられないその挙動、そして、薄らと全身を覆う、薄紫の魔力膜。こちらを見つめて持ち上げられた首向かって、丸まった体を打ち付ける。


 残勁が雷声となって、私の喉から溢れ出す。

 殺ーーーーーーーーー





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ