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電波猫のお仕事  作者: おばば
石器時代編
48/128

48.電波猫と夏の雨

 昨夜の晴天に反して、煙るような靄の立ち込める朝となった。ぼんやりとした薄い雲が広がり、重い湿気とともに音も無く小雨が降る。気温が高い事も相まって、兎角、蒸し暑さを感じる。陽が昇るに従って、息苦しさを感じる暑気が立ち上がり、いよいよ過ごしづらい日となりつつある。

 昨日からの興奮に浮かれていた春陽は、暑気にやられたのか、朝から怠そうにしていた。春菜と夏海に擦り寄っていくものの、何をするでもなく、たわいのない事を話し掛けてはもう一人の方に駆けていく。二人の間を往復する振り子のようだ。

 春菜と夏海に、この様な天気の日に無理をせずとも良い、と伝えて、今日は休みとした。幸い、二人を喚ぶ前に備蓄した食料には余裕があったし、なによりこの湿気では腐敗の方が恐ろしい。言葉少なに朝食を摂ると、雨戸を開け放した小屋の中で、銘々に過ごす。手が空く事に耐えられないのか、春菜は私に断りを入れつつ、小屋のあちこちを検分している。春陽の為に拵えた衣服がお気に召したようで、余った端材で服にポケットや、或いは刺繍めいた紋様を縫い付けている。

 夏海は玄関で、積み上げた薪を細かく裁断したり、雨戸や柱、梁を眺めては、時折、思い出したように、これはどの様に組み立てたのか、などと問うてくる。どの様に、と言われても困る、と魔力尾で薪を細切れにしてみせれば、これは我々には難しいですね、と苦笑いを浮かべていた。


 春陽の子守りがいることを良いことに、私は石運びをする事にした。昼飯は要らない旨を三人に伝えて、小屋を出る。

 小雨が毛を濡らすに先んじて魔力膜を展開する。狭い球状に靄が晴れる。そのまま、南の石切場、もとい、溶岩を目指す。


 その道中、アイツの墓に立ち寄る。

 雨に濡れて黒々とした溶岩の墓標。その前に座り、暫し黙祷する。

 今度、夏海を連れてこよう、そう思った。


 雨滴を弾きつつ、黙々と石を運ぶ。

 単調な作業に脳髄が痺れてくる。

 他愛のない考えが、水面に浮かぶ気泡のように浮かんでは消えていく。


 春陽の笑顔が見える。

 春菜と夏海の穏やかな表情。

 誰か一人に依るものでは無い。

 あの三人が三人でいること。その事が醸成するあの雰囲気が、好ましく思えた。

 あの姿が、本来あるべき姿なのだろう。

 春陽をあの輪の中に戻してやりたい、そう思った。 

 その為にはなにが必要だろうか、私は春陽に何をしてやれるだろうか。

 暖かい沼に沈んで行くように、思考が脳髄を侵していく。


 結局、日暮れまで黙々と石を運んだ。

 取り留めない考えに沈んだままでいたためか、遂には春陽に呼び掛けられるまで疲労も空腹も感じなかった。

 ふと、正気に戻ってみれば、積み上げた石材の小山があちこちに。


 バックグラウンドからの報告を確認する。

 作業の予想終了時刻は、刻々と迫っていた。



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