表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電波猫のお仕事  作者: おばば
石器時代編
42/128

42.電波猫の限界

 理想は高ければ高い程よい。その理想が他者に求めるものでは無く、自己に向き合うためのものであるならば。

 高い目標に、どのように辿り着くか、頭を捻り、手足を動かし、時として他者に助力を請う。そうして、現在の自分の能力や環境と、理想を達成する為に必要なものを知り、それらの間に橋脚を建て、橋を渡すようにして、進んでいく。生とは、或いはその繰り返しなのかも知れない。


 とは、言ってもである。

 いくら何でも理想が高すぎる。

 一人と一匹の生活に、城を建てるというのは、どう考えてもオーバースペックと云わざるを得ない。

「部屋の数を減らそう、とりあえず居間と春陽の部屋、私の部屋があれば充分では無いか?」

 寝ぼけ眼の春陽がこっくりと頷く。

「台所を分けるのは良い。オンドルも良いと思うし、納屋と燻製室も欲しい。しかしそれ以外は、また必要になったら増築することにして、今は止めておこう」

 春陽はまたも頷く。頷いているのか、船を漕いでいるのか、分からなくなってきた。

「便所は、母屋から少し離して、川から水を引こう」

「いや!」

 春陽が目を覚ました。

 昨日もそうであったが、春陽は便所に対して並々ならぬ執着を持っている。下手に期待を持たせてしまったためか、居間の直ぐ近くに便所を設けることは、春陽の中の確定事項となってしまった。

「しかし、住居の近くに水場を設けると、黴が心配でなぁ」

 柔らかく諭してみる。

「水を流しっぱなしにしなければいいんじゃ無い?大きな甕に水を汲んで置いて、都度に流せば良いじゃん。便所を石造りにすれば、多少、黴ても掃除すればいいし、腐って小屋が痛まなければ良いんでしょ?それなら、石造りの通路を少し長めに取れば………」

 雄弁であった。

 ぐうの音も出ない、よく練られた構想だった。

 しかも、春陽の提案を咀嚼した脳髄が、理論的には何の問題も無いことを、バックグラウンドから解析付きで証明している。

 問題があるとすれば。


 春陽を庭先に呼び出す。

「春陽。春陽の計画では穴を掘る必要がある、今から私は穴を掘る。至って本気だ。巫山戯ている訳ではない」

 何を言っているのだろうか、そんな声が聞こえてくるようだった。神妙な顔を取り繕っているが、目尻の当たりが下がって、眠そうに見える。

 私なら何でも出来ると、信じて疑わないといった雰囲気である。

 まぁ、いいか。

 魔力尾を展開する。

 地面に突き立てる。そしてそれを持ち上げようと、足を踏ん張る。すると。

「………え?」

 春陽が間の抜けた声を出した。

 地面に突き刺さった尻尾。踏みしめた爪痕も深く地面を抉っている。それでも。

「………分かったか、私は穴掘りに向いていないのだ」

 持ち上げようとした土塊の重さに耐えきれず。伸びた尻尾の先で宙吊りになりながら、私は春陽にそう言った。


 梃子の原理でも、レバールールでも、何だったらモーメント則でも、呼び方は何でも良い。重要であるのは、重心よりも下にあるモノを持ち上げるのは、頗る非効率であるという事である。

 上や横からの荷重には耐えられるのだ。関節なり筋繊維なりを補強してやれば良いのだから。しかし、自重だけはどうにもならん。どれだけ機構を強化しても、位置エネルギーを充填する事が出来なければ、物体は持ち上がらないのだ。

 そして、私の自重を天秤の片側に置く限り、それは精々が数10kgなのである。

 それを、春陽に説明するのに一日掛かった。


 もちろん手はある、例えば大きな樹や石にしがみついて自重を稼ぐ、尻尾をアホ程伸ばして支点を取る、などである。しかしそれは春陽が気付くまて、黙っているつもりだ。

 重要なのは、私が何でも出来ると信じている。恐らくは無自覚な部分も含めて、という、その固定観念を崩す事なのである。

 魔力は便利だ。

 およそ、理外の力と言っても過言では無いほどに、その応用性は凄まじい。しかし、いくら鋭利な刃物を形成出来ようと、如何に自在に形と強度を設定出来ようと、それはあくまで物理現象の範疇にある。支点無く宙に浮かぶ事は出来ないし、死者を蘇らせる事も出来ない。それを私は春陽に伝えたかった。


 発想を変える、と言うことは重要である。

 自重が足りないから持ち上げられない。

 春陽は、まだ子供ではあるが、それでも私よりは重い。

 ならば、春陽ならば、穴を掘れる。

 もっと踏み込むならば、私にしか出来ないことがあるように、春陽にしか出来ないことがある。そんなことを、私は春陽に伝えたかった。


 その結果。

「もうだめー、もう疲れたー」

 あっという間であった。

 膝から足先まで、掘れているかどうか。

 しかも頗る小さい。穴の直径は春陽の胴回り程も無いだろう。

 トラに出来ないなら私が、と言った所までは予想通りであったし、そう言ってくれたことが私はとても嬉しかった。

 しかし春陽は、私の想像以上に体力と根性が無かった。


 そんな春陽を尻目に、私は小屋を見る。改築すると言っても、一度すべてをバラす事にしたので再築と言った方が良いかも知れない。礎石の配置を幾つか入れ替えが必要であるし、大きさも拡大する。追加の礎石に竃や厨も石が必要であるし、春陽の便所も石造りだ。

 脳裏に完成図を思い浮かべる。

 どう考えても、石が足りぬ。しかも、オンドルが厄介だ。小屋の床下に洞を通さねば成らぬ。つまり穴掘りが必要である。


 春陽を見る。

 先端に石をはめ込んだ鍬とスコップを持たせて見たが、やはり無理があるようである。

 地面に突き刺したスコップに寄りかかる様にして休憩している。

 掘っていた穴が広がった様には見えない。


 これは、困った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ