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電波猫のお仕事  作者: おばば
石器時代編
33/128

33.電波猫と墓

 これまでの分を取り返すように、春陽はよく食べた。空になった鍋をもの欲しげに見ている所を見ると、まだ食べ足りないらしい。次からはもう少し量を作った方が良いのだろうな、と思う。そのためには、また採集に行かねばならんのだが。

 他にもやらねばならぬことは幾つかある。春陽の着物も用意せねばならぬし、寝床もない。長雨などに備えて、乾し肉なり何なりの保存食もあった方が良い。

 とりあえず出来ることからするか、と鍋と椀を尾で掴んで小川に向かう。春陽は何が楽しいのか、小屋の縁側をグルグルと走り始めた。少しの間なら放っておいても良いだろう。それに。

 細く伸ばした魔力膜を意識する。春陽の魔晶石に接続した魔力膜はまだ繋げている。何かあれば、多少手荒になったとしても、打てる手は無数にある。

 藪の刈り払われた道を歩いて小川に向かう。視界に入った山菜の類を半ば無意識に背中の籠の中に放り込んでいく。小川の水で食器を洗っている間も、目に付いた食料を採っていると、意外な程に集まった。他に採集者がいない所という事だろうか。思った以上に豊かな場所に越して来たのかも知れない。今晩は元より、ここ2-3日は食うに困らぬ分量である。可能であれば、塩漬けにするなり、保存しておければ良いのだが。

 ハタと気づく。塩は大切であろう。アイツも塩は常備していたし、前に若葉の家でも塩らしきモノを料理に使っていた。他に何か必要な物はあるだろうか、頭の中でリストを作りながら、私は小屋に帰った。

 背負った籠を玄関の隅に置く。魔力膜で尾を拡張する。先程、思い付いたのだ。折角ならば、囲炉裏の上に、肉なり革なりを干して置ければ便利であろうと。善は急げとばかりに、残っていた杉の木から細く薄い板を切り出す。粗い格子を編んで、囲炉裏の上に据え付ける。早速、先の昼飯の時に解体した狸の毛皮を干してみた。煙で燻されて多少なりとも使いやすくなれば儲けものだ。洗った食器らも炉端に置いて乾かしておく。後は薪をもう少し作っておこう。伸ばした尾を動かして薪を切り出していく。生乾きの物も多いことは諦めて、広めに作った玄関の隅に積んでいく。それを春陽が見ていた。

「どうしてドラの尻尾は伸びるの?」

 腹も膨れて、人心地ついたと言うことだろうか。そんなことを聞いてきた。


「私の尻尾が伸びているのではないよ。これは魔力で編んでいるのだ」

 ふりふりと、これ見よがしに振ってから、薪割りに戻す。それを春陽が興味深そうに見ている。

「魔力ってなに」

 視線を尻尾に固定したまま、間髪を入れずに聞いてくる。

「魔力とは、うーむ何だろうな。よく分からん力だ」

「よく分からないの?」

 改めて考える。魔力とは何か。魔力膜の様に物質として用いることも出来、そのままエネルギーとして用いることも出来る。微弱ながら意思を持ち、集合すれば、宿主を突き動かせる。どれ一つ取っても既知の法則に当てはまらない、不思議な何かである。

「そうだ。とりあえず今わかっているのは、奴らが意思を持っていることくらいだな」

「意思って何?」

 春陽の問いに沈んでいく。魔力の在り方に近いもの。強いていうなら、ミトコンドリアやクロロフィルの様なモノだろうか。自身では動けない故に、宿主と共生することで、繁栄する。しかし、魔力の目的は集合であり、繁栄とは真逆である。

「自分で考えたり、感じたりすることの事だ」

「じゃあ、魔力がトラの尻尾になるのはもうイヤってなったら、どっか行っちゃうの?」

 そうだ。我が身を乗っ取り、ただ自らの目的を追う獣に成り果てる。それをアイツはワディエツヤ ドゥイグと呼んでいた。だが今は。

「そうだな。あまり勝手をするとそうなる。だから魔力の欲しいモノを与える代わりに、手を貸して貰っているんだ」

 そうだ。だから、私は奴らの願いを叶えなくてはならぬ。それがどれ程の時を必要とするのか、想像すら付かなくとも。

「ねぇねぇ、じゃあさあ」

 春陽の質問攻めは、満腹になった春陽が昼寝し出すまで続いた。


 傾いた日差しの中、日の当たる縁側で春陽が寝こけていた。あれ程の熱量が何処に納められていたのか、と訝しむ程に、その寝顔は幼かった。板張りの縁側に寝る体に、掛ける寝具すらない。それが、今の私の限界である。

 頭を振って、思考を切り換える。


 春陽の正中から伸びる魔力糸を意識する。

 それは弛まず、尚も伸び続ける。

 これから齎せられる信号に異常はない。

 

 小屋を後にする。

 夕べと呼ぶには早い昼下がり。陽光が斜に注ぎ込む森の中を走って行く。南へ。


 倒壊した小屋。そこから数歩の距離の大きな血溜まり。黒ずんだその縁には、既に羽虫が蟠っている。

 血溜まりの傍らに立つ。道中に河原に降りて作ってきた壺を置く。

 尾を展開する。

 僅かに残った骨の欠片を、肉片を、壺の中に入れていく。ふと気が付いて、土器の欠片や割れた椀なども詰めていく。無ければきっとあの世でも困るだろう。

 割れずに残っていた狼と狸、それに狐の模型も入れる。虎の一字も、その欠片を丁寧に掘り出して中に入れた。

 呆気ない。

 丁寧に探しても、集められたのは猫の体躯にも及ばぬ程だった。


 離れた木の陰に、或いは残骸の下から、煤けた毛皮を見付け出す。あの世も寒いだろうか。だが、春陽の為になら使っても許してくれる気がした。軽く畳んで、横に置いておく。忘れずに持って帰らなければ。

 

 またしても河原に降りる。アイツの背丈に近い石を探し出して、帯で体に巻き付ける。

 一跳ねして戻る。魔力爪で岩を半分に切り割る。片割れを地面に据える。中央に窪みを切って、中に壺を納める。残った半分を、その土台の上に据え付ける。

 鏡面の様なその表面に、墓碑を刻もうとして、我に返る。

 私はアイツの本当の名前も知らないのだ。


 しばし逡巡する。アイツの言葉が蘇る。


 ………ルイオディウに選ばれた者はそれまでの名前を禁じられる………


 ルイオディウとは贄である。魔力と人間、その共生の歪みから産まれた贄。


 ………俺の妹の春陽だ。後を頼む………


 春陽。ルイオディウとされ、いま村に戻ればワディエツヤ ドゥイグとして処分されるであろうアイツの妹。たが、アイツは最後に禁じられた名前を伝えて逝った。ならば。

 墓碑銘は決まった。魔力爪を一閃。

 一息に書き綴る。

 鏡の様な岩の表面から、彫り抜かれた欠片が落ちる。


 最後のルイオディウ

 ここに眠る


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