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電波猫のお仕事  作者: おばば
石器時代編
31/122

31.電波猫の引越

 ひとしきり泣いた。

 春陽の腹が鳴った。

 グズり出す気配と共に、魔力探知に微弱な反応。

 交戦回路をトリガーする。

 春陽が魔力を編む前に魔力爪を差し込む。

 魔晶石に直接アクセスして、励起した魔力を強奪する。

 交戦状態に陥ったことにより、脳髄に焼かれた簡易催眠が起動する。

 振り切れていた感情が抑制されて、冷静さが戻ってくる。


 差し込んだままの魔力爪から、春陽の魔晶石を包むように魔力膜を形成した。

 一時凌ぎの安全弁だが、これで少しは安心出来る。

 何が起きたのか気付いているのか、いないのか。春陽はいよいよ本格的に泣き始める。

 さっきまでとはまるでアベコベだ。


 春陽の体内に形成した魔力膜、それを消さぬように細く、糸のように魔力を繋げながら急いで小屋に戻る。

 傍らに落ちていた籠に、目に付く限りの食料を詰め込んだ。

 春陽の傍らに戻る。


「春陽、私はトラだ」


 溢れ出る涙は止まらない。止まらないままで良いと思った。

 乱暴に前足で拭いとる。

 どうすれば良いかは分からない。

 分からないけれど、やらなければならない。

 見返りもなければ、合意の上の契約でもない。

 それでも、そう約束したからだ。


「行こう。ご飯を食べて、ゆっくり寝られる場所を探さなくてはならない」


 春陽は泣き止まない。

 泣き止まないままでも良いと思った。

 

 魔力膜を展開する。

 春陽の首根っこを優しく食んで、背に乗せる。

 申し訳なく思いながら、全身を私に固定する。


 地を蹴る。

 走る。走る。

 風が涙を吹き飛ばす。

 暴れていた春陽が大人しくなる。

 何時しか自分の手で、私を掴んでいる。

 その表情は分からない。

 怯えなのか、それとも喜んでいるのか。

 分からなくとも、良いと思った。

 これから知っていけばいい。

 そう思った。


 太陽はまだ中天に差し掛かったばかり。

 新緑の林を駆けていく。

 思い出と、血の匂いと、いろんな物を置き去りにして、それでも生きていくために私は走る。

 
















嘘です

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