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電波猫のお仕事  作者: おばば
石器時代編
3/125

3.電波猫と蛇

 無重力とは、意外にも心地よい。天地の分からぬほど酩酊したときとも違う、思考を保ったままの無重力は、何というか、昼寝明けの一瞬の微睡みにも似ている。

 海原を行く魚たちは常にこのような感覚を味わっているのだろうか。ともなれば幾分かの憧憬も抱かんと思うもの、たとえその胃の腑に落ちたいまとなっても。

 そうだ、胃の中である。いや、正確には胃でるかどうかも分からぬが、ひと呑みにされた私は如の蛇殿のなかにあって、まるで寒天の中の甘栗の如く浮いているのであった。

 感覚器の一部にタダ乗りされていることと、蛇の感覚の一部が逆流してきている事を除けば、至って普段通りである。何故かあそこまで損傷していたこの身も、いつの間にか修復されているとあれば、ますますもって、蛇殿の不可思議さが際立つというもの。

 逆流、逆流である。蛇殿の感覚はかなり特殊だが、これのおかげで色々と分かったこともある。まず彼ないし彼女は思考らしきものを持っているといこと、そしてそれを駆動しているのが、なにやらよく分からない不思議な力であることだ。

 この不思議な力は、よく分からぬ。蛇殿の体を支えているのもこれらしい、しかもなにか硬いもの、大抵は巣穴の入り口に溜まっていく大岩を破砕する際に、その力を頭の先に溜めて頭突きすると、あら不思議、骨格もない軟体動物である蛇殿の頭は鋼鉄も斯くやと言わんばかりの堅さになるのだ。

 あとは大型の魚類、大抵は鮫であるが、を捕食する際には尾鰭のあたりに溜め込んだその力で綺麗な膾を作ってみせる。とはいえ、便利なものには相応の対価が求められるのが世の習い。その不思議な力、もうまどろっこしいので魔力と呼ぶけれども、を使った後、蛇殿は2~3日寝て過ごしていた。曰く、とても体が怠くなるとのこと。

 

 この魔力なるものに、私は魅せられた。蛇殿が行っている体表の硬化だけでも、その原理は全く見当もつかない。もっと見せろとねだる私に対して蛇殿は最初1~2年は付き合ってくれたものの、それ以降はめっきりである。

 所詮は軟体動物である。これがどのように画期的発見であるか想像もつかぬのであろう。しょぼくれた私と違い、私を食らったことで、電波、磁場、音波、熱の探知が出来るようになった蛇殿は大層なご満悦である。曰く、魚を見つけやすくなった、暗闇でも目が見える、と、ことあるごとに感動している。

 蛇殿は熱が苦手らしく、日中の殆どを巣で寝て過ごす。日に焼けると、体が発火すると言わんばかりである。何度となくそんなはずはないから日下にでてはどうかと促したものの、嫌の一点張りである。これだから向上心のない軟体動物はいかん。


 そんなこんなで恐らく100年程は蛇殿と面白おかしく過ごしたと思う。それが唐突に終わったのは夏の半ば、さる嵐の日の夜であった。

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