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電波猫のお仕事  作者: おばば
石器時代編
2/122

2.電波猫と海

 遥か水平線の彼方から、空が白み始めた。

 薄闇の中で、私は折れた四肢を引きずって、家の後方デッキに辿り着いた。仕方がない。誰だって天秤の片側に自身の命が乗っていれば、通路の端を走る毛玉に気づかないこともあるだろう。むしろ彼等に蹴り転がされて、この程度で済んだ事を僥倖と思うべきだ。

 私は辛うじて水平を保っている欄干に登る。後はもう一歩たりとも動ける気がしなかった。


 V字型に折れた船体は、今ゆっくりと沈みつつある。遠く、オレンジの救命胴衣を着た船員達が、救命艇の上でひしめき合っているのが見える。

 ああ、ボースンも無事だったのか。

 彼が時折くれる干し魚を、私がこよなく愛していたことが、きちんと伝わっていたなら良いのだけれど。


 欄干を伝って血が流れていく。体中が痛いのは今更であるが、特に左後ろ足はどうしてまたもげていないのか、不思議なくらいの損傷だ。

 血の匂いに惹かれてきたのか、眼下に薄らとした魚影が見える。普段であれば薄ら寒い光景も死ぬと腹が決まった今となっては、餌に集る子供のようで愛らしくさえあった。

 それをなんとなく眺め、薄闇に走査を掛けて、この度の下手人殿を探す。あの巨躯と家の装甲を容易くへし折った膂力、恐らくは既知の生命ではあるまい。なに、誰に伝えられる物でも無いけれど、私の命を絶った相手の事くらい、知っておかねば未練が残る。

 家の動力が止まってしまったので、音響探査の範囲はまるで稼げていないけれど、幸いなことに彼は近くにいた。

 

 それは半透明な蛇であった。身の丈は50mを下ることはなかろう。三角に近い頭部、その側面には感覚器らしき孔が左右に4つずつ空いている。体には、血管だろうか、薄闇の中でも鮮やかな青色の紋様が浮いている。

 骨らしきものが一片も見えないのはどのような生態か、如何にしてあの巨躯を支えているのか見当もつかない。

 あの衝撃、大型の甲冑魚類が突っ込んできたかと思っていたのだけど、いや、それでも十分にデタラメだが、それ以上のデタラメさだ。感覚器を総動員しての走査、結果は芳しくない。僅かに表面温度が不規則に変わること、しかも変温動物の振れ幅以上のそれをもって、くらいしか目立った特異がない。一体どんな生態なのか、まるで見当もつかない。これならばおとぎ話のドラゴンと言われた方が余程納得出来るであろうよ。

 難物を引いたな、あのようなもの、恐らくは幾百歳に一度見えるか否かと行ったところであろう。そんな物に対抗出来るはずなどない、あれは生き物の形をした天災だ。そう結論づけると、私はほっと、息をついた。

 なに、出来ることと出来ないことがあることは定命ならば誰しもが知るところ。末期にかのような怪奇に逢えたことはいっそのこと幸いなことであろうよ。

 そう思いふけっていた時のことである。ずっと索敵走査を掛け続けていたことに気がついたのか、件の大蛇がこちらを向いた。

 崩れた船体に蜷局を巻くようにして眼前に牙を剥く蛇から、何かの信号が発せられる。熱探知の一部にノイズのような反応。なんじゃこりゃ、と解析を試みている間に、奴は大口をパクりと開けて、私を呑み込んだ。

 口腔の中は牙もなく、ただ生暖かい。はてな、と思っている間に鉛直方向にアホみたいな運動エネルギーが加わって、奴が潜水を開始したことが知れる。自分が食われたことも然る事ながら、あれだけのことをしでかしておいて、我如きを食ったところで収支は合わないて、とやや場違いな感想を浮かべている間に、水圧によってブラックアウトした次第。

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