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電波猫のお仕事  作者: おばば
石器時代編
13/122

13.電波猫と狸

 冬篭もりに丸々と太った狸が捕れた。いつしか降り積もった雪が、地面を薄らと覆っていた。その薄い雪原に、点々と足跡を残しながら、私は彼の塒に向かっていた。

 厚い雲の向こうに登った日は、薄ぼんやりとしていてるが、雪雲が光を拡散するためか、視界全体が柔らかく発光しているように見えた。自分の腹が満たされたためか、私は彼との再会を少しずつ楽しみ始めていた。まさか人が木の股から産まれるはずもなく、ならば彼の一族もそう遠くない所にいるであろう。人々と、そう言えるほどの数がいるかは分からぬが、その輪の中で生きていければ、この百歳の寂寞も幾分かは慰められようというもの。

 柔い雪を踏み抜く軽快な音に、心が浮き立つ様を重ねながらどれ程歩いただろうか、気がつけば、疎らに茂る林の中に、見覚えのある土造りの小屋が見えてきた。打ち払った木枝を重ねただけの屋根にも、薄く雪が積もり、その合間から細く煙りが上がっているのは昼餉の支度をしているからであろうか。とにも、無駄足にならずに済んで良かった。昨日の様に、いきなり襲われては適わないと、充分に距離をとり、小屋の入口から見える場所に土産の狸を置いた。

 ニャーン

 呼び鈴代わりに一声鳴けば、かくして彼の人は間口に現れた。一昨晩に見た時と変わらぬ粗末な着物、矮軀と呼んで構わぬにもかかわらず、その痩躯故か、スラリとした印象を受ける。僅かに左脚を引き摺っているのは、生来のものか、電磁探査から戻る返り値が、骨格の歪さを示していた。血色の悪い顔を僅かに顰めて、彼はこちらを見た。

「バアイ エディン ヤイオ」

 彼と行った唯一の会話、らしきものを私は繰り返した。恐らく誰何の言利であろう、という以上の推論はない。

 獣が人語を話したことがそれ程珍しいのか、彼の表情に困惑と驚愕が混じった。素朴な反応に、彼の経験の少なさを、私は見て取った。

 私は返答を待たずに、口に咥えた狸を彼に向かって投げた。それは勢いが足りずに、丁度中間あたりに落ちた。彼はソレを見やると、まるで鸚鵡の様に問い返した。

「バアイ エディン ヤイオ?」

 やはり、これは誰何の文言であろう。私に対してか、それとも私の行為に対してかは判断が付かないが、何かを問われているのはわかる。

 私は自身に対する問いと当たりを付けて、こう答えた。

「トラ」

 トラ、そう虎である。蘇る懐かしい記憶。縞柄の毛並みをみて、「家」の友達は私をトラと呼んでいた。

 今、名乗るべき名があるとすれば、ソレを置いて他に無し。

 私は再度問いかける。詳細な意味などしらぬ、ただ彼の人は何者であるのかと。

 返答はアッサリとしていた。

「ルイオディウ, ワディエツヤ ドゥイグ」


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