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電波猫のお仕事  作者: おばば
石器時代編
11/128

11.電波猫と食事

 暴風の如く吹き荒れていた魔力が、唐突に行き場を失って拡散する。紫の燐光が辺りを薄く照らし、やがて熱を失った火の粉の様に淡く消えていく。魔力循環の核たる魔晶石を失った私の体から、常時展開されていた魔力膜が剥がれ消えていく。それは薪火の終わりにも似ていた。

 胸部に空いた穴を、制御可能な魔力膜で塞いでしまえば、過剰な運動のツケを払えと言わんばかりに、全身の筋肉が休眠状態に陥った。もう、一歩たりとも動かない自分の体を眺めていれば、安心にも似た情感がこみ上げた。バックグランドで演算を続けていた交戦回路が、最後の仕事とばかりに復帰までの推定時間を告げる。

 8:17′08.35″。

 嗚呼、そんなに寝てしまっては夜が明けてしまう。半ば落ちかけた瞼の隙間、私は最後に彼を見た。冷たい月の下、彼はこちらを見つめていた。その瞳に困惑を、その体に無事を認めて、いよいよ眠りに落ちる刹那。

「バアイ エディン ヤイオ?」

そんな聞き慣れない誰何の声が聞こえた。


 目が覚めたとき、視界にあったのは逆さになった焚き火と、土壁だった。細く暁光が覗いているのは、入口が南側に開いているからだろうか。それにしても、仰向けになって寝ているとは何たる無様。体を起こそうと腹筋に力を入れて、自分の首根っこが押さえ付けられている事に気がついた。はて、とばかりに目をやれば、昨晩にも見た顔が至近から私を見ている。その左手は私の首に掛かり、右手には尖った石の破片、いやこれは打製石器と言うべきだろ、いなやその前に。

 首に掛かる力が増した瞬間に、右手が勢い良く振り下ろされる。

 途端に時間が粘性を帯びる。

 どろりと進む右手を視認すると同時に、役に立たない思考の一切が破棄された。

 交戦回路がトリガーされ、痙攣と同じメカニズムで後ろ足が跳び上がる。

 狙いは橈骨動脈、肩から下のみを撥条のように撓めて、一気に切り裂く。

 右後ろ足に石器が触れる一瞬のみに魔力回路に火を入れる。 

 硬質な音と共に弾ける石器。

 同時にこちらの重心がズレて、爪は急所を外れた。

 浅く皮膚を裂いた感触と、ごく短い悲鳴。

 交戦回路から脳髄に思考が割り振られると同時に、全身を捩って拘束を解く。

 ここにきて、ようやく私は悲鳴を上げる。自分でも驚くほど惨めったらしい鳴き声を置き去りに、闇雲に四肢を振り回して出口を目指す。

 あと三歩のところで後ろ毛に、手が伸びてくる。

 魔力回路にコマンドを送ったところで、ガス欠に気づく。

 交戦回路に再度のトリガー。

 右半身が強制的に脱力して、中空で半身に向き直る。

 こちらの首を執拗に狙ってくる手を目がけて、電圧を最大にした交信電波をコンマ1秒のみ起動。

 バチバチと空気が音を立て、一瞬のオゾン臭に包まれる。

 せいぜいが静電気程度だが、効果は覿面だった。

 素早く引かれた右手を、視界の隅に捉えながら一気に出口まで跳躍する。

 あとはもう体力の続く限り、全力で走り続けた。

 もういい加減、体力が尽きた辺りで、適当な木に攀じ登る。

 幹を背中に、周辺に探査を掛ける。

 全ての探査が空ぶったところで、一気に緊張が解けて、またしても深い眠りに落ちていく。今度こそは交戦回路も推定復帰時刻を教えてくれなかった。

 


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