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電波猫のお仕事  作者: おばば
鉄器時代編
104/128

104.神獣と折檻

「………なる程、それでワッチらの所に来る暇が無かった、とそう言いたいのですね?」

 濛々たる煙を吐き出すと、朝雲はそう訊いた。

 訊いた、とはあくまで字面の話である。実際には朝雲達数十人に囲まれての恫喝である。何故か水の入った桶を持っている者がいるのは何故なのか。恐ろしい。

「………誓って言うが、忘れていた訳では無いのだぞ?それにお主らの働きぶりは相当なものであったとも聞いている。流石は私の巫女達、私も大層に鼻が高かった」

 とりあえず煽ててみる。

 私の言葉に、朝雲はフゥ、と長く煙を吐き出し。

「………夕霧、やりなさい」

 容赦なく水を浴びせかけたのであった。

 ニギャー。

「非道い!お主らは鬼か!?何という事をするのだ!?」

 只でさえ雪の積もる冬の最中である。全身をずぶ濡れにされるなど、私で無ければ命に関わる。正に悪鬼の如き所業と言えよう。

「これくらいで死ぬような貴女では無いでしょう。私達のことを四月も放っておいて、丁度よいお灸ですよ」

 ホホホ、と口元に手を当てて高らかに嗤う。何という悪女であろうか。

「大体、貴女ならその自慢の尾を伸ばすなり何なりと方法はあったでしょう?便りの一つも無かったのは忘れていたと言うことに相違ありません。この私を欺けるなどと、侮るのも大概にしなさいまし」

 ぐぅの音も出ない正論であった。

 その様子を見て、また高らかに嗤う。

 自分自身を魔力膜で覆って減圧乾燥を掛ける。毛が引っ張られて痛いが、ずぶ濡れよりはマシである。フリフリと体を震わせて残った水気を払う。

 それを見た朝雲は。

「………白雪、次」

 またしても水を浴びせかけたのであった。

 ニギャー!

「何をする!!止めろ!!」

 私の言葉に、煙を吐き出す朝雲。

「お説教は終わっておりませぬ。誰が乾かして良いなどと言いましたか?」

「お主ら!仮にも私は神様扱いされているのだぞ!不敬とは思わぬのか!?」

 思わずそう言い返す。

 私の言葉に朝雲は、ほぅ、と目を細める。

「………日頃からアレだけ神様扱いをするな、と言っているのに、都合の良いモノですわね。朝日、次」

 ニギャー!


「………私が悪かった。すまんかった。勘弁してくれ。私は本当に水が嫌いなのだ………」

 私は泣いた。サメザメと泣いた。涙が出ないのは猫だからである。心では泣いている。

「さて、漸く反省したようですね。ではこれまで何をしていたか、話してくれますね?」

 まるで慈母の様に微笑みながら朝雲が問う。その前に体を乾かしても良いか、と訊いた。その慈母の様な女は、悪鬼のように首を横に振った。


「………というわけでな。隔離病棟に籠もって居ったし、病状の安定せぬ者も居ったのだ。仕方なかろう?」

 そうだろ?と阿るように上目遣いで見遣る。

 ふーむ、と唸るように朝雲は思案に耽る。

 寒い。毛が張り付いて気持ちが悪い。しかし、身の一つも捩ったが最後、また水を浴びせかけられるのは目に見えている。耐えるしか無いのだ。

 こっそりと交戦回路に火を入れる。体温が上がり、時間が延び。

 ダメである。苦痛な時間が、体感で増すばかりだ。仕方なしに交戦回路を切る。

 寒いよぅ。

「………分かりました。誰か、トラを拭いて差し上げて!」

 漸く私は水責めから解放された。

 乾いた布で拭かれるとは、こんなにも気持ちの良いモノかと思った。


 漸く人心地付いた頃に、朝雲に問う。

「いや、放っておいてすまんかった。して、お主らの方はどうであった?一応、健康診断が終わった後は、予定通り教室を開くように里長には言っておいたのだが………」

 先ほどの水責めの恐怖が張り付いて、つい、歯切れの悪い問い掛けになる。なる程、折檻というヤツは恐ろしい、禁止して良かった。こんなモノ、子供の成長に良い訳が無い。

「里長。あの気色の悪い女ですか」

 そう、吐き捨てた朝雲の顔には紛れもない嫌悪の色。

 何というか、予想通り、仲良くなれんかったか。明らかに性格が合わない組み合わせであるとは思っていたが、朝雲の表情を見るに察するに余りある。

「トラ、貴女にしては珍しく当てが外れましたね。教室は開けておりませぬ。私達は病人の看護のみに専念せよと申し付けられましたので」

 なんだと。

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