御所のかかりつけの医者
庭先に花が咲いた。
それは赤や紫の朝顔で日課の水をまいていると、何やら離れ家から笑い声がしている。
いつもは朝早くから離れで剣術の稽古の「ヤーー、ターー」の掛け声がするのに何故だ。
「誰か来たのか?」
「夜遅くに、2人が参りました。名は名乗りませんが昔の知人だそうです」
「名乗らなかった。向こうが確認したのか?」
「書状を手渡すと、急ぎ案内して欲しいと頼まれました」
「まあ、いいいか・・・」
足利義輝が、患者を診て欲しいと来たのは30分後だった。
屋敷で患者を診ているのは、医者になって経験が少ない医者だ。
俺は見ないようにしているが、居候の頼みなので気楽な気持ちで引き受けた。
それなのに、目の前に居るのは上杉謙信だった。
今は上機嫌であったが、鑑定した結果は・・・肝臓が悲鳴を上げる直前だ。
多分、酒の飲み過ぎが原因だ。
いくつか質問をしてゆくと、大の酒好きだと判明。
見立てもアルコール依存症でアルコール性の脂肪肝だった。
肝臓に大量の脂肪が沈着した状態で、糖尿病と高血圧症にもなっている。
それより大変なものを見つけた。
脳の血管にこぶが見られる。
高血圧症でいつ脳内出血で倒れるか分からない状態だ。
「これは大変危険な状態ですね」
「え!そんなバカな・・・あまり痛みがないが・・?」
「肝臓がぼろぼろの寸前です。肝臓はぼろぼろになって初めて痛み出すのです。そして1番悪いのは、頭の中の血管が破裂して死ぬ恐れがあります」
上杉謙信に付いて来た家臣の驚きは、こっちが見ていて可哀想に思えた。
足利義輝も同じ思いをしているのだろう。顔が真剣だ。
家臣は今にも倒れそうになり、近くの看護婦によって支えられる程だった。
それに対照的なのが、謙信だった。
「そうであるか・・・」
その言葉を発して黙り込んでいた。
我に返った家臣は「治りますか?」
「治りますよ」
謙信は「え!治るのですか?」
「治りますが、酒はもう禁止です。同じ過ちはしないと誓って下さい」
謙信はう~ん、う~んと唸って「分かり申した。毘沙門天に誓いを立てよう」
このまま手をかざして治してしまうと、この手の患者は元に戻りそうな気がした。
手術で治すのは難しい手術だが、とりあえず麻酔で眠らせた。
謙信の顔を平手で叩いた。全然反応しないから、ぐっすりと寝ている。
「先生どうしますか?」
「ここは俺1人でやるから出ていてくれ」
最初はきょとんとしていたが「分かりました」と言って出てゆく。
俺は手をかざして回復魔法を掛ける。みるみる肝臓や脳の血管が治った。
鑑定表示にも糖尿病と高血圧症も表示されていない。
見事に完治した。
頭の髪もそって、うっすら傷をつけて糸で縫って、腹部も同じように縫った。
1時間後にドアを開けて出た。
「先生、手術は・・・」
「難しい手術だったが成功だ」
「本当ですか・・・」そのまま泣き崩れた家臣は、又も看護婦に介護されている。
上杉謙信は2週間も、離れ家で過ごして抜糸も完了して帰った。
離れで過ごした間に、こっちの食事にハマッてしまい。
5キロは太った。
特にハマッたのが、河豚のてっさだ。
毒河豚を食らうのに躊躇したが、足利義輝が美味しそうに食べている。
意地を見せて食べた結果。大好物になっていた。
「このこりこり感がいい」
そして、上杉謙信に頼まれた。越後から来る医者候補を医者にしてくれと・・・
それまでは、噂を聞きつけた医学者が医学を学んでいた。
しかし、今回の件があってから、方々から医者候補がやって来るようになった。
仕方ないので、京にも大病院を建てて医者を教える場所を作った。
その為に、紀伊や伊勢からも数人の医者がやって来た。
その医者に丸投げして、将軍もそれを了承してくれた。
それ以降、御所のかかりつけの医者にもなった。
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