出産と出版
京の屋敷では、静香が陣通を起こしてうなっていた。
「規則正しくして、ふふはー、ふふはーと息を吸って吐いてーー」
女性医師の声が聞こえている。
「殿、殿、そんなに歩き回っては、床が抜けまする」
「なにを言う、抜けるものか?」
床をどんどんと踏んでみせた。
なんだかイライラとしてきた。
思い切って、俺の回復魔法を使うかと考えもしたが、下手すると胎児を病原体として消すかもしれない。
そう思うと、回復魔法は使えない。
「いくー、いくわー」
「もうすぐです、りきんでーー」
「おぎゃー、おぎゃー」
「あ、生まれた」
歩き回っていた足が止まり、なぜか泣けてきた。
「おい!男なのか?」と山田のおっさんが聞いている。
急に襖が開き、小さな赤子を抱く女性医師が出て来た。
「男の子です」
俺は恐々《こわごわ》とのぞくと、サルの子のようなしわしわ顔があった。
サルだと言いそうになったが、堪えた。
寝ている静香に近づき「頑張ったな」と言いながら手を握り、回復魔法を掛けた。
静香は何か言いたそうにしていたが、おだやかに寝息を立てていた。
「ゆっくりと寝ていてくれ」
武藤一郎がお祝いに駆けつけていた。
伊勢から早馬で駆けつけて来たのだろう。髪が乱れたままだ。
「殿、おめでとう御座いまする。して名は決めましたか?」
紙に『一』と書いたのを見せた。
「え!一文字で御座いますか、してどう読むのです」
「一と書いて、はじめだ」
「殿と同じく、一文字でよろしいのですか?」
「ああ、これでいい」
翌日から訪問してくる大名が多かった。
「殿、そんなにごねては、本郷家の威信に係わりまする。しかと挨拶に答えるべきかと・・・」
ああ、うっとうしい。
そんな対応はしたくないが、一の為だ仕方ない。
諦めモードで、大名にお礼を言ってゆく。
参勤交代で、大名が京に居たのがまずかった。
15時頃には、訪問も途切れた。
「俺はきのうの晩から寝てないから、もう寝るから呼ぶな。後は武藤に任せる。ちゃんと顔を覚えてもらえ」
「お疲れでしょう、早く寝る仕度をしないか・・・」
やはり、顔を覚えてもらえの言葉が効いた。
寝る前に、静香の所に寄ると隣では赤子がすやすやと寝ている。
「静香、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「そうか、そうか」と言いながら手を握っていた。
「殿、なにか面白い話はありませんか?」
「う~ん、殺人の話でもいいか?」
「なにか刺激的です・・・お願いします」
「ある孤島に、人が招きよされれた。たがいに面識もなく、職業も年齢もさまざまな10人の男女が招かれた・・・・・・死んでいた」
この話を聞きながら、静香は凄く興味を持ったみたいだった。
この話は、アガサ・クリスティー作の『そして誰もいなくなった』を日本風にアレンジして話した。
終わった時には、目をきらきらと輝いていた。
そして、毎夜、毎夜そんな話をする羽目になった。
そして俺の知らない所で、その話は出版されていた。
俺は、「えーー」と驚くしかなかった。
まさに盗作だ。そんな盗作を出版するなんて・・・・・・
そして、その話はシリーズ化されていた。
名探偵エルキュール・ポアロが名探偵 赤木一と名を変えてシリーズ化。
ミス・マープルが静香と変えて、これもシリーズ化。
この作品は、女性が主人公の為に女性に人気で、売り上げが1番だった。
そんな出版物が日本に広まってしまった。
俺は知らないよ・・・
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