小田原城兵糧攻め②
小田原城から町人やお百姓が逃げ出して来るようになった。
子供や女は、特にやつれた姿だった。
どうやら意図的に逃がしている。
食糧が尽きかけている証拠だった。
与えられた飯や漬物を、両手で掴み口に入れては咳き込みながら食っている。
そして味噌汁を一気飲みして、またも喰らっている。
幼子などは、噛む力もないのか母親から口移しで食べさせて貰っている。
老人は一口食べて、涙を流す始末だった。
落ち着いた頃に、ポツリポツリと証言をするようになった。
中では雑草をゆでて食べるようになっていた。
その雑草も無くなり、ひもじい日々を過ごした。
馬や牛も、既に食べ尽くされていた。
逃げてきた者の証言は、皆が一致している。
この時代の兵糧は、荷車で運ぶか現地で略奪のどっちかで、それとも両方をしていた。
なので兵糧が少なくなれば、国に帰ってしまうのが当り前であった。
今まで小田原城の兵糧攻めも20日か1ヶ月が限界だった。
しかし、今回は違っていた。
すでに2ヶ月に入ろうとしている。
そして、小田原城でカラスの大群が「カーア、カーア、カーア」と鳴いている。
日増しに増えるカラス達。
俺は、小田原城を眺めていた。
「見張り台からの報告はどうなっている」
「何も報告することもないと言ってます」
「そうか、中ではどんな地獄になっているのだろう」
「忍者隊に調べさせますか?」
「いや、そのままでいい。雪斎殿が放置することを決めたのだ。なのでそのままでいい」
風魔一族の里は、雪斎が率いる軍勢で皆殺しにあっている。
なので北条側は、一切の情報が無いままなのだ。
逃げ出す者がいなくなってから、1ヶ月が経過した頃だった。
門がゆっくりと開き、やつれた男が出てきた。
1人が出てくると、次から次ぎと出て来た。
その足取りは、ふらつきながらゆっくりと歩いている。
門は開いたまま閉まる気配も無かった。
中には倒れて動かない者もいる。
警戒しながら駆け寄ると、凄くやつれた男がかすれる声で発した。
「飯を喰わしてくれ」
門の中に入ると、そこらかしこに倒れている。
俺は言い放った。
「おかゆをゆっくりと食わせろ。急に沢山食わすなよーー」
そんな俺に、山田のおっさんは疑問に思ったのか、質問をしてきた。
「殿、なぜ鱈腹食わせないのですか・・・」
「長時間、絶食にさらされた為に極端な栄養不良に体がなっているんだ。そこに急に多量の栄養を取った場合は、体の変調が現れてしまう。最悪の場合は、不整脈や心停止を引き起こすこともあり得るんだ」
「死に至るのですか・・・」
山田のおっさんも、医療隊と日頃から接して色々と聞いていた。
それで、なんとなく理解したようだ。
次々と城内に踏み入った。
大広間では、異常な光景が広がっていた。
北条の主立った者が、今もなお議論していたのだ。
顔の色も異常な色で、目の下にはクマが発生している。
すでに思考が麻痺しているようだった。
武田信玄は、怒鳴った。
「この愚か者が!!それでも上に立つ者なら、それらしき振る舞いがあるだろう」
その声を聞き正気に戻ったのか、北条氏康は腹を切った。
かたわらにいた武士がすくっと立上がると、刀で首を刎ねていた。
皮1枚を残した為に、頭部を自分自身で抱え込むような姿だった。
誰も止めることは出来なかった。
俺はその事を後で聞いた。
腹を切っただけだと、中々死ねないのだ。
ただ苦しいだけで、失血死で死ぬまで苦しむのが当り前だった。
だからその苦しみを終わらせる、介錯人が首を刎ねて止めをさす必要があった。
上杉謙信や様々な大名の当主が、小田原城に入ってその惨状を見てきた。
島津義弘などは、昨日ようやく到着したばかりだった。
なので今起きていることに頭が付いてゆかない。
そして見てはいけない物まで見てしまった。
すみっこで嘔吐を繰り返しては、泣くしかなかった。
島津家の家臣が、寄り添って介抱している場面は痛々しい。
遺体を突っつくカラスを、弓で射って殺している。
「惨いな、こんなになるまで何を守っていたのだ」
それぞれの当主は、その光景を見て深く考え込むのだった。
今川氏の財力や実力を、じかに接してしまい思うことが一杯あったのだ。
そして、ここの参上した大名は、領地の安堵を約束されたのだ。
「国へ帰るか・・・」
そして、各々の国へ帰ってゆく。
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