正月
冬の寒い時期に、正月がやって来てしまった。
京の今川邸には、大勢の家臣がはせ参じていた。
将軍職に付いて、初めての正月。
近隣の大名もこれる者は、大勢が来ていた。
今年は大名の正念場になっていた。
俺は前日に京入りして、今川邸から離れた本郷邸からはせ参じた。
そんな俺に近づいたのは、松永久秀だった。
「本年もよろしくお願い申します」
「こちらこそ、本年もよろしくお願い申します。して、松永久秀殿に聞きたいことがあるのだが・・・」
「なんでしょうか?」
「果心居士と言う人物を知っていますか?」
果心居士は、肝心な事は余り語らなかった。
せめて、松永久秀から情報を仕入れておきたい。
松永久秀の眼がギロリとして睨み付けてきた。
「お会いになりましたか?」
「会ったな、そして松永久秀殿のことを頼まれた」
「そうですか・・・よろしくお願いします」
そして聞いた話は、不思議な話だった。
何でも幼い頃に森の中で迷子になり、あてもなく歩き回っていた。
そして、日が暮れかかった時に「ウウウーー」と唸り声を聞きソイツは現れた。
山犬の集団であった。
「ああ、もうダメだ」と思ったらしい。
なぜなら、山犬の眼が4つもあったのだ。
幼いながら、親から聞いたもののけだと悟った。
しかし、ひとすじの風が舞うと黒い人が現れて、一刀両断にもののけを斬り倒した。
ある山犬などは、首を刎ねられていたらしい。
それも首を斬って下さいと、己から首を差出した。
「坊は迷ったか・・・仕方ない奴だ」
その途端に寝てしまったらしい。
眼を覚ますと、目の前に親が居た。
そして、その不思議な話は誰にも話していない。
話すことは絶対にダメだと、何故か信じ込んだ。
そして、危険が迫ると現れる果心居士であった。
直接に助ける場合もあるし、危険回避に役立つ話をしてくれる時もあったらしい。
その中で注目したのが、天下の名器九十九髪茄子を手に入れた話だ。
朝倉宗滴が五百貫で購入。
銭の必要があって越前小袖屋に質入れされた。
それ知った松永久秀は越前小袖屋へ急いだ。
「どうか松永久秀に、九十九髪茄子をゆずって欲しい。一千三百貫を用意して参った」
「この九十九髪茄子を一千三百貫で手に入ると思いですかな。最低でも一千六百貫は必要かと・・・」
それでも諦めきれない松永久秀。
翌日、かき集めた百貫を足した一千四百貫を持参して訪問。
しかし、その時の交渉相手の態度がころりと代わっていた。
「一千貫で譲りましょう」と値段まで下げてきた。
そして、九十九髪茄子を一千貫で手に入れた。
果心居士の関与が疑われる話だった。
そして案内人に連れられて、松永久秀と分かれた。
どうも挨拶をする前に、銭を係りの人に渡す必要があるらしい。
どうやら100文を渡す者や200文を渡す者もいて、銭の金額は決まっていない。
それより、聞いてないよ・・・そんなことは・・・
こっちがお年玉が欲しいくらいだ。
仕方ない、10キロの金塊を取り出して渡した。
たまたま銭の持ち合わせが無かった。
受取った奴は、その重さに驚き輝きにも驚いていた。
俺の後ろにいた奴は、腰を抜かしていた。
無事に新年の挨拶が済み、帰る事にした。
凄い勢いで山々を走る。一刻も早く帰る為に・・・
帰る先は、紀伊の新しい城だ。
白浜の近くに白浜城を建てた。
白を強調した城で、姫路城に負けないぐらいに優美に建てられた。
五層六階の大天守をもつ城で、大天守と渡櫓で結ばれた5つの小天守からなる連立式天守だ。
空中から見れば、一際大きな天守と正六角形を描くようになっている。
そして、白い漆喰の壁が華やかさを演出している。
その城とは別に、普段の生活の場の屋敷が隣接している。
その屋敷には、内風呂と露天風呂があって。
そして毎日、天然温泉の掛け流しの露天風呂に入ってなごんでいる。
勿論、静香も一緒に入って背中の洗いあいっこをしている。
そしてこことは別に、海を目の前にして入れる露天風呂も作った。
海が荒れた日には、露天風呂まで波が入ってくる程だ。
「ザッブンザザザ・ザブンザザザザ」と打ち寄せる波が心地よい。
そしてようやく到着。
京に比べると、はやり暖かい気がする。
戻った俺を見て、家臣は驚いていた。
城の太鼓が鳴り、急ぎはせ参じてくる。
俺は挨拶はいいと断ったのに・・・
「殿、早いお帰りで申し訳ありませぬが、新年の挨拶をお願いします」
山田のおっさんに言われたら断れない。
昼過ぎまで挨拶が続き、話すのも億劫になり、本郷小判を記念に渡すだけにしている。
これも、新しく作った小判で、プレス機の導入で簡単に作れるようになった。
これで1貫の重い銭を持ち歩く必要がなくなるだろう。
勿論、今川の殿様には、了承してもらっている。
そして、銀を使った硬貨も作った。
本当は江戸時代に使われていた。
長方形のニ朱銀を作ろうかと考えたが、真ん中に穴の開いた銀の硬貨にした。
銅銭のように紐を通して使えるからだ。
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