初めての夜と温室
静香が三つ指を軽く床につけて、ていねいに礼をしてきた。
バクン・バクンと心臓が高鳴っている。
これは昔風に言う初夜のあいさつなのか・・・このままではいけない。
「ちょっと待ってくれ」
「待てとは・・・母上に聞いたのと違いまする」
「いや嫌いとかでなく、君はまだ若い。16歳になった時にあれをしよう。・・・それがいい」
日本では女性の結婚できる最低年齢が、16歳から18歳にかわるらしいが、16歳になればOKだったのだから大丈夫だろう。
「なぜなのですか・・・」
「え!えーーと、子供が出来てしまうと、14歳の体には負担が多すぎるんだ。君のことは好きだけど君の体が心配なんだ・・・これでも医術の知識があるんだよ」
「見知らぬところへ来てしまったのです。あなただけが頼りなのです。どうか1人で寝ろとは言わないで下さい。今でも胸が痛いのです」
俺はそっと静香の手を取って、回復魔法を掛けてみた。
なんだ、ただ興奮しているだけだ。
「あなたに握られて、心が静かになりました。おそばで寝てもいいでしょうか?」
「まあ、寝るだけならいいかも」
このまま彼女を帰す訳にもいけない。
下手に帰して悪い噂がたつと、彼女が可哀想だ。
心を落ち着かせて深呼吸をしよう。
「スーハー、スーハー」
なんだか落ち着いてきた。
「この掛け布団をめくって寝るといいよ」
「あら、やわらかい。これが噂の布団ですね」
スススと布団に入って、安心したのか10分程で寝息を立てていた。
「可愛いな・・・俺も寝るよ・・・」
少し恥ずかしかったので、背を向けて寝てしまった。
俺と静香はガラスで出来た温室に入っていた。
このガラスは、割れにくいガラスで建てた。
台風が来ても、飛ばされない程の頑丈さを持っている。
支柱も地面深くまで突き刺しているからだ。
「この赤い実がイチゴですか?」
「そうだよ、白いのはまだ食べられないから気をつけてね」
そう言いながらもぎ取って、ヘタを取ってから渡した。
少しだけかじって「美味しいです」とニコリと笑っている。
俺もイチゴを取って、食べた。
ああ懐かしい味だ。このイチゴは、俺が食べた中で一番美味しかった。
自画自賛で、自分自身を褒めてやりたい。
知らない間に、静香は沢山食べていた。
「あまり食べ過ぎると、マスカットが食べられなくなるよ」
その途端に手が止まった。そして「うふふっ」と笑っている。
次に入った温室には、マスカットが育っていた。
ガラスが紫外線を通しにくいという特徴から、皮が柔らかく、繊細な味わいに仕上がっていた。
静香は、背伸びをして取ろうとするが、指先しか当たらない。
困り顔で俺の方を見てくる。
「仕方ないな・・・このマスカットでいいのか?」
「はい」
ハサミを取り出して切って渡すと、皮ごとパクリと食べていた。
種無しのマスカットでよかった。
皮も美味いのか、次の1粒もパクリと食べている。
「あまい水が広がって美味しい」
「そうか、美味しいか・・・」
最後には、高級メロンを切って、スプーンを渡した。
キョトンとした顔をしている。
「こうやってすくって食べるんだよ」
すくったメロンを、静香の口へ持ってゆくと、またもパクリと食べた。
「ああ!これも美味しいです」
なんだか、殺伐とした戦いと違って、凄く癒された感じだ。
俺には、こんな時間が必要なんだと思う・・・
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