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虚偽を謳う獣たち  作者: 弟切 湊
file.1 道具か生命か
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第13話 決行日

“ドール”をおびき出す作戦の大まかな枠組みが決まり、それを実行するために部長のリチャードや局長のキョウカの許可を取ってから早二日。

いよいよ作戦の決行日となった。


目的地は中央区の端にある建設途中のビルだ。このビルは基礎工事や、柱など基本構造の工事が完了しているものの、何らかの理由で工事が中断されている。足場は組んだままで、建物全体に覆いがかけられたままであり、今回の条件にも合致する。残念ながら水場はないものの、中は多少荒らしても良いと許可が降りていて、近隣には人も住んでいないため、ここほど適する場所はなかった。

ここで弑流しいな、リチャード、シャルルの三人が待ち構え、みおひじりペアとリン・レノペアの内、“ドール”に目を付けられた方が誘導してくるという手筈だ。全員に無線機が配られているため、何かあればそれで連絡することになっている。


念の為、ビル近辺の消防部や救急部には事前に連絡が入れてあり、一報入れればすぐさま駆けつけて貰えるよう手配してある。調査部の手に負えなくなれば、彼らを頼ることになるだろう。



ビル待機組はリチャードの運転で無事にビルまで辿り着いた。無線をすぐに取れるよう、全員が身につける。リチャードとシャルルは各々の拳銃で抜き打ち動作の練習をしたり、不具合がないかチェックを始めた。銃火器携行資格のない弑流はすることがないため、ナイフを振る練習などをした。

ビル内はだだっ広く、四角い箱の中のようで、死角になりそうな場所もない。よって、対策も特に練ることがなかった。ただ二組どちらかからの連絡を待つ。やれることはそれだけだった。



§―――§―――§



澪・聖組、車内。


車を出すためにエンジンをかけ、ギアをドライブに入れてサイドブレーキを外す。バックミラーで澪がきちんとシートベルトをしているのを確認してから、ゆっくりとアクセルを踏んだ。動き出した車に、聖は小さくため息をく。

――澪と二人で、凶悪な犯人をおびき寄せろ、だなんて。

会いたくない人間の中でも上位に入る人である区長から逃れるために、休憩室に移動している間にとんでもない事になってしまった。

もちろん、承諾したのは彼本人だが。作戦内容を考えるに澪の参加は必須だし、そのペアとなれば彼が選ばれるのは必然だから、断るに断れないだろう。


「……義父とうさん? 大丈夫?」


耳が良い澪には、聖のため息が聞こえたようだ。彼が大きなアイスブルーの瞳を曇らせて聞いてきた。

……実を言うと大丈夫ではない。下手したら自分たちか相手が死ぬような任務なんて、不安じゃない訳がない。それも、相手は式神だ。普通の人間なら聖にも何か対処のしようがあれど、式神とあらば澪に任せるしかなくなる。聖にとってはそれが一番嫌だった。


「澪が怪我をしたらと思うと、な。ただでさえあいつらのせいでそんな体になっているのに、これ以上傷を増やさせたくないんだ。俺が足手まといになってしまう可能性もある」


澪はそれを聞いてムッと頬を膨らませた。


「何でそんなこと言うんだ。義父さんが足手まといになるなんてあり得ない。僕が怪我するなんてあり得ない。あの時だって義父さんは強かったし、僕はあの時より強くなった。あんな人形みたいな奴に負けるはずないじゃない」

「……ふっ、そうだな」

「何で笑うんだよー」

「悪い悪い、頼もしくなったなと思って」

「当たり前だよ。義父さんの役に立ちたくて仕方ないんだもの」

「ははっ、それは光栄だ。俺も頑張らないとな」


他の局員がいる仕事部屋では決して見せない、朗らかな笑顔を浮かべた二人を乗せた車は、目的地へ向かって緩やかに向かっていく。少し前まで曇っていた聖の表情も、どこか自信に満ちていた。



§―――§―――§



燐・レノ組、車内。


運転席に座ったレノが、鞄の中から取り出したサングラスを前髪の下に掛けた。それから前髪を上げてピンで留める。前髪を下ろしたままでも日常生活に支障がない程度は見えるが、万が一事故を起こしては面倒なので、こうして運転する度に上げているのだ。

助手席には固定されたショットガンと、換えの散弾・スラッグ弾が入ったポーチが置いてある。よって、助手席には座れない燐は後部座席に座っている。

近接で最も威力を発揮するショットガンは、“ドール”の間合いで撃てば殺してしまう可能性があるため、彼を生け捕りにするという今回の任務には不向きだが、念の為の護身用として持ってきていた。実際使う予定なのは局で採用されている指定の小型拳銃で、こちらは犯人の捕縛用に殺傷能力が低く設定されている。急所でも撃たない限り殺すことはないだろう。

また、二人一組ツーマンセル以上の場合、誤射の危険も考慮して基本的には刃物を使う。そのため、小型拳銃の他にこちらも局指定のナイフを持ってきていた。

レノは腰に装備しているそれらを実際に触って確認した後、流れるような動作で車を出す。


「…………」

「…………」


双方無言のまま、車は規定の速度よりも若干速いスピードで進んでいく。

最初に沈黙を破ったのは、レノの方だった。


「……ねえ、君さ、僕と組まされて不満とか無いわけ?」

「? 何故そう思う」

「君と最初に会った時、僕が麻酔銃撃ったの忘れた? あの時は僕のこと今にも殺しそうな目で見てきたじゃん」

「ん? ……ああ、そんなこともあったな。あの時は僕も余裕がなくてな。不快な思いをさせたなら悪かった」

「…………。君が謝るのは意味分かんないんだけど。どっちかって言うと、僕が謝る側でしょ。麻酔銃撃ち込んだんだから」

「そうなのか? なら、別にあんたが謝る必要はないな。僕は気にしていないから」

「……ああもう、君と話すと調子狂うなぁ」


カーブを曲がるためにハンドルを切りつつ、呆れたように頭を振る。


「“獣っぽいから”って理由で乱暴にした僕が馬鹿みたいじゃん」

「気にしてないって言っただろ」

「分かってる。でも僕は気にするんだよ」

「意外と繊細なんだな」

「ほっといて。僕だって好きでこんな性格になったわけじゃないから」

「それもそうだな」


ここにシャルルやリチャードがいたならば、存外仲のいい二人に微笑んでいただろう。


「……君が文句ないのはよく分かった。から作戦の話だけど、僕はあんま戦えないからそのつもりで。サポートはするけど」

「分かった。それこそ麻酔銃は使えないのか?」

「あれはある程度動きを制限した相手にじゃないと使えない。刺さってすぐ抜けたら意味ないし、変なところに刺さって死なれたら困るでしょ」

「そうか。あんたが援護だけで済むようには善処する」

「はいはい、よろしく」

おまけ

調査部署員の強さ相関図


強↔弱


御影>澪>燐>聖≒レノ>弑流>シャルル>リチャード>ガブリエレ

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