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虚偽を謳う獣たち  作者: 弟切 湊
序章
22/105

第18話 服屋

「おい、本当にここであっているのか?」


小柄な少女の疑問の声を聞きながら、弑流しいなと彼女は目の前にある巨大なビルを見上げていた。上から下までアパレル関係の店しか入っていない、二人が今までで全く縁のない場所を、二人揃って見上げていた。



時間は数時間前に遡る。

初任務から約一ヶ月が経ち、一通り仕事の仕方を身につけた弑流の元に、足が完治したリンがやってきた。呪術師の元に返すわけにはいかないので調査部に配属されてきたらしい。

試験を受けていない入局は特例ということになるのだが、ひじりみおも特殊な事情で試験を受けていないことや、燐の戦闘能力の高さなどから認められたという。

そんな燐と弑流の二人に、リチャードから任務が与えられたのだが――。

その任務というのが、”燐の服探し”だった。


『服探しですか?』

『そう。燐さんは着ていた服しか持っていないし、クローフィ先生の病室では病院着でやり過ごせたけど、この先ずっとそのままというわけにはいかないだろう? だから、二人で好きな服を買ってきて欲しいんだ。お金は経費として下りるから気にしなくて良いけど、一応予算内で済ませてね』

『はあ、分かりました』


こうしてリチャードから紹介された服屋に二人でやってきた訳だが。


一軒の小さな店を想像していた彼らの想像を遙かに超える建物を目の前にして、二人してたじろいでいるのであった。



「地図的にはあってるはずだけど……。まさかここまでの店とは……」


普段の弑流は敬語を使うが、燐の喋り方がフランクなことや彼女の方が年下なことから、彼女には敬語を抜いて喋ることにしている。


「悪いが僕は服とか何が良いか分からないぞ」

「ええ、俺もあんまり詳しくないんだけど……。まあ、店員さんに聞けば何とかなるかな」


ずっと入り口に立っている訳にはいかないので、意を決して中に入る。中はかなり広く、地図を見ないと何処に何があるか分からない。

一応階層ごとにジャンル分けされているようだが、燐がどのタイプの服を好むのか分からない以上はそれも参考にならない。

弑流は少し迷った後店員に声をかけることにした。


「あの、すみません」

「はい、何でしょう?」


髪を後ろでポニーテールにした女性店員は、ぱっと笑顔で振り返る。


「この子に似合う服を見繕っていただきたいのですが。似合いそうなブランドを教えてくださるだけでも結構です」

「ああ、分かりました! 私で良ければ見繕わさせていただきます」

「ありがとうございます。……この子の服を探しに来たんですが、お店がとても広くて困ってしまいまして」

「広いですよね、私も入社当時は配置を覚えるのが大変でした。店舗ごとに店員さんもいらっしゃるんですが、ちょうどお客様のように迷ってしまわれる方が多くて。私みたいな全ての店を案内する係が多めに配置されたんです。偶然でしょうけれど、お客様がお声をかけてくださったのが私のような者で良かったです」

「あ、そうか、このたくさんのお店は全部違うメーカーですもんね……すみません、考えが及ばなくて」

「いえいえ、大丈夫です! ちなみに、大まかにはどのようなものをお探しですか?」

「うーん……そうですね……。燐はどんな奴がいいとかある?」

「ん? ああ、そうだな……。動きやすいことを重視したいかな。運動を良くするから。後は、頑丈だと助かる」

「そうなんですね。でしたら、あのブランドはいかがでしょう? シンプルで無難な服が多く取り揃えられていて、生地も丈夫ですし動きやすく、また選びやすいかと思います」


店員が歩きながら指さしたのは、無地の服が大量に並んでいる店だった。男性物も女性物も並べられており、確かに癖がなくて選びやすそうだ。


「いいですね」


弑流が返事をすると、店員は店の中に入っていく。燐を手招きして、頭からつま先まで観察した。


「弟さん、綺麗なお顔をされているのでどんな服でも似合いそうですね!」

「えっと…………」


燐が少年ではなく少女だということ、または弟ではないことを説明すべきか迷ったが、


「そうか?」


全く気にせずに返事した燐を見て、口出しはしなかった。


「そうですよ! んーと、ですからここはまず普段使いしやすいものを……」


店員はいくつか候補を出して、それを燐が吟味していく。この店では灰色で無地の半ズボンと、何色なんしょくかのシャツを買った。


「次はここですね。最近人気のブランドでして、和テイストのものや紐を使った繊細な服が特徴です。ちょっとしたお出かけ時など、お洒落したい時に着るのがお勧めです。繊細な見た目ですが生地が丈夫で動きやすいので、お客様のニーズにもお応えできるかと」


この店は先程とは違い個性的な服が並び、見た目は良いが着る人間を選びそうだった。最も、燐のように平均以上の見目を持つ人型の生き物には着こなせそうであったが。


「悪くないな。……どれが僕に合いそうとか分かるか? 僕はこういうのに疎くて駄目なんだ」

「そうですねぇ……目の色が綺麗な青をしていらっしゃいますし、目の色に合わせてみてはいかがでしょうか。ええと、例えばこの服とか」


店員が手に取ったのは、コバルトブルーのトップス。薄くも厚くもない生地で、着物の様に先が広がった袖は七分丈だった。右は普通だが、左腕の方だけ肩口から袖口までスリットが入っており、それを縫い合わせるように飾り紐が付いている。襟は高襟で、前が鎖骨が少し見えるくらいに開いていた。そして、派手にならない程度に金糸で縁取りがしてあった。

既にかなり特徴のある服だったが、一番目を引いたのは付属品の布だ。裾を斜めにすっぱりと裁断された布は、本体と同じく金糸で縁取ってあり、それなりの長さがあった。


「これは?」

「これは飾り用の布です。この服、そのままボトムスと合わせても十分着られるんですけれど、着物帯を巻くとさらに良いんですよ。それで、その時にこの布を帯に挟むと、下半身も半分だけ着物を着ているみたいになるんです。もちろんボトムスが必要なんですけど、このアシンメトリー感がたまらなくて。普通の人じゃなかなか着られない固定的な服ですが、お客様なら絶対似合うと思います!」


熱が入って鼻息荒く説明する店員を見ながら、燐は生地を触るなどして吟味する。試着も出来るとのことで試着室に入っていったが、それは確かに似合っていた。色のせいもあってか涼しげで動きやすそうに見える。着心地も悪くなかったらしく、結局購入することにした。

流れるように帯コーナーに案内されて軽い生地の帯も買う。なかなか商売上手な店員だった。


そうして予算内で買えるだけの服を買い、二人は帰路についた。

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