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虚偽を謳う獣たち  作者: 弟切 湊
序章
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第14話 クローフィの考え

腹も満たされ気が抜けたのか、ベッドの上ではリンがすやすやと眠っていた。体を横に向けて、枕に顔をうずめている。

彼女のいるベッドには半透明のカーテンが掛けられて、クローフィとレヴァンはベッドから離れた位置で話をしていた。


「先生、私の思ったこと、聞いていただけますか?」

「うん、いいよ。話してご覧。前金ならぬ前血も貰ったし」

「そこはタダで聞いて欲しかったのですけれど、まあいいです。燐様の事なのですが、一部分の記憶が欠落しているとのことでしたよね。呪いで呪術師に不都合な記憶を消しているということはないのでしょうか」

「うん、それは僕も考えたんだけどね。メリットがないんだ」

「メリット?」


レヴァンが首をかしげる。


「そう、メリット。彼女、兄と一緒に暮らしていたと言っていたね」

「はい」

「でも、両親の話は一度もしなかった。まるで初めからいないかのように、疑問にすら思っていない様子だっただろう? ということは、消えているのはその両親の記憶ということになる」

「あ……言われてみれば」

「だから、不都合があるとしたらその両親についてということになるだろうけど……。もしくだんの呪術師が兄のみならず両親も殺して、その事実を隠したいのならば、兄の記憶が残っているのはおかしい。わざと残して自分を畏怖させたいんだったら、そもそも消す必要がないからね」

「確かにそうですね」


クローフィは真剣な表情で仮説を立てては潰していく。


「そこで気になるのは件の呪術師の性格だね。燐ちゃんの話が本当なら、その兄がいなくなってから今まで、自分の式神を何年も使わずに閉じ込めていたってことだけど。これも意図が全く分からない。観賞用にするっていう概念が彼らにあるか知らないけど、それならそれで今更外に出す意味が分からないし。とにかく謎が多い」

「燐様がこうしてトラブルに巻き込まれていても、何のアプローチもしてこられないですものね。まだ二日ですから動かないのかもしれませんが……」

「うん。何にせよ、さっき提供しておいた呪術師の情報で何か分かれば良いけど。…………どんな効力か分からない呪いが刻まれていることは、彼女本人にとっても僕にとっても気持ちの悪いものだからね」


クローフィが話すのをやめると、レヴァンも自然と無口になる。静かな部屋には燐の小さな寝息だけが響く。

しばしの静寂の後、レヴァンがもう一度口を開いた。


「そういえば先程、弑流様の血液を持って踊ってらっしゃいましたけど……。何かあったのですか?」


その質問に、クローフィの白い顔が高揚する。頬に手を当て、恋する乙女のように視線を彷徨わせた。


「うん、あのね、すっっっっごく綺麗な血だったの……」

「あ、そうですか……」

「君には分からないだろうけど、君と同じくらい良い血だよ。その場で飲みたいくらいだった」

「絶対にやめてくださいね」

「ちゃんと我慢したよ?」

「ああはい、偉いです」

「まさかあんな平凡そうな子から良い血が採れると思わないじゃない?」

「失礼ですよ」

「理性保つの大変だったんだから」

「……もうどこから突っ込んだら良いのか」


レヴァンは軽い気持ちで質問したことを後悔する。人外の血液をこよなく愛する医者ではあるが、レヴァンのような人間の血にもごくたまに興味を示す。弑流の場合は大変珍しいことにそれだったのだろう。

クローフィが楽しそうな時なんてそういうときしかないのに、つい気になって聞いてしまったのがいけなかった。次からは控えよう。

レヴァンはひっそりとそう決意した。


どこか別の世界へ行ってしまいそうなクローフィに、違う質問をぶつける。


「燐様のことはどうなさるおつもりですか?」

「ああ、採血? するよ」

「違います。今後のことです。まさか呪術師の元に送り帰す訳ではないでしょう?」

「ああ、そっち。もちろん帰さないよ。帰すわけない」

「でしたらどうするのですか? ここはもうこれ以上預かれませんけれど」

「うん。それはもう考えてあるんだ。彼女と初めて出会ったのは弑流くんだし、彼が今いる調査部は人手不足も良いところだろう? 澪くんだっているから、今後はあそこに在籍して貰おうかなって。キョウカくんにはまだ相談してないけど、彼なら二つ返事でオーケーじゃないかな」

「なるほど。確かに、それ以外の方法はなさそうですね。燐様の背丈からして事情を知らない他の部に預けるのは無理でしょうし、彼らに説明する手間やリスクを考えると、一番手っ取り早いですものね」

「そうだね。彼女の怪我は、人間だと重傷もいいところだけど、式神にとってはそこまでじゃない。一、二週間もあれば綺麗に治るだろうね。そうしたら調査部に引き渡そう」


クローフィはそう言うと、先程入れた紅茶に口を付けた。レヴァンもこれ以上話す必要はないと考え、同じようにカップを傾ける。

白や灰色しかない部屋で、壁に掛かっている赤い絵画は一際ひときわ目を引いた。恐らくは著名な画家が描いたであろう緻密で繊細な絵を見ながら、二人は束の間の休息を楽しんだ。

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