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略奪者の英雄殺し  作者: かなん
3/3

謎のドラゴンは霧に消える

ブックマークや評価していただけたら嬉しいです。

よろしくお願いします。


 戦いから三日、現在、俺は東へ向けて森の中を移動していた。


「フゥ!」


 剣で大狼の首を斬り落とす。

 十分近くの激闘の末、ようやく地面を震わせながら倒れたこの狼は、ただの獣では無い。

 魔物、場所によっては混沌の従者、あるいは下僕などと言われる、混沌の王から産まれる化け物だ。


 流石に、今、倒した程の化け物は滅多に見ないが、小さな奴でも、軍の一般兵と同じくらいの強さはある。


「哀れな命です。魂も無いのに、動き続けるのですから」


 そうコメントするフュリアス。

 意味深な言葉だ。


「どういうこと?」

「言葉通りです。彼らには魂と呼べるものがありません。私の残火と似たようなものですが、残火とは違い、本体、つまりは混沌の王との繋がりを持っていないのです」

「繋がりがないとどうなる?」

「通常であれば、直ぐに消えます。ですが、彼らは混沌の王が持つ不死の力によって無理矢理、繋ぎ止められているので、消えることも出来ません。魂の渇きを癒すために、彼らは他の生命を襲うのです」

「ふーん?少し、分かり難い話だ」

「魂が無いというのは、生命にとって、何にも耐え難い苦痛である、という事だけ知っておけば十分です」


 話しながら、狼のスキルを奪う。

 魔物からでもスキルは奪えるのかと、不安だったが、杞憂に終わった。

 新しい力が入ってくる。


 咆哮、身体強化、硬化


 聞き覚えのないスキルが二つあった。


「フュリアスは知ってる?」

「言葉通りです。咆哮は吠える事による、相手への威嚇。硬化は肉体を硬くします」

「あまり使い道は無さそう・・・それより」


 俺は手元の剣を確認する。

 兵士から奪った剣は、この三日間、十分な手入れもされずに使い続けた事でボロボロだった。

 血や汚れなどはその都度拭き取っていたが、細かな刃こぼれや取りきれない油による黒ずみが酷い。


「拠点までまだ二日はかかるし、出来れば一度、街や村に行きたいところだね。特に、最近はまともなご飯も食べれていない」


 拠点から持ち出した食料は既に食べ切った。

 今は、山に出てくる獣や植物で飢えを凌いでいる。そろそろ時代に適した食事をしたいところだ。

 すると、フュリアスが頼もしい事を言ってくれる。


「なら、私が案内しましょうか?」

「え、いいの?というか、知ってるの?」

「まあ、百年ほど前の地図を頼りにすることになりますが」

「いや、それでも助かるよ。道案内よろしく」

「ええ・・・それと、人里に着いたなら、私との話は脳内でするように」


 

 それから、二時間。太陽が中天に登った頃、ようやく森を抜け出し、街道の脇道に出る事が出来た。

 道中、三度も魔物に襲われた事で、最早足を動かすのも億劫だ。


「やっとまともな道に出れた・・・」

「ほう、随分と変化してますね。昔はこんな道ありませんでしたよ」

「じゃあ、百年のうちの進歩に感謝するよ。これ以上、森が続いてたら頭がおかしくなってただろうからね・・・そこの御者さん、俺も乗せてもらえない?」


 丁度通りかかった馬車を引き留める。

 馬の手綱を握る男は俺の汚い身なりを見た瞬間、顔を顰めてさっさと馬を走らせた。

 

「あ、おーい・・・マジか、まだ歩くのか」

「・・・ユウリ、あの馬車を追ってください。今すぐに」

「どうして?」

「あの馬が引いている箱の中、何かがいます。人でも、動物でも無い何かが」

「分かった」


 どちらにしろ、馬車の逃げた方向は俺の行き先と同じだ。疲労はあるが、まだ動ける。

 道中、倒した魔物から奪った身体強化スキルを発動。逃げる馬車に数秒で追いつき、御者の背後に飛び乗る。


「無料乗り失礼」

「ッ、何だあんた!」

「馬車の中身、見せて貰うよ」

「おい!やめろ!」


 馬車を覗こうとすると、御者は手綱を離して俺に掴みかかってくる。

 だが、それよりも俺の方が早い。窓ガラスを蹴り破って中に入る。


「何だこれ・・・」


 馬車の中は真っ暗闇だった。

 全てのカーテンが閉め切られ、その上から炭のような色をした布を当てている。


 そして、暗闇の中、俺を覗く瞳と視線が重なった。


「子供?」


 それは小さな少女だった。

 俺の背後、蹴り破った窓ガラスから差し込む陽の光で辛うじて顔の輪郭が分かる程度だが、恐らくは十歳にも満たない少女だ。


「へ、へへ・・・もう終わりだ」

「どういう事だ?」


 御者の男に詰め寄るが、男は無気力に笑うだけだ。


「君は・・・」

「・・・お日様」


 暗闇の中にいる少女に歩み寄る。

 その時、フュリアスの声が脳天を貫いた。


「離れなさい!」

「ッ」


 同時に膨れ上がる殺気。咄嗟に馬車から飛び出そうとするが、それよりも早く少女から飛び出してきた何かが俺に襲いかかってくる。


「お日様が見えたら、殺す」

「ッ」


 吹き飛ばされて地面に叩きつけられる寸前、何とか体勢を立て直す。

 同時に、それが馬車を破壊しながら姿を表した。


「フュリアス、何あれ?」


 それは翼を持っていた。二対、四枚の白銀の翼。

 その全身もまた、白銀の鱗に覆われており、尻尾が撫でただけで、街道の石畳が引き剥がされる。

 

「・・・見ての通り、ドラゴンです」

「人から生えてくるドラゴンなんて、初めて見たよ。一体どうなってるの?」

「分かりません、ですが、考える前にまずは、あのドラゴンをどうにかした方が良いですよ」


 軽口を叩き合っていると、ドラゴンが襲いかかってくる。その動きは、とてつもなく速い。


「ッ」


 ギリギリ回避が間に合わず、腕が半分千切れかける。

 即座に回復するが、続け様に尻尾で払われ、気がつくと空中を飛んでいた。

 尻尾の攻撃を食らった片腕は、無惨にも骨ごと削られている。

 更に、ドラゴンはその翼で飛び上がると、空中で身動きの取れない俺にその剛腕を叩きつけてきた。

 それを何とかガードした直後、とてつもない衝撃に襲われ、ほんの一瞬、意識が飛んだ。


「ガ・・・ア・・・」


 ホワイトアウトした視界が戻り、思考が正常に戻ると、比喩ではなく、全身がバラバラになっていた。

 砕けた地面に埋まった俺の身体は、四割ほどしかなく、飛び散った鮮血が周囲を赤く染めている。


「・・・強い」


 思わず呟く。これまで戦ってきた中では、間違いなく最も強い。スキルで全身を再生したが、まだ頭がクラクラしている。

 ドラゴンは炎を纏って蘇った俺を警戒しているのか、滞空したまま降りてこない。

 すると、フュリアスが思案するような声音で言う。


「妙ですね」

「何が?」

「ドラゴンにしては弱すぎです。それに、敵かどうかも分からない者を攻撃するなんて、知性の高いドラゴンらしくありません」

「・・・あれで弱いとか冗談だろ?」

「本物を見れば、あれの弱さが分かりますよ。それに、あの程度ならば今の貴方でも十分に渡り合えます」

「ビッグマウス!驚きだね、フュリアスも冗談言うんだ?」

「よく聞きなさい、まずは」


 そこまで話したところで、遂にドラゴンが攻撃を再開した。先程はその速さに面食らってしまったが、来るとわかっていれば、躱すことが出来る。


 俺のいた場所をドラゴンの脚が踏み潰す。


 まずは距離を取ろうとすると、フュリアスが優しく嗜めてきた。


「リーチで勝てない相手に逃げるのは愚策です」

「ッ、それもそうだね」


 逃げ出そうとする脚を意地で無理矢理引き留めて、ドラゴンと至近距離で対峙する。


「行くよ」


 自分に言い聞かせて、脚を踏み出す。

 ドラゴンが腕を振ってくるが、その巨体のせいか、動き出しは緩慢だ。


「ッ」


 攻撃を避けながら、その懐に潜り込む。

 その直後、ドラゴンが吼えた。


「グアアッ!」

「ッ!」


 全身が震え出すほどの咆哮、耳が痛いとかそういうレベルではない。音で全身を叩かれているような衝撃だ。

 だが、動けない程ではない。


「ッーーハァ!」


 剣を抜き放ち、ドラゴンの肩に振り下ろす。

 すると、簡単にその身体が斬れた。

 硬そうに見えた鱗ごと、肩から脇腹に向かって刃を振り抜けてしまう。


「ギャアアアアア!!!」


 片腕を失い、ドラゴンが絶叫する。

 

「どうなってるの?」

「私にも分かりません。ですが、今は考えるより、アレにとどめを刺すことが先です」


 フュリアスの言う通りだった。

 正体がどうあれ、あれは危険だ。ここで殺せるなら殺しておくべきだ。


「分かった」


 剣を構え、走り出そうとしたその時、周囲に霧が立ち込めた。


「これは・・・いや、関係無い」


 霧は一瞬で何も見えない程に濃くなったが、ドラゴンの巨体はまだそこにあるはずだ。

 ドラゴンのいた方向に向かって走り出す。


 だが、ドラゴンに向かっていった筈なのに、何にもぶつかることなく霧を抜け出してしまった。


「あれ?」


 霧に再び入ろうとするが、すぐに霧は消えてしまう。

 そして、霧が晴れた後には何も残って居なかった。


「消えた・・・」

「そのようですね」

「どうしようか?」

「流石に消えたドラゴンを探せなどという事は言いませんよ。取り敢えずは、街道の先にある街へ向かったらどうですか?」

「それもそうだね」


 余計な戦いが入ったが、やる事は変わらない。

 まずは、街に向かうことにした。

 

 






 

 

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