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略奪者の英雄殺し  作者: かなん
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復讐は炎から始まる

ブクマや評価して頂けたら嬉しいです。


 そこには炎だけがあった。

 燃え盛る紅蓮の炎の中、俺を見つめる一匹の鳥と目が合う。

 緋色の羽の特徴的な美しい鳥だった。


「ようやく、目が覚めましたか・・・いえ、目を閉ざしたと言うべきでしょうか?」

「・・・」


 鳥が喋った事に驚愕し、声を出そうとして気付く。

 喋れない、身体の感覚がない。

 俺の思考を読んで、鳥が答える。


「まだ、話せませんよ。貴方はまだ完全には死んでいませんから」

「・・・?」

「はい、貴方は死にました・・・厳密には今から、数分で死にます」


 言われてようやく少し前の記憶が蘇る。

 そうだ、俺は剣で心臓を貫かれて死んだのだ。


「おっと、自己紹介がまだでしたね。私は不死鳥のフュリアス、貴方の魂が消えるのを見送る者です」

「・・・」

「不死鳥というのは、生命の中でも特殊な位置にあります。死を拒む不死身ではない。死すらも一つの変化として受け入れ、永遠を生きる生命。

 輪廻転生の先達として、未練が強過ぎて、この世に残留してしまう魂が悪霊へと変化しないよう、見守り、正しい死へと導く事が私の役目です」


 強すぎる未練、思い当たる事は沢山ある。

 共に行動していた二人の無事、王国への復讐、父親と交わした約束。

 だが、それでも一番心残りなのは、あの少女だ。

 彼女は封印された。混沌の王の器として。

 死ぬことすら出来ず、封印が続く限りずっとその魂が苦しめ続けられると思うと、心が引き裂かれそうになる。


「死してなお、強く残る怒りと思い。それが貴方の残り続ける理由ですか」

「・・・」

「無理ですよ。もう、貴方は死にました。死者は生者に関われません。さあ、そんな思いを持ち続けても苦しいだけです。全てを忘れて、生まれ変わりなさい」


 フュリアスの言葉を聞くたびに、自分の中の記憶が薄れていく。自分の存在が希薄になる感覚。このまま、話し続けていれば、そう遠くない内に俺という意識は消えてなくなる。

 

 だが、決して苦しい感覚ではない。

 心を締め付けていた鎖が緩んでいくかのような感覚、村を焼かれて以来、味わったことのない、安らぎが俺の心を包みーー俺の怒りは頂点に達した。


「ふ・・・け・な」

「なっ!?」


 気がついた時には身体が動いていた。

 フュリアスの首を掴む。

 更に、身体がふわつくような感覚が無くなっていく。


「俺だけが生まれ変わるなんて、許されない。ルナが苦しんでるのに、俺だけが解放されていいわけがない」

「くっ、ここで何故・・・まさか!私の力を奪っているのですか!?」


 最早、俺とフュリアスの関係は逆転していた。

 霞んでいく不死鳥に対し、俺は生前の姿を取り戻していく。

 消える間際、フュリアスが告げる。


「・・・悲しい程に強い人、貴方がこの世の地獄に戻る事を選ぶのであれば、餞別をあげましょう。

 私の力、貴方達の言葉で言うところのスキル。その名は『再来の炎リザレクション・ブレイズ』、何度死んでも炎と共に蘇る力、多少の傷も意識すればすぐに治せます」

「・・・何故、そんな事を・・・俺が憎くはないのか?」

「別に、私は本体ではありませんから・・・それでは」

「あ、おい」


 意味深な言葉を残して完全にフュリアスが消える。

 それと同時に足元から炎が身体を覆い始める。


「ッ、熱・・・くない。これが」


 そして、俺は炎と共に蘇った。

 目の前には、驚愕の表情を浮かべる青年がいる。


「何故、生きている・・・傷すらも・・・」

「蘇ると、そう言った」

「っ、ならばもう一度殺すのみ!貴様ら!」


 青年の率いる兵隊達が向かってくる。

 その内の三人を無効化した辺りで、剣の一振りが俺の身体を斬り裂いた。


「ぐっ」


 分かっていたが、俺は復活しただけで別に劇的に強くなったわけではない。

 だが、強くなってないわけでもない。

 斬られた場所を炎で再生しながら相手を蹴り飛ばす。

 手に入れた力は勝つための力ではない。負けない為の力だ。


「何だ、こいつ!」

「どいてもらうよ!」


 怯んだ兵達を薙ぎ倒しながら青年に向かって走る。


「チッ、能無し共め」

「ッ」


 青年の剣が足を切り落とす。

 咄嗟に再生しようとするが、それよりも速く今度は腕が無くなる。

 早すぎる、まるで再生が追いつかない。


「どういう力かは知らんが、再生する奴にはこれが効く」


 そう言って青年が取り出したのは、小さな結晶だ。

 それが何かは分からないが、本能的に危険を感じて咄嗟に飛び退く。


「どうする・・・」


 再生しながら呟く。

 状況はマシになったが、それでも勝ち目がまるでない。その時、頭の中に声が響いた。


「成る程、こうなりましたか」

「っ、誰だ?」

「静かに、わざわざ声に出さなくても聞こえてます。私はフュリアス、さっきまで貴方と話していた者です」


 予想外の返答に再び声を出しそうになりながら、なんとか心中のみで尋ねる。


(死んだんじゃ無いのか?てか、どうやって)

「あれは死した私の意識の残火、今、貴方と話している私こそが本体です。今は貴方が残火から奪った能力を通して貴方に話しかけています・・・それより、貴方、随分と贅沢な戦い方をしますね」

(贅沢?)

「はい、どうして、先程から貴方本来の能力、私から能力を奪った能力を使わないのですか?貴方はまだ、弱いのです。能力を出し渋って勝てる相手ではないでしょう」

(そんなこと言われても、分からないんだよ、使い方が)

「その為の私の能力です。どれだけ失敗しても、例え死んでもやり直しが効きます、私の時はどのようにしたのかを思い出しながら、試してみなさい」

(好き勝手言ってくれる)


 治るとは言っても、斬られれば当然痛い。出来ればダメージは受けたくない。とは言え、それしか突破口が無いのであれば、やるしかない。


 まずは、相手の身体に触れることから始める。

 いきなりあの青年は危険すぎるから、兵士達の一人を狙う。


「ヌアアア!!」


 剣の振り下ろしを回避しつつ、兜の隙間から相手の顔を掴み、そのまま押し倒す。

 だが、相手のスキルを奪ったような感覚はない。

 

「違ったか!」


 背後で武器を振り上げる兵士達、回避しようとする俺を脳内の声が押し留める。


「待ちなさい!」

「何を・・・グゥ!!」


 直後、背中に焼けた鉄を押し当てられたような痛みが走り、腹や胸から鋼の刃が飛び出してきた。

 それを気にせずにフュリアスが続ける。


「触れられた私の感覚では、貴方の能力・・・スキルは、一瞬では発動しません。おそらくは、五秒ほど触れていることで・・・」


 そこまで言ったところで、掌を通して俺の中に何かが入ってくる。

 それは、フュリアスのスキルを奪った時と似たような感覚で、目の前の兵士から俺は、何かを奪ったのだと確信する。


「ッ、どけ!」


 歯を食いしばり、剣や槍を刺されたまま暴れ回る事で兵士達の囲いを突破、背中の武器を乱雑に引き抜く。

 その時、武器の一つに目が止まった。

 それは、剣だ。何の変哲もない、量産品の鉄剣。今までなら見向きもしなかったそれが、何かを訴えかけてくる。


「ウオォ!」


 再び襲ってくる兵士達を、内なる感覚に従って剣で迎撃する。すると、まるで身体が動きを知っているかのように、勝手に動いた。

 俺は剣の使い方も知らなかったのに、だ。


「成る程、今、貴方が敵から奪ったスキルは剣技のコツとでも呼ぶべきもののようですね」


 今度は倒した兵士達にも触れる。感覚でわかるのだ、相手の意識が無い場合、スキルの略奪は一瞬で終わる。

 更に入ってくる感覚、奪った事で慣れたのか、今度は何を奪ったのかすらも、直感的にわかった。


 槍術×2、剣術×4、体術×1、肉体強化×1


 手元の剣を軽く振る。

 すると、剣が当たっていない場所に小さな斬撃痕が出来た。

 身体を動かす。

 これまで、俺は死んでいたのでは無いかと思う程に身体が軽い。


「これなら、勝てるかもな」


 既に兵士達は相手では無い。

 青年に向けて剣を構える。


「・・・やはり、使い捨てだな。ゴミの処理一つまともに出来んとは」


 全力で踏み込み、一気に距離を詰める。


「シッ!」

「ム」


 全力の一閃。

 剣がぶつかり合い、初めて青年が顔色を変えた。


「貴様・・・これまで、手を抜いていたのか?」

「さあね、どうでしょう」


 互いに攻撃のギアを上げる。音速を超える速度での攻防、余計な事を考える事が出来ない。

 故に、先に崩れたのは俺だった。


「稚拙!」

「ッ!」


 フェイントに容易に引っかかった俺の腕が一本切り飛ばされる。

 咄嗟に後退するが、それすらも読んでいたかのように青年が距離を詰めてきた。


「太刀筋は良いが、鍛錬が足りないな!まるでスキルに振り回される子供のようだ!」

「随分と饒舌だな」


 図星を突かれる。

 確かに、奪ったスキルで俺の技術は向上したが、それに俺の感覚がついてきていない。

 

「終わりだ」

「しまっ・・・」


 俺の足が無くなるのと同時に、青年が先程の結晶を砕く。

 何とか片足だけでその場から回避するが、間に合わない。俺の身体が石になっていく。

 そして、髪の一本までも石になったところで、青年が言う。


「・・・貴様ら、この石を運べ」

「は、はい!」


 彼が踵を返したその時、俺はその背後に迫った。

 

「何!?」


 青年が驚く。

 当然だろう、俺はつい先程、石になったのだから。

 だが、『再来の炎』は腕一本、足一本、血の一滴からでも全身を再生できる。

 俺は、先程、石化の直前に斬られた脚から再生し、彼の背後を取ったのだ。

 

 しかし、それでも僅かに届かない。

 咄嗟に反応した青年に攻撃を止められる。


「残念だったな、どのような方法を用いたかは知らんが、もう一度、石化して・・・なっ・・・」


 だが、勝ち誇る青年の背後から、その胸を血塗れの剣が貫いた。


「何故・・・」


 フュリアスの残火の応用である。

 脚から再生したのは俺の意識の欠片、本体は最初に斬られた俺の腕から再生し、青年を刺したのだ。


「名前を聞いておく。殺した奴の名前は忘れたくない」

「・・・貴様に教える名など無い」


 そう言って、青年が倒れる。

 隊長をやられた兵士達が逃げていくのが見えた。俺の勝ち、そう言っても問題は無いだろう。

 だが。


「苦しいでしょう?」

「・・・何が?」

「貴方の選んだ道です。その道は、幾人もの死によって舗装されたもの、死ななければ引き返せない。けれど、貴方の憎しみと思いが残る限り、『再来の炎』は貴方に死を許さない」

「分かってる」


 呟き、青年のスキルを回収してから歩き出す。

 まずは、仲間の二人と合流しなくてはいけない。

 

 



 


 

 

 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] ただの青年兵に苦戦してる当たり 国の中枢と戦うのはかなり後になりそう
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