プロローグ
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「クソ、これまでか」
呟く。
僅かに目を動かして、自分の体を見る。
肉体は半分以上が吹き飛んでいる、残りの半分も傷だらけで、生きているのが不思議な程の重傷だ。
青年が剣を突きつけてくる。
「ようやく、貴様を殺せる」
「ッ、俺は死なないよ。君達から彼女を取り戻すまで、何度でも蘇る」
「・・・戯言を」
身体に冷たい刃が突き立てられる。
痛みは無い。ただ、身体が死んでゆくだけだ。
さて、俺の意識が消える前に少し、話をしよう。
昔、ある村に、一人の旅人がやってきた。
旅人は瀕死の重傷を負っていて、その腕には生まれたばかりの赤子を抱えていた。
赤子の名前を告げて、永き眠りについた旅人。残された赤子は、村の者達によって育てられる事になった。
赤子が美しい少女になった頃、村に二人の騎士がやってきた。
騎士が言う。
混沌の王が復活した、ここに来たのは混沌の王と戦う戦士がいるという予言を受けたからだ。
騎士は村中を探し、その少女を見つける。
少女の腕に生まれつき刻まれていた、刻印。これこそが、戦士の証だった。
騎士が少女を連れて行く。大義のためだ、嫌がる少女の意思は尊重されない。
少女が連れて行かれてから二年。
混沌の王は倒された。だが、少女は帰って来ない。
一人の少年が言った。
自分が王都まで行って、様子を見てくる。
彼は幼馴染の少女の事が心配だったのだ。
少年が王都に着いた時、ちょうど混沌の王の討伐を祝う宴をやっていた。現在、王城で混沌の王を斃した英雄達が勲章を受け取っていると聞いた少年は王城へ向かう。
そこに居たのは、華やかな衣装を身に纏った英雄達。だが、そこに見知った少女の姿は無い。
その時、王の声が都に響く。
混沌の王の封印を執り行う、と。
広場に行った少年が見たのは信じ難い景色だった。
捕らえられた、七人の少年少女達。一様に虚な瞳をしている彼らの中に、少女の姿があったのだ。
王が言う。
七人の混沌の王は不死身である。だが、彼らを各地に封印する事でその脅威は永久に封じる事が出来る。
何が起きているのか理解出来ない。
困惑を抱えたまま村に戻った少年だったが、そこでもまた信じられない光景が広がっていた。
村が燃やされていたのだ。
自らの家に走る。
母親の亡骸の側、燃える柱の下に父の姿があった。
まだ生きている父親を助けようと駆け寄る少年を父親が制する。
自分はもうダメだ。それより、村長の家に避難した妹の様子を見に行ってやれ。
少年が涙を流して村長のところへ走る。
村長の家も燃えていたが、彼の家には地下がある。枯れ井戸の底を通って、地下室に向かう。
地下室には、妹と村長の娘がいた。
怯え切った彼女達に、話を聞く。
曰く、村を襲ったのは、盗賊を装った王都の兵士だったという。
そこで、少年が王都で見た事を話すと、村長の娘は憤り、二人に言った。
王は少女の事を知っている自分達を口封じに殺したのだ。
その後、少年達は少女の封印を解くために世界中を旅した。
しかし、遂に三人の拠点は突き止められ、二人を逃した少年は一人で王都の精鋭達と戦った。
そして、今、少年=俺の命は尽きる。
暗闇に沈んでいく意識の中、最後まで残っていたのは燃えるような憎しみだった。