ボロアパート住人の仕事上がり
日常系。
なろうラジオ大賞2参加作品。
ボロアパートの住人が、銭湯を利用するだけの話。
ぼくは仕事が終わると、いつものお風呂屋へ寄ってから帰る。
なぜかって? 上京してからずっと借りてる場所がボロアパートで、お風呂が無いからね。
しかも今は夏。 虫々ジトジトして嫌な季節だし、毎日汗を流したいだろ?
それで、その向かうお風呂屋でいつも不思議な体験をするんだ。
お風呂屋は番台がある、オーソドックスな内装。
その内装のあちこちに、洗っても落とせなかったんだろうシミがあるのが、生活感を感じさせてたまらないんだよ。
でも何年か前にこの辺で大きな事件があったらしく、その影響が続いてるのかお客さんが少ないんだよね。
だからこそ、その独り占め感って言うのかな?
贅沢をしている気分になれるから、このお風呂屋が好きなんだ。
それでね。 お湯に浸かる前に体を洗ってると、いつも背筋にゾクゾクゾクってくるんだよ。
その度にキョロキョロ見回すんだけど、なんにも居ないんだよね。
それで不思議だな~おかしいな~って思いつつも、また体を洗い出すと……。
ゾクゾクゾク!
ほら、また来たっ!
……でも、その原因が見つからない。
う~~~ん、やっぱり全然分からない。
まあ良いや。 洗い終わったし、お風呂~。 ざぶーん!
…………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああぁぁ~~。
いやぁ。 いつもながら変な体験をするし、お湯に浸かってる間も変な視線を感じるものの、やっぱりお風呂はいいね!
髪を乾かして、ビジネスレディーススーツをバッチリ着込んで、メイクも直して。
はー……さっぱり。
残念なのは、ここって少し前までで牛乳類の販売を止めちゃった所くらいかな。
お風呂屋から出ようとすると、来るときにいつも居ない番台のオバちゃんが、毎度のごとく何時の間にかそこへ座ってる。
それで、来るときに払ってない入浴料を出そうとすると「アンタは無料。 それで良いのよ」とか言い張られて、払う要らないの押し問答がお約束。
結局タダ風呂になって、お辞儀して帰るのが一連の流れだったんだけど、その帰り際にオバちゃんがぽつりと言っているのが初めて聞こえた。
「あの大事件に巻き込まれちゃった子が、いつか成仏してくれると、良いんだけどねぇ……」
少し前? 何かあったのかな?
まあいいや。 一度帰って次は、ぼくに良くしてくれるスーパーへ買い物に行こうっと!
最後まで読んで、分かるととゾクッとする話。
(非)日常系。
ボロアパートの住人(だった幽霊)が(死んでいる自覚の無いまま、生前のルーチンを守って)銭湯を利用するだけの話。
これをホラーカテゴリへぶっ込むと、オチまで分かられてしまうのでぶっ込めず。
…………なんだけど、ホラーへ入れた方が良いのかな? とても悩む。
体を洗うシーン……心霊現象? お風呂で背後に……ってホラーだと定番だよね
↓
レディーススーツ……まさかこいつ、男風呂に入ってるとか、覗かれているのに気付いてない!?
↓
いつの間にか現れるオバちゃん……まさかオバケの銭湯!?
↓
オバケはお前(主人公)かよっ!?
つーかまさか、銭湯のシミってお前の血か? まさかそうなのか!?
こんな流れですね。
ゾクゾクで心霊現象(ホラー展開)と思わせ、ぼくっ娘かよ! で警戒を緩くして、やっぱり心霊現象でした!!
の、心のガードをこじ開ける心理トラップを仕込んでみた。
構想段階では既に潰れて久しい銭湯を、そうと気付かず使ってる主人公。
その銭湯は過去に大事件があった訳あり銭湯。
利用して銭湯から出ると、ご近所さんがヒソヒソ話。 それで銭湯が幽霊銭湯だとほのめかされる。
幽霊が、自分が死んでいると気付かず、今まで通りに銭湯を営業している。
って設定だったんだけど、もう一歩捻りたくて語ってる主人公が幽霊ってオチに。
オバちゃんが入店時に毎回居ないのは、むしろ逆。
オバちゃんが席をはずしている時に限って、主人公が出るだけ。
体を洗うシーンのゾクゾクの原因は、未設定。
主人公が成仏しかかっているだけか、オカルトマニアが覗き窓から見ているか、男風呂に入ってくる女幽霊に戸惑って物陰から見てるだけか。
はたまた銭湯で起きた大事件に、巻き込まれた幽霊仲間か。
あ。 主人公が入ったのは男湯か女湯か、明記してませんので、そこから妄想するのも一興。 痴女だったのか、事件前は男女逆だったのか、混浴なのか。 とかね。