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主人公交代の時2

 なんとか落ち着くことができた俺は教室に戻ってくると、そこには妙にソワソワして待っていた柊がいた。俺を見つけるや否や俺のもとにやってきた。


「佐藤……大丈夫?」


「ああ、さっきはごめんな」


「あたしのことはいいのよ、それよりあんた顔色悪いわよ?保健室いく?」


 なんか柊がしおらしくてめっちゃ可愛い。いつもはつっけんどんな態度なのにこういう時に優しくするのはずるいと思う。


「大丈夫だ、休んで授業に遅れを取るわけにはいかないだろ」


「佐藤……無理だけはしないでね」


「ああ」


 そう言って俺は席に座った。まだ、周りの視線が気になるが柊のおかげ少し楽になった。俺は周りの視線から逃げるように顔伏せて始業時間を待った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 不幸というのは立て続けに起こることが多い。俺はそのことを身をもって知ることになった。

 それは放課後の部活でのことだ。俺は今日のテストの結果により全然練習に身が入らないでいた。練習中、幾度となく松浦に心配されたが、上の空だったそうだ。そんな中、監督から重大発表があった。


「少し早いが夏の大会のレギュラーメンバーを発表しとく。早いうちにチームワークを磐石な体制にしておきたいからだ」


 そうか、もうそんな時期か。

 去年の夏の大会は甲子園出場一歩手前の試合で負けたからな。今年こそは甲子園出場しなければと誓ったはずだ。それなのにテストの結果のことを引きずってなにやってるんだ俺は。そう思い、気持ちを切り替えようとした時、監督から信じられない言葉が飛び出した。


「背番号一番 神崎隼人、今回はお前にエースを任せる」


「!!!」


 え……神崎隼人……?

 エースが……?どういことだ……?

息が出来ない。胸の動悸がどんどん凄いことになっていくのが感じられた。


 監督は今年のエースはお前だと春の大会の時言ってくれたじゃないか、それなのになんで?

 春の大会の結果が県大会止まりだったから?俺の才能がないから?神崎という天才がやってきたから?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで…

 しまいには「なんかデジャブを感じる」というどこか他人毎みたいに考え始めていた。困惑する俺を置いて、周りはどんどん話が進んでいく。


「はい」


「神崎、お前の球なら甲子園にいくことも夢じゃないだろう」


「ありがとうございます」


 監督からの急な発表に驚きもせずに、神崎がいつもどおりの声で応答している。そんな中、松浦が声を張り上げて監督に反論してくれた。


「監督!どういうことですか!?エースは佐藤じゃないんですか!?」


「確かに俺もエースについては迷った。佐藤も良いピッチャーだしな。しかし、三年生からの意見もあって神崎をエースにすることにした」


「先輩たちの……?」


 確かに監督の急な発表に周りのメンバーは驚いている中、先輩たちはさも当然だと言わんばかりに佇んでいる。


「松浦、監督の決定に文句言うなよ」


「加藤……先輩」


 監督と松浦のやり取りに口を挟んできたのは加藤先輩だった。ニヤニヤした表情を浮かべている。その様子を見て俺は悟ってしまった。監督に意見を言ったのは加藤先輩だと。恐らく前の大会で俺にエースを奪われたことを根に持っているからだろう。

 俺と同じ考えに至ったのか、松浦が加藤先輩に問いただす。


「加藤先輩はいいんですか!?神崎にエース取られたら結局加藤先輩もエースになれないんですよ!」


「はぁ~、神崎と佐藤を一緒にするなよ。神崎には圧倒的な才能があるだろ?あんなの見せられたら諦めもつくさ」


 圧倒的な才能か…。

 加藤先輩は俺のような才能のない奴に負けたのが納得いってないのだろう。

 才能のある神崎に負けるのはしょうがないけど、才能ない俺に負けるのが許せないってところか。

 くそっ、俺にも先輩を納得させるだけの才能があればっ、そう思わずにはいられない。

 だから才能がない代わりに血のにじむような努力をしてきたのに結局は才能があるの奴が勝つのか。

 俺がそんなことを考えている横で、松浦と加藤先輩のやり取りがヒートアップしてきた。


「だからって!佐藤を貶めるなんて間違ってる!」


「貶めたつもりはないさ。ただ、単純に佐藤と神崎を比べたとき甲子園に行ける確率は圧倒的に神崎の方が高いから、監督にそう言っただけだ。俺たちは最後の大会なんだ。確実に甲子園に行ける方につくのは当たり前だろう?ん?それともなんだ?佐藤は絶対に俺たちを甲子園に連れていってくれるのか?」


 そうだ、先輩にとっては最後の大会なんだ……。

 そりゃ、俺より圧倒的実力のある神崎を推す先輩の気持ちも分かる。現に加藤先輩以外の先輩も加藤先輩の言い分に納得している様子だった。

 俺には来年もある。今回は諦めて神崎にエースを譲ったほうが良いのではないか。

 改めて感じるプレッシャーに俺は耐えられずにいた。しかし、松浦は俺の思いとは裏腹に先輩に言い返した。


「あ、当たり前だ!佐藤なら俺たちを必ず甲子園に連れていく!なあ!佐藤!」


「……」


 松浦がそこまで俺の事を信じてくれるのは嬉しい。しかし、俺は松浦の問いかけに返事することが出来なかった。


「佐藤!!!何か言い返せよ!!!」


「……ごめん」


「~~~~~~~!馬鹿野郎!!!」


 そういうと松浦はグランドから去っていったが、俺はそんな松浦を追いかけることが出来なかった。


「やれやれ、監督続きをお願いします」


「そうだな、二番…」


 加藤先輩があきれた声で監督に続きを促し、何事もなかったようにレギュラー発表の続きが始まった。


「こーくん…」


 沙耶姉の心配そうなつぶやきが聞こえた気がした。俺はレギュラー発表が終わるまで、呆然と立ちすくむことしか出来なかった。

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