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ゴーレム世紀メタルヴェリオン

「何か騒がしいな。ま、いっか。今ので魔術の威力測定は終わったから、次はあのリングで戦って実力が認められれば試験終了だったな。それじゃ、行ってきまーす!」


「「行ってらっしゃーい!」」


 ロックとトリーシャが見送る中、アラタが試験会場の中央にあるリングにやって来ると、そこにいたはずの試験官の姿が見当たらない。


「あれ? ついさっきまでいたはずなのに……トイレかな? 少し待つか」


 しかし、何分待ってもリング担当の試験官が戻ってくることはなかった。

 遠くから「俺はまだ死にたくねぇ!」という声が響いてきたが、それを聞いていたアラタは大変だなと漠然と思うものの、それが自分担当の試験官の叫びだとは気が付かなかった。

 

 さらに数分後、アラタがボーっとしていると彼のいるリングに誰かが上がってくる。

 やっと試験官が戻って来たのかとアラタが振り向くと、その人物は筋骨隆々の魔闘士ではなく、白衣に身を包む身体が細長い男性であった。


「……どちら様ですか?」


「私の名はヘルメ。君かな? 我々、錬金ギルド『アルケー』が作成した、耐魔術用超強靭合金並びに耐魔術用術式付与型防壁を破壊したのは?」


 細長い男性は早口でまくし立てた後、丸い眼鏡をくいっと人差し指で上げながら、品定めをするようにアラタを見ていた。


「俺の名前はムトウ・アラタです。ところで今なんて? たい……ごうき……へき?」


「耐魔術用超強靭合金並びに耐魔術用術式付与型防壁! 全く、言葉も分からんのかね? まさか、その脳筋パワーで我々の耐魔術用超強靭合金並びに耐魔術用術式付与型防壁を破壊したのか? 信じられん話だ」


「あの試験用の壁のことですか? やっぱり破壊しちゃまずかったですか?」


「だからっ! 耐魔術用超強靭合金並びに耐魔じゅち! あいたっ! 舌噛んだっ!」


「そりゃ、そうなるでしょうよ。よく今まで噛まずに言えましたね」


「くっ! うるさい、うるさい! 『破壊しちゃまずかったですかね?』だと? ふざけるな! あれは我々が研究により作り上げた対魔術用の防御壁だぞ!? それがたった一人の魔闘士が放ったショボい光の弾一発で壊されたというじゃないか!!」


「しょ、ショボい? 悪かったな、地味で! でも見ためなんか関係ないね。大切なのは中身だよ中身!」


 リング上で二人の男性による言い合いが始まった。ここは一応戦闘能力を確認するための場所なのだが、今は語彙ごいもイマイチな罵り合いをする場に変わり果てていた。


「それになんだね、その格好は? 黒髪に黒い軽鎧型のローブ? はははは! 黒ずくしにすれば、その地味な顔も少しはマシになると思ったのかね!? 残念だったな!」


「そっちこそ、他人のことを笑える外見かよ!? 強風が吹けば吹き飛びそうな、ひょろひょろした格好してるくせに! それに、その眼鏡! レンズ削ってピントが合わないようにしてやろうか!?」


「なっ! 何て恐ろしいことを思いつくんだ貴様は! 悪魔かっ!?」


「悪魔ちゃいます、魔王ですぅ~!」


「ほう、そうか、そうか、魔王様でいらっしゃいましたか。それならこのゴーレム相手でも楽勝でしょうな!! 来いっ! メタルヴェリオン!」


 ヘルメの呼びかけに応じて、彼の背後の地面から全高五メートルほどの全身灰色の巨人が姿を現した。

 外見はマッシブな人型をしており、身体の表面は金属で出来ている。その双眸は黄色い光を放ち前方にいるアラタを見ていた。


「灰色のゴーレム? 見たことのないタイプだ」


「それはそうだろう! このゴーレム〝メタルヴェリオン〟は我々錬金ギルド『アルケー』の錬金術の粋を結集して造り上げた最強の魔人だ! これはその初号機! 貴様にはこいつの初陣の相手をしてもらう! 魔王様ならそれぐらい出来るだろう?」


「分かった。壊されても文句言うなよ!」


 こうして、売り言葉に買い言葉の流れで、アラタとメタルヴェリオン初号機の戦いが開始された。

 ヘルメは腕時計型の端末に指示を送る。


「行くぞっ、メタルヴェリオン初号機! まずは……歩くんだ!」


「ええっ!? そこから!?」


「しょうがないだろ! こいつはまだ生まれたばかりの赤ん坊同然なんだ。これから色々と学習して強くなっていくんだよ」


「それなら、いくらか動けるようになってから戦うんじゃ駄目ですかね? 俺も暇じゃないので、じゃ!」


 アラタがため息をついてリングから降りようとすると、ヘルメが不敵な笑みを浮かべて語り掛けてくる。


「もしも、この初号機の初陣を私の納得のいく形にしてくれたら、君の願いを一つ聞いてあげよう。もっとも、私に実現可能なものであればだが……どうする?」


「よろしくお願いします! いつでもどうぞ!」


 アラタはニコニコしながらメタルヴェリオン初号機の前でファイティングポーズを取り、ヘルメは歩くように必死に指示を出していた。

 ちょうどその時、『アルケー』のギルドメンバーがやって来て、初号機が稼働しているのを見ると全員興奮しながらギルドマスターであるヘルメのサポートを始めていた。


「ギルマス! 現在、初号機とギルマスのシンクロ率は八十パーセント以上です! いけますよ!」


「よーし、今ならやれるか!? 走れ、初号機!」


 ヘルメの指示を受けて、初号機の目が光り下肢に力を入れる。

 そして走り出そうとした瞬間に足を滑らせ、メタルヴェリオン初号機は前のめりに倒れ顔面を地面に強打した。


「うわっ、今のは痛そう」


「ああっ! 初号機が!?」


 顔面を思いきり地面にぶつけたメタルヴェリオン初号機は、そのまま動きを止めてしまい、誰もがこの新型ゴーレムの初陣は失敗に終わったものと考えていた。

 その時、錬金ギルド『アルケー』のギルドメンバーたちが慌てふためき始めていた。

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