折れない心
外野が話をしている中、戦いが膠着状態に陥っている事にロックは焦りを感じていた。
(さっき、獅子王武神流の三連撃が入ったが思ったよりダメージになってない。その後も何発か打撃を与えても、あの強固な身体の前じゃ威力が低すぎる! 何かないか? 今俺が使える技であいつに大ダメージを与えられるのは!?)
「くくくっ! どうした? 段々と動きにキレがなくなってきているようだが、もうスタミナが切れたか?」
ガーゴイルがロックを挑発する。実際、勝利への明確なビジョンが見えないまま戦い続けるロックの精神は予想以上に疲弊しており、それは次第に肉体面に影響を及ぼしていた。
それに対し、ガーゴイルには余裕があった。戦闘用に調整をされた、この石のようなボディは防御面に特化しており、物理、魔術両方の攻撃に耐性を持っている。
さらに背中の両翼は実際に羽ばたくだけでなく、エアリアルの力場を形成し素早いスピードで動く事を可能としている。
そして、このボディはゴーレムのような無機物な魔物を参考にして作られており、疲労感を感じにくい。もはや、生物というよりは機械に近い存在になっていた。
だが、そんな機械の如き身体でも思考そのものは変わっていない。狡猾な性格を持ったロボットがそこにいるのだ。
「大したもんだよ、この戦いの中で成長し俺とここまでやり合うとはな。だが、相手が悪かった。歴戦の猛者の俺を倒すには、お前はまだまだ未熟だ!」
打撃と斬撃の嵐の中、その均衡が少しずつ崩れていく。ガーゴイルの両肘の刃が、ロックの頬を脇腹を大腿を裂いていく。
一方で、ロックの拳と蹴りは石像の悪魔に届かなくなっていった。
「ちぃっ! 負けてられないんだよ、俺はっ!」
「言うだけなら誰にでも出来るがな、実行できなけりゃ意味ないんだよ! 小僧っ!!」
ガーゴイルの二刀のエナジーブレードが、防御の上からロックを十字に切り裂く。ロックは後方に吹き飛び、勢いよく水面を転がっていく。
数十メートル離れた所で水面に手を付いて起き上がりすぐさま構えるが、先程の攻撃で受けた右胸と腹部へのダメージで膝をついてしまう。
斬撃を受けた箇所に手を置くと多量の血液が掌に付着した。
(くそっ! 俺はまた負けるのか? バルザスを侮辱したあんな奴に。効果的な攻撃手段がない上に、こんなダメージじゃ長期戦は出来ない。どうすればいい?)
ロックの脳裏に〝敗北〟の二文字がちらつく中、視界の中に眩い光が入って来た。それは、アラタを包んでいる光球だった。その球のサイズは最初の数倍に膨れ上がり、拡張と収縮を繰り返し、その不安定さを露呈している。
今にも暴走しそうな光球をコントロールする4大精霊は、皆必死の表情で事に当たっている。その姿を目の当たりにしたロックは、自分の頬を両手で思い切り叩いた。
(何を弱気な事を考えてるんだ俺は! これじゃ、あの時と……シェスタでアロケルに負けた時と同じじゃないか! 心が折れたらそこで負けが確定する! だから、どんな状況でも折れない強い心を持つと決めたんじゃないか!! それに、俺の後ろにはアラタがいる。俺が負けたら、あいつが危険に晒される! 絶対に負けられない!!)
両足をしっかり踏ん張って、湖面に立つロックの目には再び戦意が満ちていた。それを見たガーゴイルは、大層面白くない様子だ。
「その目……気に入らんな。実力差は圧倒的だというのに、どうしてまだ戦おうと思える? ……まぁ、いいか……次で止めを刺してやる!」




