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庶民の魔王道~魔力が使えないので地道に訓練していたら覚醒後チートになった件~  作者: 河原 机宏
第1部 第2章 炎の精霊イフリートと火竜の子
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早起きは三文の徳?②

引き続きちょいエロ回ですが、ギャグ要素の方が強かったです。

「まっ、まあね。人員の位置把握は大事だよ。ははは」

「……成程。そして中には私だけがいることを確認し、寝込みを襲おうとしていたのですね」

「……どうしてそうなるんだよ」

「だって、しばらくテントの側に立っていたではありませんか? あれは襲うタイミングを見計らっていたからではないのですか?」

「! それは違う! 俺はただ!」


 ここまで言ってアラタは口をつぐんでしまう。それもそのはず。

 この先を言葉に出す事は自らの背徳行為を暴露する事になるからだ。

 必死に言い訳を考えるアラタの表情をじっくり観察してから、アンジェは彼の耳元でそっとささやく。


「ただ……何ですか? 私のいやらしい声が聞こえたから、それを聞くことに夢中になっていた……とかでしょうか?」


 その瞬間、アラタは全身から汗が噴き出したような感覚に陥る。

 全て彼女に知られていたことに、恥ずかしさと申し訳なさが込みあがってくる。

 しかし、ここからが、このメイドの真骨頂しんこっちょうである事を、彼はこれから思い知ることになる。


「……あれは……わざとです」

「……はい?」

「さっき、アラタ様が私のテントの近くを通り過ぎようとしていたのを感知したので、それらしい声を出してみたのです」

「なん……だと?」


 驚愕の表情を浮かべるアラタに、淡々と状況説明をしていくアンジェの表情はとても生き生きしていた。


「昨日はあまりお話をする機会もなく、アラタ様の中のメイド成分が枯渇こかつしていると思いましたので補充させていただきました」

「なんだ? そのメイド成分て? 初めて聞いたわ!」

「アラタ様が私でドキドキする気持ちのことです。存分に楽しんでいただけたはずですが」


 実際に、先程のテント前でのイベントにアラタはとてつもない興奮を覚えていた。

 今まで女性関連の出来事であのようなスリルと興奮を感じたのは初めてであった。

 しかし、それを素直に認めてしまうことは、自分が彼女のてのひらの上でいいように弄ばれたことを意味し、ますます彼女の増長を招き、更におもちゃにされかねない。

 それは、正直面白くないというのがアラタの心情である。


「べ、別に! そ、そんなに楽しくはなかったかな!?」


 彼にとって、これが精一杯の反抗であった。

 自分自身口先だけの反抗であり、アンジェにも見透かされているだろうというのが正直なところだった。

 それ故、そっと彼女の表情を窺うと、うっすらと笑みを浮かべる彼女の姿が目に入ってくる。


(ああ~! やっぱりばれてるよ。そりゃそうだよ。自分自身、苦しい言い訳だと思ったもの。三文芝居だと思ったもの!)


 完全敗北を覚悟したアラタであったが、目の前で笑みを浮かべていたメイドからは予想外の言葉が発せられる。


「そうでしたか、残念です。アラタ様にはあまり楽しんでいただけなかったのですね。どうやら、私の思い違いであったようです」


 明らかにしゅんとして肩を落とすアンジェを見て、〝罪悪感〟の文字がアラタを貫通し、とてつもなく申し訳ない気持ちが込み上がってくる。

 フォローを入れようと、あたふたするアラタであったが、その様子をジッと見つめる視線を正面から感じ硬直する。


(やられた!)


 テント前からの出来事から、今この瞬間に至るまで結局彼女のおもちゃになっていることを悟ったアラタであったが、そんな彼を見て追撃の手を緩める彼女ではなかった。


「……分かりました。あの程度では楽しめないのであれば、それ以上の刺激が必要という事ですね」

「……はい?」

「では、参ります」

「参るって何? アンジェさん? アンジェさん!?」


 アラタの呼びかけに応じず、にじり寄ってくるメイドを目の当たりにして、色々な意味で覚悟を決める少年であった。

 そして、前方に伸ばされたアンジェの両手が彼に触れようとした瞬間。


「ピィィィィィ!」


 突然テント内に、庇護欲ひごよくを刺激する甲高い鳴き声が響く。

 その声に驚き振り向くと、小さなピンク色の生物が眠たそうに眼を開けて、自分達を見つめ返している。


「あらあら、起きたのね。元気が出たみたいで良かった」


 火竜の子供が動き出すと、アンジェはそちらに歩み出し、頭を優しく撫でるのであった。

 テント内には、先程まで充満していた妖しい雰囲気は既に微塵もなく、ほのぼのとした空気が支配している。

 この変化に、アラタは安心感と残念さが入り混じる複雑な心境であった。


「ああ、そっか、その子はこのテントで寝ていたんだっけか」

「はい。先程眠っている時に、私の胸元で吸啜反射きゅうてつはんしゃが見られまして。きっと、お母さんのおっぱいを飲む夢でも見ていたのでしょうね」


 アラタはその話を聞いて「へえ~」と複雑な心境の中、生返事をしていたが〝吸啜反射〟という単語がふと気になった。

 吸啜反射とは赤ん坊が母親のおっぱいを吸う際の反射の1つである。

 その時、一連の事柄が彼の中で1つに繋がり、即座にアンジェの胸元に目を向けると、彼の視線に気が付いたアンジェが、少し照れた仕草を見せる。


「そんな熱い視線を送られても、おっぱいは出ないですよ?」

「違うわ! その赤い痕は、そいつの仕業なんでしょうが! ドキドキした自分が馬鹿でしたわ」


(それにしても、こいつまだ子供のくせに、こうも大胆なことをするなんて末恐ろしい奴よ)


 アラタは火竜の子に一度目を向けると、すぐにアンジェを見やり、溜息をついていた。しかし、気が抜けたためか自分の正直な感想を口走ってしまった事に気が付かなかった。


「あら、やはり楽しんでいただけたようですね。それだけで私は満足です。ですが、アラタ様。例え、子供と言えど私はこの子に身体の一部を汚されてしまいました。こんなネトラレメイドでもお好きですか?」

「何? その妖しい本のようなタイトルみたいなのは? それに、年頃の女の子がネトラレとか言うもんじゃないよ。いろんな意味で危険だよ!」

「興味がおありかと思ったのですが、どうやらそうではないようですね。最も、私もアラタ様が、そういった事に興奮する体質であった場合、どうしようかと思っていたので良かったです」


 明らかに安堵あんどの表情をアンジェが見せていたので、彼女がその道に乗り気ではない事にアラタはほっとしていた。

 一方で、〝火竜の子をあやすネグリジェ姿のアンジェ〟という一般家庭のワンシーンを思わせる情景に、そこはかとない色気を感じていた。


(俺って、こういう家庭的な場面に興奮する性質たちだったのか。……なんてこった)


 自分の中の新しい扉に気付いた、武藤新17歳の事であった。

次話は登山再開です。

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