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異世界転生者

 目の前にいるルークに視線を向けると、さっそく箸で器用にうどんを持ち上げてふぅふぅと息をかけて熱を冷ましている。

 アラタもどきどきしながらうどんをすくい上げ、ルークと同じように少し冷まして口に入れた。


(!! んまいっ!! うどんだ! これは俺が知っているうどんだ!! もちもちしていて食べごたえがある!)


 うどんを咀嚼し飲み込んだ後、次は丼を持ってスープの味を確かめる。まだ、丼は熱く、手に熱が伝わるが、そんな事はおかまいなしに丼の縁を唇に当てて琥珀色のそれを口内にいざなった。舌でその味をひとしきり楽しむと、ごくんと喉を鳴らして飲み込む。


出汁だしがめちゃくちゃ出ていてすんごい美味うまい!」


 そこからアラタは、一心不乱にきつねうどんを食べ進めた。お揚げを噛んだ瞬間に内部に染み込んだスープが解放され口の中に広がっていく。それを飲み込み、噛みちぎり、再び箸をうどんに向ける。


「もしよければこれを使ってみて」


 ルークがテーブルに置いた小瓶の中には、赤く細かい粒が多量に入っている。


「これは……もしかして七味唐辛子?」


 金髪サラサラの青年はにこにこしながら手で「どうぞ」とその赤い香辛料を勧めた。アラタはそれを少量うどんにかけて、食べてみる。


(辛みが広がってくる……でも、それが美味い!)


「か……完璧だ……美味い……美味すぎる! きつねうどんってこんなに美味おいしかったっけ?」


 その後、再び七味唐辛子をかけて味の変化を楽しみつつ、アラタは丼の中にあったものを全て胃の中に収めた。


「大変おいしゅうございました。……ご馳走さまでした」


「気に入ってもらったみたいで良かったよ。それに、汁の味も太鼓判をもらったし、僕の味覚は間違っていなかったみたいだね。ソルシエルにはパスタとかの麺類はあるけど、うどん、そば、ラーメンがないからね。色々と手探りで開発中で、今日もうどんを作って持ってきたんだ」


 アラタが完食したのを見て、ルークは非常に嬉しそうであった。その笑顔を見ながら、アラタは食事の前に芽生えた違和感の正体を確信する。


「ルークさん……あなたは地球人……ですよね」


 ルークは笑みを崩さないまま、アラタの真剣かつ戸惑いを含む顔を見つめ口を開いた。


草薙くさなぎながれ……それが日本にいた時の僕の名前だよ」


「草薙……流……さん、俺はいきなりこの世界に飛ばされたんですけど、あなたは違うんですか? 見た目は日本人に見えないですけど」


「うん、僕は65歳の時に事故で死んじゃって……その後、この世界の女神様に頼まれてソルシエルで生まれ変わったんだ。このルークとしてね」


「それって、俗に言う転生ってやつですか……って女神様!?」


 アラタは驚いた。転生と女神と言えば、異世界転生もののテンプレのような組み合わせだ。そうなると、さらに気になる事がある。


「ルークさん、もしかして女神様から何かしらチート能力とかもらってたりします?」


「え? チート能力? うーん、古代魔術関連の知識とか高い魔力とか身体能力の向上がどうとか言っていたけど、たぶんそれかなぁ?」


「まぎれもなく、それがチート能力でしょうよ!! なんだ、それ! 俺はソルシエルに来た時に女神様なんかに会っていないし、特別な能力どころか呪いもらってるし! あーーーー、なんか急にやる気がなくなってきた」


 アラタから急激に覇気がなくなっていき、ルークが機嫌を直すように言うが、それでも少年の苛立ちは治まらないのであった。

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