プロローグ
ある晩、一人の少年が暗がりの路地を歩いていた。黒い短髪でごく平均的な顔だちに中肉中背の容姿—―これといった主張の無いその外見にから受ける印象は薄く、正に〝庶民〟という表現がしっくりくる。
自他ともに認める庶民であるその少年は夕飯の入った買い物袋を片手にやや上機嫌であった。
「いつもは割とすぐに売り切れるカツカレーが残っていたのはラッキーだったな。今日の晩飯がおにぎりだったら、3日連続で晩飯がおにぎりだったよ。まぁ、おにぎりは好きだけども」
自分の夕飯事情を嘆きながら、その少年〝武藤 新〟はふと空を見上げていた。今夜は満月で雲は少なく、月光が際立っている。しかし周囲の建物から溢れるライトにより、夜でも昼と変わりない明るさが保たれている現状では、月の淡い光は地上に届かず人工の光に打ち消され、その存在は霞んでいるように見える。新が月を見上げたのは少しの間で、特に気にすることもなく街灯が照らす道を進んでいく。
そんな時だった。街中を包む明かりが1つまた1つと次第に消えていき、数秒後には街を漆黒が支配していた。街の人々からは急な停電に対し心配そうな声が聞こえていたが、大きなパニックに陥ることなく復旧の時を待っていた。
新も周囲の人々と同様に復旧を待っていたが、突然背筋が凍りつくような感覚を覚える。
(なんだ、この寒気は? 今は夏だぞ、こんなに寒いわけ――)
悪寒に対する思考が終わらないうちに新を次の恐怖が襲った。新の足元が急に光り出したのである。その光は一気に広がり新を包み込んでいく。周囲が暗闇から眩い光に一瞬で変化し視界を奪われた新はまともに目を開けることも出来ず、意識が少しずつ遠のいていく感覚に襲われる。
(暖かい。それに優しくて懐かしい感じがする。何だか……すごく眠くなってき……た)
新はその光にどこか心安らぐ感覚を覚えながら、間もなく意識を失った。
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