取り急ぎ、王都で色々とお買い物を 後編
王都の街並みを、窓から眺めながらの、ユーストン伯爵家の馬車での移動。
同じ馬車の中には、養女に迎える予定の、ライラとレイネシア。
後ろの馬車には、メイド長のアイリスさんと、双子を担当する若手メイドのブレンダとエレノア。
馬車の前には、騎馬に乗った護衛が二人。
ちなみに、この馬車の御者は、護衛も兼ねるジェームス。
ちょっとした規模の御一行様となって、王都の市街地の中でも上品な店が連なる一角を、最初の目的地である若い女性用の衣装を扱う店に向かって、パカパカといった擬音が似合う長閑な速度で進んでいる。
「姉さま、姉さま」
「なあに、レイネ」
「あの建物は、何かしら?」
「ああ、あれは、鍛冶屋じゃないかしら」
「鍛冶屋さん?」
「そう。騎士のための武器や防具を、売ったり、整備したりするお店よ」
「へぇ~、凄いね」
「ええ。凄いのよ」
「あっ! 姉さま、姉さま。あれは、何?」
「ん? ああ、噴水ね」
「噴水?」
「そう。水が噴き出して奇麗なのよ」
「でも、でも。今は、何も出ていないよね?」
「そうね。お昼とか、決まった時間になれば、水が噴き出すのではなかったかしら」
「へぇ~、凄いんだね」
レイネシアとライラは、平常運転。
賑やかに、マイペースな会話を繰り広げている。
いやはや。ライラがいつも通りに戻って、一安心。
時間を取って、ひざ詰めで、話し合ってよかった。
が、しかし。ライラの観察眼の鋭さには、正直、驚いた。
私自身も気付いていなかったのだが、私は、ふとした瞬間に、自分が部外者であるかのような距離を感じさせる態度をとることがあるのだそうだ。
まあ、実際、いつこの異世界から離脱するかも知れず、離脱してしまったら戻って来れるかどうかも怪しい状況なので、出来るだけ自分が急に居なくなっても問題が無いように、と意識して行動するよう心掛けているので、そう見えることもあるだろう、と思う。
ただ、それが原因で、ライラに誤解されて余計な心配をさせてしまったとは、予想外だった。
ライラが、私のそんな態度を、自分の強引な行動に愛想を尽かしたからではないかと気に病んでいた、とは...。
疑心暗鬼に陥っていたライラの誤解を解くために、結局、私の事情を説明する破目になった。
のだが、まあ、人には言えない秘密を抱えているライラの信頼を得るには、秘密を共有するのが一番なのは明白なので、結果オーライ、だろう。
荒唐無稽と言えなくもない私の事情に関するダイジェスト版の話を、ライラがどのように受け取ったのかは分からないが、可哀そうな人を見る目にはならなかったので、理解してくれたのだと信じておく。
これで、私がこの世界にいつまで滞在できるか分からない一時的な居候である、と知っている人物が、二名になった。
まあ、隠し事が苦手な私の態度や言動から、それとなく察している人は、他にも居そうだが...。
兎に角。元のお茶目なライラに戻ってくれて、良かった、よかった。
* * * * *
一店舗につき、外出用のドレスが二着と普段着用のドレスが三着、それに合わせた小物や各種の必需品を色々。
三店舗で同じような買い物を二人分ずつして、ユーストン伯爵家の邸宅へと戻る。
と、言葉にすると、それ程の事でもないように錯覚しそうになるが、間違いなく、大盤振る舞いの大量購入だ。
買い物をしている女性陣のテンションも高いが、販売する方である店の売り子たちも大騒ぎ。
心なしか、アイリスさんもご機嫌で、ライラ付きメイドとなったエレノアも、レイネシア付きメイドとなったブレンダも、双子のお嬢様コンビとは完全に打ち解けて、店の売り子のお姉さま方と一緒に、あーでもない、こーでもないと、笑顔満開で品物選びと試着を繰り返していた。
いやはや、皆さん、楽しそうで、結構なことだ。
皆さん、私とジェームスの事は、アウトオブ眼中、ですね。ははははは。
ユーストン伯爵家を出発した際は、王都入りする直前に宿場町で急遽購入した高級感があると言えなくもない程度に上品で少し質素なワンピース、だった。
その為、最初に訪れたこのお店では、伯爵家の令嬢に相応しいレベルで尚且つ少しの手直しで即座に着れるドレス、という条件で用意して貰った物の中から、まずは一着ずつの選択と相成った。
その後で、残りは、超特急で仕上げて貰う前提での汎用的なドレスを主要な選択肢として、一部はオーダーメードの一品物も候補に混ぜながらの、賑やかなドレス選びとなり、現在に至る。
満足そうな表情が垣間見えていたアイリスさんが、少し表情を引き締めて、パンパンと手を叩いてから、女性陣に向かって口を開いた。
「さあ、さあ。こちらのお店では、ここまで、です」
「「はあ~い」」
天然娘のレイネシアと、お調子者の片鱗を窺わせたエレノアが、明るく返事をする。
ライラがレイネシアを、ブレンダがエレノアを、それぞれ軽く突いて嗜めた。
そんな四人を少し顔を顰めながらも微笑ましそうに見て、アイリスさんが、再び、口を開く。
「そろそろ最初に選んだ衣装の手直しが済んだ頃でしょうから、ライラお嬢様とレイネシアお嬢様は、あちらの部屋へお願いします」
「「はい」」
「エレノアとブレンダは、一緒に移動してお着替えを」
「「承知致しました」」
「お店の方は、最初選んだ衣装と小物類一式をあちらの部屋に。先程の注文内容を記載した注文書の作成を至急、お願い致します」
店主から提示され、アイリスさんがチェックした、大量の衣料品が列挙された注文書を、ざっと見た上でサインして、アイリスさんに渡す。
アイリスさんは、注文書を見ながら、店主と納品についての打ち合わせを始める。
カチャリ。
と、奥の部屋の扉が開いて、着替えを終えたライラとレイネシアが、戻ってきた。
「やっぱり、ライラは美人さん、だな」
「ありがとうございます。養父様」
「うん。高貴なお姫様みたいで、近寄り難さも倍増、だね」
「...」
「養父様、養父様。レイネは、どうですか?」
「うん、可愛いね。レイネはお子様感が満載、だ」
「えぇ~。レイネもお姫様が良いなぁ」
「ははははは。では、ライラを見習って、お淑やかにしないとな」
「はぁ~い。レイネも、頑張りまぁ~す」
私と養女たちが長閑な親子の会話を楽しんでいる間に、アリシアさんがエレノアとブレンダに指示を出して、購入した持ち帰り可能な小物類などの馬車への積み込みが完了。
笑顔満載のお店の皆様に見送られて、私たちは馬車に乗り込み、次の店舗へと出発するのだった。




