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取り急ぎ、王都で色々とお買い物を 前編

 ユーストン伯爵家が誇る有能な剛腕執事である、トマス・クリフォード氏。

 彼と私との初対決(?)は、呆気(あっけ)なく、彼の完勝で終わった。

 まあ、負けたと言っても、当初の目的は果たしていて、失ったものは何も無いのだが...。


 魑魅魍魎が闊歩(かっぽ)する貴族社会を相手取ってユーストン伯爵家の権威を維持し続けるために裏でも暗躍し、先代に長く仕えて現ユーストン伯爵を生まれた時から知っている強者(つわもの)であるトマス氏に、現代日本の(ゆる)い社会でさえも四苦八苦していた世渡り上手とはとても言えない私が、(かな)う訳もなかった。

 私に出来た事と言えば、唯々、ユーストン伯爵の記憶や知識にある、トマス氏は悪人に見えることもあるが実は心優しい紳士な御仁(ごじん)だ、という認識を信じて、全てを正直に申告するしかなかった。

 いや、まあ、性懲(しょうこ)りもなく、初顔合わせで惨敗した後の二回戦の冒頭で、何とか丸め込めないものか、とトライしようとはしたのだが...無理、でした。


 兎に角、まずは、私に悪意はないこと、を伝えるべく、事実を説明した。

 ユーストン伯爵と私が別人格である、と認め。

 ただし、乗っ取った訳ではなく、不慮の事故、的な感じで、私にも選択肢はなかったのだ、と伝え。

 だから、当然、いつ、どうすれば、元に戻るのかは分からない、と告げた。


 続いて、私の思考や行動に影響して周囲に違和感を与える要因とも成り得る、私がこれまで生活していた元の世界、つまり現代日本について、簡単に説明した。

 異世界とは言えなかったので、この王国とは別の国、と表現。

 ただし、文化も異なり、貴族などの明確な階級はなく、建前上は身分差のない社会だった、と伝え。

 その国では、ほぼ全ての国民が、読み書き計算などの基礎教育は受けていて、大多数の国民が、高等教育も受けている、と宣伝してみた。


 そして、最後に、私の信条ならぬ心情についても、正直に話した。

 私には元の世界に十代の娘が居るので、一生懸命に頑張っている女の子を見ると手助けをしたくなるのだ、と。


 トマス氏は、私の話を聞き終えると、蟀谷(こめかみ)を右手の親指で揉みながら、何やら難しい表情で考え込んでしまった。

 その雰囲気は、どうやら現状を受け入れては貰えた、といった感じだったので、私は、ここぞとばかりに、畳み掛けてみた。

 このような経緯と背景もあって少しばかり行動した結果としての現状があり、現状の追認と協力を求めて王都を訪れたのだ、と切り出した上で、孤児院の公衆浴場と少女向け学校に関する現状と今後の目論見(もくろみ)、アンやライラとレイネシアの処遇についての現状と課題、などを一気に説明してしまったのだ。

 それが吉と出たのか凶と出たのか、現状では何とも判断し(がた)いが、まあ、問答無用と拉致監禁されることもなく、今後については後日改めて相談を、とその場は解放されて行動の自由もあるので、たぶん、(ひど)いことには()らないだろう、と思う。というか、思いたい。


 という訳で、現在も、私はユーストン伯爵として、王都のユーストン伯爵家の邸宅に滞在中。

 王都に到着して二日目の朝は、邸宅にある自分の部屋の寝室でぐっすり眠って、快適に目覚めた。

 そして、今、私は、だだっ広い食堂にて、アイリスさん他メイドや従僕の皆さんのお世話になりながら、ライラとレイネシアと一緒に朝食を(いただ)いている。


「ライラ、レイネシア。疲れは、ちゃんと取れたかな?」

「はい」

「ふかふかの広々ベットで、ぐっすりです」

「そうか。それは、良かった」

「ありがとうございます」

(ねえ)さまと二人でゴロゴロしても、広々でふかふかでした」

「ははは。そうか」

「...」

「はい。姉さまと一緒のベットで、ぐっすりでした」

「ん?」

 一緒のベット?

 私は、レイネシアの予想外な発言に、思わず、(そば)に控えていたアイリスさんに視線を向けてしまう。

 が、直後に、何となく、事情が理解できてしまった。

 失敗した。スルー出来れていれば良かったのだが...仕様がない。

 私は、仕方なく、目が合ってしまったアイリスさんに、確認の言葉を投げかける。

「アイリス。寝室は二部屋を用意した、けども、という事なんだろうね」

「はい。ご用意はしたのですが...」

「申し訳ありません、だ...養父様(とうさま)。今までいつも、一緒に寝ていたものですから」

「あれ? 姉さま、一緒はイケないの?」

「そうよ、レイネ。私達は、もう、子供ではないのだから」

「えっ。で、でも、姉さま...」

「あ、ああ。そんなに(あせ)らなくても、良いよ」

「「申し訳ありません」」

「いや、いや。謝る必要はない。家によっても色々、だからね」

「「...」」

「アイリスと相談しながら少しずつ、ユーストン伯爵家のやり方に慣れてくれれば、それで良し」

「「...はい」」


 シュンとしてしまったレイネシアと、少し居心地悪げなライラ。

 私は、そんな二人の様子を(なが)めながら、食事を進めつつ、話題転換のために、食事前のアイリスさんと相談しておいた本日の予定を、頭の中で御浚(おさら)いする。

 確か、今日は、ライラとレイネシアの衣類や靴と各種小物類を揃える、のが最優先事項、という話だった。

 衣類等の発注は、当家御用達の仕立て屋など業者をこの邸宅まで呼んで行う、のが通常だ。

 が、伯爵家では長らく年頃の娘の衣装など購入していなかったので、取り急ぎ一通りの物を揃えることを優先するならば、店舗で沢山の物を見比べながら選んだ方が良い、らしい。

 という事で、今回は、複数の店舗を回って様々な実物を見ながら選択して、最短で一定の数量を確保する、という方針が採用されている。

 つまり、食後は、王都の街を見学しながらライラとレイネシアのためのお買い物だ、と二人に伝える必要がある。

 あるのだが、さて、どう切り出すのが、良いだろうか。

 どうも、王都に来てから、というか領地の街を()ってから以降は、ライラの様子が少し変で、調子が狂うのだ。

 心ここに在らず、というか、ぼぉ~としていることが多く、精彩を欠いていて、少し天然が入ったレイネのフォローというか軌道修正も後手に回る、といった状況が目に付く。

 ライラは、一見すると強引で自己中心的に行動しているようにも見えるが、周囲の反応や言動に敏感で、気配りの出来る真面目で善良なお子様だ。

 だから、王都行きへの強引な同行と結果的に押しかけ養女と化した今回の行動で、私の立場が悪くなってるように見える現状に、責任を感じている、のだろうか。

 であれば、彼女の立場からすると、たぶん、今回の行動は熟考した上での致し方ない選択だった筈なので、後悔する訳にもいかないだろうから、余計に、いたたまれない、のだと思う。

 そんな状況で、更に、彼女たちにお金と時間をかけることになるお買い物の予定を告げると、どうなるか...。

 う~ん。焼け石に水、ではなく、火に油、だな。

 さて、どうしたものだろうか。


 * * * * *


 結局、私は、出かける準備をアイリスさんに任せて、ライラと二人でじっくりとお話しすることにした。

 私の書斎で、応接セットのソファーに向き合って座り、食後のお茶をしながら、ライラとお話、である。

 が、この部屋に入ってからは、無言。

 王都の邸宅の若いメイドさんが用意してくれたお茶の入ったカップを前に、二人で、無言。

 むむむ。困った。

 しかも、ライラは、下を向いたまま、目を合わせてくれない。

 けど、まあ、大人というか親である私が、何とかすべきだろう。

 十二歳の、可愛い養女(むすめ)のために。


「少し前にも、話したと思うけど。私は、ライラとレイネシアの抱える事情について、事実関係のみの表面的な事だけだけど、知っている」

「...」

「孤児院の応接室では、それを説明した上で、ライラの望みを(たず)ねた」

「はい」

「それに対する返事が、宿屋での、養女にして欲しい、という申し出だったよね」

「はい。...そうです」

「で、今、現在は、その手続きを手配している最中なんだが、既に養女として扱っている」

「...」

「まあ、たぶん、大丈夫、だろう。執事のトマスも反対はしなかったし、そのトマスが積極的に根回しの指揮を執っているからね。数日中には、体裁(ていさい)も整うだろう」

「ありがとうございます」

如何(どう)致しまして」

「...」

「で。ライラは、何を気にしているのかな?」


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