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コーヒーには蜂蜜を! ―俺と彼女の英雄劇― 作者:干梅丈
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最低君と不思議ちゃん その1

 
 俺は黒い缶コーヒーを飲んだことがある。
 とても苦かった。
 いや、苦すぎたと言っていい。
 とにかくだ、まともに飲めた代物じゃなかった。
 その場で迷わず捨てた。消費者センターに電話しなかっただけマシだろう。

 そんな話を成り行きで、時間潰しでふと人に話したことがある。
 ただなんでもない、オチもなく酷く退屈な話だ。

 今思えば、よく聞き流しもせずに真剣に耳を傾けてくれたものだなと思う。
 結局そいつは最後まで黙って、一通り聞いた後にこう言った。

「家に持ち帰って蜂蜜でも入れればよかったじゃないか」

 詭弁だと思った。

 口の開いた缶を家に持ち帰る手間。
 コップにコーヒーを注ぎ移す手間。
 蜂蜜を棚から取ってコーヒーに投入する手間。
 スプーンでコーヒーをかき混ぜる手間。などなど。

 そこまでして合わないコーヒーを楽しむ必要があるのだろうか?
 結論はこうだ。「ない」ね。

 などという持論をぶつけてまでそいつとは議論しなかった。
 どの道くだらない話には変わりないのだから。

 えっと、だからこれはそんな話。なのかもしれない。
 だめだな。こういうのはどうも向いてない。
 聞き流してくれて結構。というか聞き流してくれ、下さい。

 とにもかくにも俺はそれ以降、缶コーヒーを買う時は迷わず蜂蜜入りのボタンを押すのだ。


  ○


 冬におぼえた歌を忘れた。
 俺が小学生の頃大好きだった曲の歌い出しだ。
 何度も聴いて、何度も聴いて胸をドキドキさせたのを覚えている。
 中学生になったら、高校生になったら。
 そんなバイオレンスで甘酸っぱい学校生活が———。

「おい最低君!パン買って来いよ!!」

 待っていませんでした。

「最低君。僕も購買でシャー芯、ダッシュで」
 そう、俺の名前は最低君。って違う違う! 一度気を取り直そう。

 俺の名前は中前(なかまえ)好一(こういち)。二岡高校の二年生。今をときめく17歳で趣味は 。
「てめ無視か、最低君の分際で」
「無視してません。えっとジャムパン?そっちはHBでいいかな?」
 答えの代わりに小銭を投げてよこした。なんなら払ってくれないほうがマシだ。二人同時に小銭大量なんて取れるはずもなく、俺は嫌な顔一つせず床に散らばったそれらを拾わされることとなる。しかもこいつら細かいのばっかにしよってからに。
「ちょっなに!?キモいキモいキモい!!こいつ私のパンツ見ようとしてる!!」
「え?そんなつもりはないけど」
「おい!こっち見んな最低っ!!」
 顔を蹴られた。余計に見えたよ毛糸パンツが。ありがたみが薄いなまったく。

「ちょっと最低君。昨日頼んだ宿題、ほとんど答えが間違っているのだけど。あなたバカなの?」
「ごめん。化学ってよく分かんなくて、サインコサインタブレット?」
「生きる価値ないね君」
 今のが今日一番効いたぞ。やっぱり精神面では女子のほうがくるな。
 そしてそろそろだろう。

「ほんと中前ってさーー!」

 野球部の木村君がわざと大きめに言う。
 それに続いてクラスメイト全員が声を揃えるのだ。

「「「「最低だよね~~~~~!!!!」」」」

 大きなお世話だこの野郎。
 と口の中で言って、俺は購買に向かうのだった。


  ○


 大変お見苦しい始まりになってしまった気がする。
 なんだ中前って虐められっ子じゃん。などと思われてしまうかもしれないがそうではない。いや、そうなのかもしれない。

 ことの始まりというか、俺が『最低君』と呼ばれだしたきっかけを話そう。
 ちょうど今から一年前くらいか。入学したてのあどけない一年生で、五月上旬の話だ。

 その頃はクラスメイトにパシリにされることもなく、床に物を落としても拾ってもらえるぐらいに俺の学校生活は充実していた。特に友達もできてはいなかったけれど、みんなの他愛のない会話に混じったり、体育の授業でペアを組むのも苦労はしなかったのだ。

 そんな学校生活はそこそこに楽しく、いつしか親友とか彼女とかも作れちゃうんじゃないかと俺は無駄に浮かれていたのを覚えている。
 千葉さんという女子がいた。クラスの学級委員で性格は明るく、容姿も綺麗で、男子女子問わず人気の高い女子だ。彼女を中心にクラスは回っていたと言っても過言ではないだろう。

「わ!ハム次郎来ちゃったの?」

 彼女の通学鞄からハムスターが出てきた時なんかはドッと笑いが起きるほどだった。
 それからたびたび鞄に忍び込んでは学校にやって来たハム次郎はすぐにクラスの人気者となった。みんながお菓子を与えるから味を占めたんだと思う。俺もパンのカスをあげたことがあるけれど、ハム次郎は丸っこくて、可愛らしく頭を掻いて見ていてとても癒されるのだった。

「中前君ってハムスター好きなの?」
 千葉さんにそう聞かれてやや照れたのだろう。
「ハムスターっていうか、動物っていうか、生きてるやつらってなんか好きだなぁ」
 この返答、今にしてみればちょっとカッコつけようとしてるのが何とも言えないな。
「ふふ、中前君って面白いね」
 それから三日後。まあそのなんだ。はい、その通りです。

 俺はハム次郎を踏み潰したのだ。

 トイレから教室に帰って来た時、千葉さんが「ハム次郎――!!」と叫んだ時には遅かった。

 ぷちっ!

 嫌な音、グニョッとした確かな感触。
 足を上げずに五秒。静まり返った教室の中、俺はぼんやりと理解した。
 ()っちまったと。

「・・・最低」
 そう千葉さんが色を無くした瞳でポツリと言ってから。

「最低。最低!最低っ!!」

 徐々に声を大きくして叫んだ。
 それはとても怖い顔で、俺という存在が拒絶されているのが分かって。

「おい中前!謝れよおめーー!!」「ハム次郎が・・・」「普通そういうことする!?」

 千葉さんだけではなかった。
 全員だ。全員が同じ顔をしていた。

「ちが、違うんだ!これは事故で!!」
 俺はたまらずに叫んだ。

「さっさと足どけなさいよ!」「お前がもっと注意してればなー!!」
「謝れ!千葉さんとハム次郎に!!」「この最低野郎!!」

 思えばあれが初めてのクラス一丸となった瞬間だったのかもしれない。俺を囲んでの丸だ。
 それから俺は皆に罵られながら足をどけて、赤く染まったハム次郎と千葉さんに土下座をして謝った。ひたすら謝った。嫌われたくなかった。謝るたびに向けられる声は大きくなった。
 そして次の日、完全に孤立してしまった俺の背中に誰かが言った。

「最低君」

 振り返ると皆、俺を睨みながら薄ら笑いしていて。
 その日から俺のあだ名は『最低君』となったのだった。

 ・・・・・思い返してみても酷い話だな。
 そもそも学校にハムスターを連れて来るのがいけないのではないか?

 なんてことでもないのだ。
 俺には昔から体質と言うか癖と言うか、良くないこと、不幸を引き寄せてしまうことがある。
 中二病、自意識過剰と思うかもしれないが本当のこと。
 むしろただの中二病であったらどれ程救われていたか分からない。

 中学生の時これのせいで酷い目に遭った。無論こんな俺に友達もできるはずがなくて。
 それでも俺は、今でも友達が欲しくてたまらないのだ。
 だから逆らわず、苦い顔をせず、俺はジャムパンとシャー芯を買うのだった。

「早く戻らなくては」
 いつかみんなに許してもらうために。


  ○


 昼休みが終わって、午後二時間の授業が何事もなく過ぎ下校時刻となった。
 俺は帰宅部なのでこのまま帰ればいいのだけれど、そんなことをしていても永遠に友達ができそうもないので、何となくみんなが教室を出るまで本を読むのだった。自分から話しかけろよというツッコミは自分でも聞かなかったことにする。

「ま~たあいつ本読んでるよ。これからグラウンドに行く俺らへの当て付けかー?」
 野球部の木村君が俺に聞えるように言った。
 運動部員の人達は大変なのだろう。毎日人一倍汗水たらして。正直羨ましい青春だ。

「それともあれか。強がってんじゃねーの?僕はあんな虐め気にしてないぞみたいな」
 僕じゃない、一人称は俺だ。それにあれは虐めじゃなくて罰だ。千葉さんのハムスターを踏み潰した罰。みんなの気が済むまでは俺は黙ってそれを受け入れるつもりでしかない。

「あ、そう言えば聞いた?この話」
 そう切り出し始めたのは千葉さんだった。あ、今年も同じクラスなんです。紹介が遅れて申し訳ない。またしても学級委員で、木村君とお付き合いしているみたいです。お似合いだと思いますはい。

「ほら、紅葉橋渡ったとこの道路の」
 紅葉橋。人によっては「もみじばし」と読んだり「こうようはし」と読んだりのあそこ、駅から学校への通学路とは反対側にある橋だ。説明が下手かもしれないけれど、二岡高校の生徒があまり踏み入らない方角の道路で、名前の由来は紅葉の浮かんだ川があまりにも綺麗だったからとかなんとか。俺自身一度か二度しか渡ったことのない橋だけど。

「あ~~、知ってる知ってる!アレでしょ?最近やたらと犬とか猫が死んでるっていう」
「そうそう!車に轢かれちゃってぐしゃ~って」「やだグロ~い」
 そんなことがあったのか。噂話とかには疎い俺にとってはなかなか新鮮な情報だった。
 なんか怖いし、帰りは寄り道せずに真っ直ぐ帰ろうかな。

「でね?この時期でしょ。うちのハム次郎・・・・・・・」

 ゾッ!と背筋に鳥肌が走った。まさか。
 本から僅かに目線を逸らすと千葉さんが俺を睨んでいて更にゾゾゾッ!となる。

「あれ、最低君じゃないの?」
 何を根拠にこの人は! あ、ハム次郎か・・・。

「おい!本なんか読んでねーで答えろよ!!」

 木村君に文庫本を取り上げられて俺は固まってしまう。教室に残っていた8人ものクラスメイトに非難の眼で見られていたからだ。
 決めつけ、あるいは願望。その眼は俺を犯人としか見ていなくて。

「違うよ、俺はそんなことしない。帰り道も逆方向なんだし」
 とっさに言ってみたけれどなんて地味でありきたりな言い訳なんだろう。だけどこれくらいしか言えることもないしなー、困ったぞ。

「そもそもこいつなんで学校に残ってんの?」
 ・・え?友達を作るためだけど。

「分かった!みんなが帰るの待ってんだよ!!」
 あながち間違いでもない、か?

「そっか!人がいなくなりはじめての方が殺すのバレないから!!」
 ええ!?そうなるの!!?

「ハム次郎も殺したし・・・」
 あれは事故です。本当です。

「あ!こいつ人が死ぬ小説読んでやがる!!」
 推理小説ってだいたい人死ぬんじゃ・・・・そんなみんなで悲鳴上げないでもええやん。

「どういうことだよ中前!」
 俺の本を床に叩き付けた木村君が顔を真っ赤にしながら近づいてきて。
「ちょっと待て、ぐっ!?」
 胸ぐらを掴んで俺を立ち上がらせた。流石は野球部のエースというか、身長もだいぶ違うからつま先立ちになってしまう。そして顔が何より怖い。

「お前自分が何してるか分かってんのか!!?」
「いややってないしうぼぉ!!?」
 こいつ、、、いきなり膝蹴りって。

 俺は床に投げ捨てられ、顔面をサッカーボールのように蹴られた。
「痛ぇか?お前に殺された動物たちはもっと痛かったんだよ!!」
 そう言ってまた腹を蹴られた。「いいぞ木村―!」という声援と、何を感動したのか泣いている女子もいた。俺が一番泣きたいのに。

 そんなやりとりが10分続いて、二十発ほど蹴られた俺はとうとう泣かなかった。強い子。
 最後に倒れる俺にむかって「最低君!」とかなんとか言ってみんな教室から出て行ったけれど、面白い映画を観た後かのように変な団結感があってそこはなんだか羨ましくて。
 俺はゆったりと立ち上がり、荷物をまとめてから一度トイレに行って鏡で顔を見た。
 左頬に大きな痣が一つ。

「なんだい泣き目じゃねーか」
 俺の強がりも底が知れてるな、とそんなことを思う今日この頃でした。


  ○


 確かに車通りは多い。
 それに橋の向こうから来た車を犬や猫は目視しづらい角度なのかもしれない。
「あながち轢かれるのも不思議ではないのか?」
 なんなら今俺がここにいるほうが不思議かもしれなかった。今日の今日でここにいることをみんなにバレたらなんて言われることやら。

 あの後俺は学校から出ていつもとは反対方向の道に進みここ『紅葉橋』までやって来たのだ。来るのは半年ぶりくらいか、現在は紅葉の「も」の字も「こ」の字もない。
 無視すればいいのにとも思われるかもしれないがそうもいかない。例の良くないことやら不幸を俺が引き寄せた結果でこんなことが起きているかもしれなかったからだ。
 何言ってんだって?俺も半分はそう思う。

 しかし立地条件からしたら動物が轢かれ易い印象が確かにあって、まあ怪談話とか噂ってこういうことから発展するのかもとかも思ってしまう訳で。でも。
「ここ最近は必ず週に一、二度ってのもおかしい気はするよな」
 学校の裏サイト的な掲示板の情報によると四月から頻繁に動物が轢き殺されているとかなんとか。それも犬や猫のみならず、ハトやカラス、ネズミなんかも餌食になるってことで。去年まではそんなこともなかったのが話の一番のネタでもあるのだ。

「俺のせいなのか?」
 仮に俺のせいだったとしてもそれを調べる術はないし、悲しいことに止める方法も知らない。
 じゃあ何故来たのかって? 分からない。ただ来なくちゃいけない気がして———。

 猫だ。

 直後に嫌な汗。
 首輪をした三毛猫が俺の五十メートルくらい先を歩いていた。

 道路に向かって一直線に。
 確かめると車の信号は赤から青に変わったばかりで。トラックが走り出していた。

 轢かれる。

 そうとしか思えなかった。
 なぜだろう。猫は真っ直ぐしか見ていないのだ。
 まるで道路に吸い込まれるみたいにトボトボ、トボトボと歩を進めていて。

 脳ミソとは不思議なもので、こういう時に限って本気を出す。
 四秒。

 距離、速度、トラックと猫のお互いの位置関係から四秒後に悲劇が起こることが分かった。

 俺と猫の距離はおよそ五十メートルだ。
 五十メートル走の世界記録は確か五秒台後半。
 なんて考えるよりも先に俺は走り出していた。

 やりたくなかった。
 でもやるしかなかった。

 プップップププ~~~~~!!!!!

 —————ああ。

「危ねえだろ馬鹿野郎が!!」

「・・・ごめんなさい」
 間に合ってしまった。
 また良くないことをしてしまったのだ。

 トラックは猫を抱きかかえた俺の目と鼻の先、十センチでピタリと止まってくれて。
 それでオッサンがすげー顔しながらトラックから降りてきた。かなり怒ってるなこれ。

「死にてーーのかコラッ!!」
「あの、猫がね」
「猫で死にてーのかお前は!!」
「ははは」
 殴られた。
 すると猫は驚いたように俺の手から抜けて歩道側に逃げて行く。

 これで良かったのだろうか?
 とりあえず猫が死ななかったのは確かだけれど。
「お前そこの二岡高校だな!?今から教師に来て謝罪を~~」
 オッサンは俺を怒鳴りちらし続けた。そりゃそうだろう。もし俺を轢いていたら職を失うどころか刑務所行きだ。俺みたいなバカの御蔭で。日本の法律はやっぱりどこかおかしい。
「聞いてんのかてめぇ!!」
 顔をビンタで叩かれる。よく殴られる日だな今日は。
 でも俺はこの場合どうなるのだろう?停学とか?退学ってことはないだろうけど・・・。

「待ってください!!」

 へ?
 俺の声ではない。歩道から女の子の声。

「その人は命がけで猫を助けたんです!だから悪くないんです!!」
 そういうことでもない気がするけど。

「ボク!ちゃんと見てたから!!」
 驚いた。
 いるんだ、ボクっ娘って。

 なんだか俺もオッサンも呆気にとられて気恥ずかしくなりながらも、その女の子に見とれた。
 彼女も二岡高校の学生なのだろう。その水色のセーラー服はやたらと似合っていて。
「・・そ、そんなことは分かってんだよ!それを差し引いてもこいつのやったことはだな」
「自分の命をかけて小さな命を救った。それのどこに責められることがあるんですか?」
 人様を人殺しにしかけたことじゃないかな?
 しかし、若者に、それも女の子にそんな理不尽な道徳を押し付けられてオッサンは口ごもってしまう。気持ちは分からなくもない。

「あと、殴ったのも見てますから。ほら、その痣。動かぬ証拠」
 いやこれは多分違う。木村君のやつ。
 でも、どんな理由であれ人を殴るのは法律的にもよろしくなくて。痣という証拠に目撃者。
 分が悪いのはオッサンの方だった。

「くそっ!勝手にしろ!!」 
 そう言ってオッサンはトラックに戻った。逃げたのだ。なんかすっごくごめんなさい。

 やがてトラックは走り出し、歩道に俺と女の子が残された。
「あの、何と言ったらいいか、・・ありがとう」
 俺がお礼を言うと女の子はニッコリと微笑んで。
「困っている人は助けなくちゃですよ!ふふ、カッコよかったです!!」
 そんな元気いっぱいの尊敬の眼差しに俺は、なんだか照れてしまうのだった。


  ○


 まさか再び学校に戻ってくるとは思わなかった。
「はい、紅茶です」
「あ、ありがとう」
 女の子に連れられて俺は今、手芸部の部室に来ていた。
 なんでも幽霊部員しかいないとかで、あまり大きくない部室には俺と女の子の二人きり。だからどうしたと言われれば、特に愛の告白とかの空気でもなく、ただ単純に少しお話がしたいとかで俺がここまで連れてこられただけなのだった。

「ボク、一年四組の荻野(おぎの)(ふみ)()っていいます」
「一年生だったんだ。それにしては随分」
「子供っぽいですか?」
「いや、立派だなって」
 あんな強面のオッサンを言い負かしたのだ。それに身長も小さくはないし。その、胸は結構大きい気がするし。まあ何となく「子供っぽい」って言われそうな雰囲気は出てるけども。
 ミディアムヘアっていうのか絶妙な長さの髪の毛に、幼さの残る丸っこい目の荻野さんは、JKっていいなぁって俺に久々に思わせるくらいには清楚っぽくて可愛らしい人なのでした。
「やっぱり子供っぽいですか?」
「気にしてるの?それ」
「う~ん、どちらかと言うと嬉しいですけど。若く見られるのはいいことですし」
 気にしているのかもしれなかった。

「ってそんな話はどうでもよくてですね!ボクびっくりしたんです!!」
 急に長机を叩くもんだから俺もびっくりした。紅茶は無事だ。
「部活で使う材料とかを買い出しに行って来た帰りにですね、うわ、そういえばこの道、最近動物が轢かれるって話題の道じゃないですかとか思ってたんですよ」
 なんか「ですです」うるさい子だな。
「そしたら猫ちゃんがフラフラ~って歩いててこれは!って思った矢先、先輩が!ん?先輩って名前なんでしたっけ?そもそも何年生で?」
「あ、このタイミングで自己紹介なんだ。別にいいけど、二年一組の(なか)前好一(まえこういち)。えっと、部活は帰宅部で~~くらいかな?」 
 我ながら紹介のしようのなさにうんざりする。
「え!?好一さん帰宅部なんですか!!?」
「いきなり名前呼び!!?」
 お互いがお互いに驚いた。向こうが驚く理由はさっぱり分からないけれど。

「だってもうボクと好一さんはお友達じゃないですか」

 。。。。。。。。。。。。。。。
 。。。。。。。。。。
 。。。。。。
 。。。

 おう?

「いまなんて?」
「だからもうお友達でしょう?好一さんと、ボク」

 。。。。。。。。。。。。。。

 いかんいかんいかん!!
 またしても頭が真っ白になるところだった!
 ただもう一度だけ。
「俺と荻野さんは?」
「お友達」

 あ~~~~~~~~~~~~~~~~~。
 猫助けてよかった~~~~~~~~~~。
 命かけてよかった~~~~~~~~~~。

「あの大丈夫ですか?なぜそんなに遠くを見つめて」
「え?ああ、ごめん。ほんとごめん嫌わないで」
「????」
 不思議がる荻野さんだけど、俺にとってはもう嬉しいのなんのって。

 まあ。
 気のせいでしょうけどね。あるいは優しさ?
 とてもじゃないけど俺と荻野さんがこれから、休日一緒に遊ぶ関係になったり、そ、その、あの、お付き合いしたり、こほん。そういった関係になるとは思えないから。
 学年も性別も違うのだ。過度な期待はしない。
 でも、でもだ。それでも「お友達」と言ってくれたことだけで俺はもう満足というか、救われた気がした。高校生活が。今までもこれからずっと先も。
「お~~い、好一さ~ん。戻ってこ~~~い!」
「あ、はい!好一さん今戻りました!!」
「????????」
「だ、違うんだ!怯えないで!!」

 俺は落ち着くために紅茶を一気飲みした。やや苦い。うん。いける。平常心。
 平常心の塊。

「・・・・で、えっと、じゃあ握手」
「はい!?急に握手ですか?」
「お、お友達の握手」
「わ、わかりました」
 握手は無事に終わった。何やってんだろう俺。

「で、なんでしたっけ?・・・・そうそう!帰宅部なんですよね!?」
 話は唐突に戻った。
「うん。あ、あれね?いま手芸部が絶滅の危機で部員募集中的な」
「いや、違くて」
 違うんだ。しかもなんか若干引かれた。

「どうして運動部の人でもないのに、あんなに速く走れたのかなって」
「・・・・・う~ん、必死だったから?」
「その、ボク専門家でも何でもないし、そもそも運動苦手なんですけど、そんなボクから見たってあんなに速く走る人見たことなくて。ライオン?とにかくそれぐらい速かったんです!」

 つまりこう言いたいのだ。
 人間はあんなに速く走れねーぞ、お前なんなんだ?と。

「見間違いだと思うよ。荻野さんもパニックになってたみたいだし。それに俺も必死に走ったからいつもより速かっただけで」
「そうかなー、なんか残像も見えそうな勢いだったけどなーー」
「いくらなんでもそれは盛りすぎじゃ」
「ま、いいです!とにかくカッコよかったって話ですので」
 いいのかよ。助かったけれど。
 ん?それだけなのか?俺がここに呼ばれた理由って。

 荻野さんに疑問の目を向けると、彼女はプハーッと美味しそうに紅茶を飲み干してから「あ、そうだった」と本題を思い出したかのように自分の頭をポカリと叩いた。
「こうして好一さんとボクは晴れてお友達になったわけですが」
「はぁ」
 改まってそう言われると酷い違和感だな。
「あ、先に言っておくとボク、好一さん以外にお友達いませんから」
「・・・そ、そうなんだ」
 あんなに早くお友達認定されたのだ。もっとお友達いる子だと思っていたけど。
「みんなボクを不思議ちゃん、不思議ちゃんって言って。ボクはその度に言うんですけどね、『ボクは正常だよマザーファッカー!!っ』て」

「・・・・・・・・ははは」
「最後のは冗談です」
「・・はは」

 てかなんだ。先にそういうこと言われるとなんだか脅迫くさいんだけど。やっぱりお友達はなしで、なんて今更言える空気じゃなくなっちゃうんだけども。
「それで、あの、お友達の好一さんに折り入ってお願いがあるんです」
 ほれ見ろ怪しい!やっぱりこういう系だよ!!
 そんなにモジモジしながら言われても俺はダマされないぞ!!
「や、やっぱり目をつむってて下さい!恥ずかしいです!!」
「・・・・な、なにを?」
「いいからあ!!」

 荻野さんは顔を真っ赤にして立ち上がり、無理やり俺の目を閉じさせた。
 なんでしょう?まさか愛の告白!!?それは猫を助けただけでは虫がよすぎる気もするし。それにさっきまでの荻野さんならまだしも、今の荻野さんに告白されてもやや承諾しかねるというか。何考えてんだ俺。いやしかしこのままキスをされるなんて可能性も。
「いいって言うまで目を閉じててくださいね?準備しますから!」
「じゅ、準備!?」
 なんの準備だよ!期待半分、不安半分だ。

「ま、まだですよ!?」
「・・はい」
 すげー気になるけど言われた通り目は閉じておこう。薄目もNGだ。
 うん?手芸部。ってことは衣装なんかも作ったり。

 ・・・・・・・・・まさか。
 着替えてるとか!?この狭い部室で!!?
 よし、薄目はOKにしよう。

「いいですよ」

 ビクッ!となる。タイミングがタイミングだし、それに耳元に後ろからボソッと言われた日にはもう。ん?なんで後ろから?
 俺は恐る恐る目を開けた。

「な、・・・なんすかこれ?」
 第一報告として荻野さんは制服のままだった。

 彼女は、ただ目の前のそれを俺に見せたかったのだ。

「ジャッジャ~~~ン!!どうですか?カッコいいでしょう!!?」
 その濃い青色のそれは。

「カッコいいって・・・・・・それ、ヒーローのスーツ?」

 荻野さんは満面の笑みで答えた。

「正解っ!!」

 やっぱりあれだ、不思議ちゃんだ。
+注意+
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