Extra chapter:「百合と流と神無の出会い II」
更新久しぶり過ぎてすいません。
楽しんで見てくれる幸いです。
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「誰だ?」
百合は突然現れた美少女に言った。
「はじめまして、桝山先輩。氷室水無と言います」
美少女もとい水無はペコっと頭を下げた。
「ああ…宜しく………で此処はどこなんだ?」
「意外と冷静ですね……桝山先輩」
「慌てても仕方ないからな」
それもそうですねと水無は言った後、「ここはですね、氷室総合警備事務所の一室ですよ」と答えた。
「氷室ってことは……氷室神無か!それに、あんたの苗字も…」
百合は驚きの表情を浮かべた。先刻の苦い記憶が蘇る。あの桁外れの強さ、氷室神無なら納得がいく。
「氷室神無はわたしの兄さんです。兄さんって……有名なんですか?」
「有名も何もこの業界で知らない奴はいないよ」
「そうなんですか…お父さんに報告しとこ」
水無は嬉しそうにそう言った。
水無と喋りながらも百合の脳内は覚醒していた。
百合の脳内では幾つかの疑問があった。
一つ目は、氷室神無といえば業界随一と名高い切れ者の一匹狼と聞いたことがある。なのに、なぜ自分の妹を見張りとして使っているのか。
二つ目は、氷室神無の目的である。
関東一の暴力団龍華家直系で第一組長候補の若頭である私を誘拐するなんて正気でやることじゃない。それに加え、関西一の暴力団虎咲家直系で第一組長候補の若頭のあいつとセットで誘拐するなんて、日本中の暴力団を敵にまわすようなものである。
他にも筋の通らない行動はいくつかある。
「おまえの兄貴は何を考えてやがるんだ?」
「さあ…?知りませんよ。私が兄さんに会いに事務所に行ったら誰もいなかったんで、声の聞こえたこの部屋に着ただけですし…」
「おまえ、何も事情を知らないのか?」
「知りませんよ」
「ならなんで私の名前を知ってるんだ?」
「自分が進学する学校の生徒会長の名前くらいは知ってますよ」
「な…なら手錠の鍵がどこにあるか探してくれないか?」
「断ります」
「な…」
「だって、兄さんがしたのでしょ。それ」
水無は百合の両手についている手錠を指差した。
「く…なら、氷室神無にこんな馬鹿な事をするのをやめさせろ」
「どうしてですか?」
「氷室神無は日本中の暴力団の敵となるぞ」
「大丈夫ですよ」
水無は微笑んだ。
「………」
百合は次の言葉が口から出なかった。それほど、水無の微笑みには力があった。
自分が悩んでいたことがまるで塵と感じる程の。
「兄さんは天才ですから」
水無はそう言って、また微笑んだ。
×―×
佐伯流は冷たい風が頬に当たるのを感じて目を覚ました。
周りを見渡してみると、どうやらここが屋上である事がわかる。
立ち上がろうとすると右手と水道管のパイプが手錠によって繋がれていたので叶わなかった。
「鳩尾の辺りが痛いな…」
呟きとともに手錠によって繋がれていない左手でYシャツを捲ってみると拳サイズの痣が出来ていた。
結構、派手にやらかしてくれてるなあの男の人と流は思った。
それに、彼女はどうなってるんだろう…。僕が勝てなかった相手に勝てるわけないから、別の所で監禁されてるだろうな。助けに行きたいけど、この状況じゃ拙いな。
左手で自分の服を物色したが手錠を外すのに役立ちそうなものは見つからなかった。
「困ったな…強行手段しかないか…」
流は手錠をパイプに思いっきりぶつけてみた。ガシャンと大きな音こそ出たが、手錠は一切傷つかなかった。
「うわー、無駄に硬く出来てる…」
悲嘆にくれていると、屋上唯一の扉から階段を上る音が聞こえてきた。
誰か来る!
けれども、警戒することも抵抗することも出来そうにない、成り行きを見守るしかない。
流はふーっとため息を吐いた。
屋上の扉は突っ掛かりながら、開いた。現れたのは、20代前半くらいの優男である。手にはコンビ二袋と何かの書類を持っていた。
「おお、目が覚めたみたいだな?」
「お蔭様でね」
流は男は睨み付けた。しかし、男はそれに怯えることもなく殺気を流に送る事もなかった。
「これ、飯だ」
男はコンビ二の袋を流に渡した。中身はおにぎりが2つにミネラルウォーターが1本が入っていた。流はミネラルウォーターのボトルを掴み、左手のみでキャップを回し難なく口に含んだ。そして、おにぎりも左手んみで開封し、貪るように食べた。
流は一服すると、タバコを吹かし一服している男に、「状況を説明していただけますか?」と訊いた。
男は銜えていたタバコを名残惜しそうに口から離し、フーっと一息吐いた。
「状況は佐伯流と桝山百合が俺に拘束されている」
彼女もやはり捕まっていたか…。
「貴方は誰ですか?そして、目的は?」
男はタバコの先の灰を屋上に落とした。そして、男は革靴で踏んだ。
「俺は氷室神無。目的は言う気がない」
「氷室神無って、あの氷室神無ですか?」
相手があの氷室神無なら自分がやられたのも納得がいく。この人が敵だとしたら無駄だな…。
「俺の噂は知らないが、俺が氷室神無だ。他に質問は?」
神無のタバコを持つ手は震えていた。早く吸いたいらしい。
「彼女はどうなりました?」
「1階の物置」
「やっぱり、捕らえられてたか…。彼女はどうしてます?」
「気になるならみてこようか?そろそろ、忙しくなるし…」
「忙しくですか?」
「そうだよ」
神無はどこからか無線機を取り出した。スイッチをオンにすると…
『百合お嬢様はどこだ!』『流の兄貴は…』『百合の姉貴は…』『流の若頭は』『百合の若頭は…』『流様どこだ!』と聞こえた。
「パニックだね…。氷室さんは一体何がしたいの?」
「秘密だね。それに、ここまでは計画通り…」
そんな呟きとパトカーのサイレン、無線機からの声、屋上への階段を上る音が流の耳に響いていた。
執筆をここ最近していなかったので、頑張っていきたいと思います。