Extra chapter:「神無と琴乃の出会い」
「で、貴方は主の警備をしてくれるんですか?」
いかにも、ボディーガードをしていそうな体のごつい男を言った。実際その男は大物代議士である栢山清の専属ボディーガードである。
「だから、料金によりますと…」
神無は一応遠慮した感じに答える。
神無はボーディーガードや警備などを扱う事務所で働いている。偶にこういう規則の分からない奴が来るが、事務所じたいは結構繁盛している。
「だから、主は成功したならば幾らでも出すとおっしゃっている」
「前金は?」
「ない」
「なら、無理」
神無はあっさりと言い切る。
「いい加減にしろよ。こっちが頼んでいるうちに引き受けやがれ」
男は急に逆ギレをして、神無の胸倉を掴んだ。神無は抵抗せず男に持ち上げられた。
「ですから…」
神無は首が絞まりながらも答える。
「引き受けるか、受けないのか。どっちだ?」
男は胸倉を掴んでいる手の力を強くする。
「受けません」
神無は無表情にて、答える。
男はわなわなと震え始めた。そして、腰のベルトに差してあった拳銃を神無の頭に向けた。
「ラストチャンスだ。引き受けるのか?」
男は拳銃を強く頭に押し付ける。
「………」
神無は目を瞑る。
「おい、聞いてんのか?」
男が喋るリ終わった瞬間、神無は目を開眼させ、右手で男の腕を絡めるように関節を決めて、左手で男の拳銃を叩き落した。
そして、絡めている腕をそのまま捻り、男を床に叩き付ける。神無はゆっくりと自分のナイフを取り出し、男の背中にくっつけるようにして、構える。
「調子に乗るなよ…」
低い声で神無が言うと。
「ヒィィィ―――」
男はさっきの態度とは裏腹にびびった声を響かせた。
おもしろいなと思い、何度か繰り返していると。
「手を挙げてください」
と女性の声がした。
神無はあれっと思いながら周りを見渡すと、扉の前で金髪の美人が拳銃を震えながら構えていた。
これが、神代琴乃とのファーストコンタクトである。
神無は女性の拳銃を構える姿を見て、微笑んだ。
「何がおかしいんですか?」
先ほどからの震えは止まり、キッチリ銃口を神無に向けている女性は言った。
「別に…。君、名前は?」
「秘書の神代琴乃ですけど…」
神無はやっぱりかという表情を見せた。
「その拳銃。安全装置が解除されてないよ」
と神無が言うと。
琴乃は嘘という表情で拳銃をあちこちをいじり始めた。
その間に神無は、男の首に手刀を叩き込み、気絶させた。
そして、男から叩き落した拳銃を拾い。
琴乃の方に銃口を向けた。
その事に気づかず、拳銃いじっている琴乃に、「琴乃さん。前を向いて」と言った。
そう言うと琴乃は前を向いた。
あ!と表情を見せた後、拳銃を床に置き、両手を挙げた。
「貴方、ずるいわよ」
「まあ、怪我をせずにすむからいいじゃない」
「今まさに怪我をしそうですけどね」
「そういう意味じゃなくて…」
「どういうことですか?」
「その拳銃を渡された時、決して撃ってはならないって言われなかった?」
「言われましたけど…。拳銃は撃ってはいけない物だから当たり前では…」
「そういう意味じゃないよ。俺の持っているこの銃の銃口を見てごらん」
琴乃はそう言われて渋々、銃口を見た。特に変な所ななかった。
「これがどうかしたんですか?」
「床に置いた銃を拾ってごらん。決して撃ってはダメだよ。死ぬのは俺じゃなく琴乃さんだからね」
そう言われて、琴乃は首を傾げながら銃を拾った。先ほどの感じからして、銃口が重要なのだろうと思い銃口を覘くと。
「何かつめてある…」
琴乃は先程見してもらったのとは別な事を感じた。
「多分、鉛だね」
「鉛?何のために?あ………」
「わかったようだね。撃つと暴発させるためだよ」
「じゃあ、もし撃ってたら死んだのは私…」
「そうだね」
「でも、何の為に?」
「簡単な事だよ。栢山清は拳銃の密売をしているって事だよ」
「………は?」
「言われた事の守る、手駒が欲しかったって事だよ」
「成る程ね」
「この男と一緒に帰ってよ」
神無は男の頭を靴で踏み、男を気絶から無理やり目覚めさせた。まだ、完全に意識が覚醒してないようなので、少しの間放置決定である。
「わかりました。そういえば、貴方の名前を聞いてませんでした」
「神無」
「かんな?」
「神様の神に有無の無で神無」
「苗字は?」
「ここの事務所と同じ」
「貴方が氷室さん?」
「そう。宜しくね、琴乃さん」
神無はニコッと微笑んだ。琴乃は顔を紅めた。
こうして二人は出会った。
二人が付き合い始めたのはこの少し先の事である。
日常編はあと一話ありますが、後日投稿します。
投稿時には一話から五話を改稿すると思うのでそちらも改めて見てくれると幸いです。