どちらの謎から解くべきか
三日も遅れて申し訳有りませんでした(><)
今回の話は2部投稿で、まずは達也が思った事を投稿します!
目の前の原稿を丁寧に揃えると、俺はこの原稿で感じたことを、或いは犯人を告げたのだった。
さて、まずはどちらの謎から解くべきか。
そうゆう風に言えば俺の友達は「何の話か」と疑問に思うことだろう。
犯人は誰か、それを考えて欲しかっただけにも関わらず、コイツは何を言ってるのだろうか?と。
そう思うことは、普通の人間として当然のことだろう。
前置きはこの辺にして、まずはなぜ俺にこの話を持ってきたかについてだ。
俺の友達はこの学校に、とある部活動に入ることを目的に入学した。その部活動とはミステリーサークルだ。
だが、後に「ただの趣味で集まってる部活動」だったことを教えてくれた。
つまり、本気で入った部活に実質中身の無い活動だったわけだ。だから「ただの趣味」と揶揄した表現を使った。
無論先輩方も趣味として活動しているだけあって、多少なりとも推理力はあったと思う。
そしてある日、その部活動で普段以上の揉め事が起きた。或いは、俺の友達がついに不満を爆発させたと言うべきか。
曰く「俺の小説はつまらないらしい」だったか。この「つまらない」は『簡単に犯人がわかる事』じゃなく、そもそも本当に『文章として、小説として面白くなかった』のではないか?
だから推理力は二の次だった。難易度をあげるのはポリシーだかプライドだかが許さないのではなく、文章力の低下を恐れていたからだ。
それ故に、その部活目当てで入ったにも関わらずフェアさもヴァン▪ダインも無視した作品になったのだろう。本人には謎の感想ではなく、謎に入る前の感想ばかりで中身を見てもらえなかったから。
そして次の疑問。先輩たちの推理は登場人物をノックスを逆手に取って絞り込み、そして明確な証拠がないから解けなかったと言った。
この文章量なら読解力が無くても紙とペンさえあれば犯人を特定するのはそう難しくない。犯人が誰かは後で話すとして、今気になるのはなぜ先輩達の鼻を明かそうとしていたにも関わらず、もう一つの解答を持たずに先に先輩達に話を聞いているかという点だ。
既に話を聞いているなら、俺の推理は必要無いのではないか?
そう思った時に一つの仮説が生まれた。逆だったのではないか?と。
つまり、先に先輩達から話を聞いた結果、俺に聞く必要が出てきたのではないか?
その理由はなぜか? この小説、叙述トリックが使われていて斜め読みした程度なら見落としていただろう。
だが、曲がりなりにも先輩達はミステリーサークルに所属しており、推理は得意だったはずだ。にも関わらず「明確な証拠がないから分からない」などと言うことが有り得るのだろうか?
「聞かせて欲しいんだが、先輩方は…」
「あぁ、想像通りさ。悪い方の趣味程度だった」
「……そうか」
趣味をする人間には大まかに分けて2通り居る。
その趣味に本気で挑む者と、趣味と割り切って遊び程度に楽しむ者。
今回俺の友達は前者で、先輩は明らかに後者だった。そのことは、その部を目当てにしながら「ただの趣味」と断言していることからも明らかだ。
「だからお前は最後に一筆して、先輩達の鼻を明かそうとした。その部活をやめる為の覚悟を見せるために」
1度しか読んだことがないから確証は持てていないが、割と犯人が分かり易い書き方をしているのは本人も言っていたので間違いないだろう。
だが今回は容疑者の数こそ少なかったが、分かり易かった今までとは明らかに書き方が違ったはずだ。
それは先輩達の言う「つまらない小説」ではなかった筈だ。
その渾身の果たし状は、しかし結局評価されなかった。
今回の中身は、難易度が難し過ぎた。俺の言った難易度を上げる程度で良かったはずの中身を、叙述トリックと言う普段の人間があまり見ないものを使った。
ノックスの十戒やヴァン▪ダインの20則は恐らくミステリーに触れていた故に知ったか、俺の友達から聞いたかしたのだろう。
だが叙述トリックには触れていなかった。故に先輩達は「状況証拠」ではなく「物的証拠」がない故に犯人を特定しなかった……いや、出来なかった。
だから俺の友達はこの解かれなかった謎を、渾身の作品を、誰かに解いて欲しかった。
ただ眠らせるには、惜しかったから。
「だから、俺に解かせたんだろ? お前の作品の、お前すら気付かなかった別解に気付いた俺に……」
俺の友達は、肩を落として軽く手を叩いた。お見事、と言う事だろう。
「まさか俺がお前に原稿渡した程度でそこまで見抜かれるとは、将来探偵か警察にでもなった方が良いんじゃねぇか?」
「俺は、自分の休みが無くなった腹癒せをしただけだ」
「じゃぁ、俺の原稿の推理はしてないって言うことか?」
「最初に言ったろ。どっちの謎から解くかって」
俺は不敵な笑みを浮かべて、俺の友達は安堵の笑みを浮かべて原稿に目を落とした。