ヴァンディットストーリーエンディングB
やっぱり・・・そんなこと、できない。今までずっと、ずっと頑張ってきたんだもの・・・
それに・・・これまで私を剣士として育ててくれたランスロットに・・・申し訳ない・・・
ランスロットのことだから、行くなとは言わないし、私の意志を尊重するつもりなんだろう。
だけどそれだけに一層、騎士の道を諦めたら会わせる顔がない気がした。
・・・ヴァン・・・・
『イレイン、俺は・・・』
あの中庭で言いかけた彼の言葉を、表情を私は思い出す。
けれどもう、その続きを聞くことはできない。
「っく・・・ヴァン・・・・」
目が熱い。胸が熱い。涙が・・・止まらない。
・・・ほんとうは・・・ずっと一緒に・・・ずっと一緒に、いたかったよ・・・
今まで厳しい訓練で泣いたときもあった。戦いで大怪我をしたときもあった。
それでもこれほど、苦しいことって・・・なかったように思う。
『俺のこと、忘れんなよ?』
ヴァンのあのときの笑顔。忘れない。忘れるはずなんかない。だって・・・
初めて、心の底から好きになった人だから・・・
私・・・忘れないよ。ヴァン・・・ヴァンにまた会える日まで・・・
この気持ちは、大事にとっておくから・・・
私は思い切って双剣を手に立ち上がり、躊躇する想いを断ち切るように、
先に歩いていった師匠のあとを追う。
心の中はいまだに悲しみで一杯だったけど・・・
それでも、振り返ることなんかできなかった。
数ヵ月後。
「やあっ!!たああっ!!」
いつもの稽古場で、私は一本の木を相手に剣を振るっていた。
「・・・はあ・・・はあ・・・」
これじゃダメだ、まだまだ・・・
息を切らしながら、自らを叱咤する。
これではまだまだ、ランスロットに追いつけそうにない。
もっと、もっと強くなりたいのに・・・
唇をかみしめたちょうどそのとき。
「!!??」
私は咄嗟に振り向き、剣を構える。そのさきに立っていたのは―
え・・・
「全く、さすがはあいつの弟子だけある。
悪いくせもそのまんま受け継いじまって・・・それじゃああいつの二の舞だぞ」
「ヴァ・・・・ヴァンっ!?」
何故か王宮騎士団の制服を着た、ヴァンディットだった。
「・・・どう・・・して・・・」
再会の喜びよりも、驚きのほうが先に立つ。ヴァンディットは困ったように頭を掻いた。
「・・・どうしてなんだろうなあ・・・。俺にもよくわからねえや」
「・・・・・・・・・」
沈黙する私に、ヴァンディットは近づいた。
見上げると、優しい、あの笑みを浮かべてくれる。
「・・・どこをほっつき歩いてたって、お前さんのことばかり頭に浮かぶようじゃ、
放浪の旅も楽しかねえ・・・」
「・・・ヴァ・・・ン・・・」
名前を呼ぶととび色の瞳が、甘く私を見つめた。自然に胸が高鳴る。
押し込めていた想いが、今にもあふれだしそうだった。
ヴァンディットは指で、私の目じりをそっと拭う。
知らぬ間に私は、泣いていたらしい。
「ああ・・・この顔だ。俺の頭からずっと離れねえ・・・お前さんの泣き顔・・・。
でも、実物はちょっと老けたか?」
「・・・馬鹿っ!!ヴァンの馬鹿!!」
私は思わず、彼の首に抱きついていた。
こんなときにまでからかい顔の彼が、たまらなく憎たらしくて、愛おしい。
「・・・イレイン・・・」
ヴァンディットはしっかりと私を受け止めて、耳元に囁いた。
背中に回された彼の腕が熱くて、私の胸をより騒がせる。
「会いたかった・・・ずっと、会いたかったの・・・」
言葉を考えるまもなく、本音が私の唇をついて出る。
ヴァンディットは笑って、私の髪を大事そうに撫でた。
「ああ・・・俺もだ・・・
自由でいられねえよりも、お前さんの顔を見られないほうが、余程つれえよ。
つらすぎて、トンボ帰りしちまった」
「ヴァン・・・」
「お前さんはすげえよ。俺のこと・・・縛り付けちまうんだからなあ・・・」
「え・・・?」
その言葉に私は目を見開く。
縛りつけ・・・って・・・ヴァン・・・?・・・それじゃあ・・・もしかして・・・
「これからは・・・そばに・・・いられるの?」
ヴァンディットが微笑んでうなずいた。
「・・・お前さんには、負けたよ。これからは、どうあっても離れられそうにねえ」
「ヴァン・・・・・・!!」
胸にこみあげるこの感情を、なんていったらいいんだろう。
何もかも初めてのことで、よくわからない。けれど・・・
「イレイン・・・お前さんは・・・俺と一緒に・・・いてくれる、か?」
彼らしくない、どことなく歯切れの悪い口調。
おずおずと尋ねるヴァンディットに、私はうなずいてみせた。
涙がまたひとつ、頬をつたう・・・。
「もちろんだよ・・・だって・・・私、ヴァンのこと・・・好きだから・・・」
「イレイン・・・・・」
ヴァンディットの腕が、ぐいっと私を引き寄せる。彼の顔が、ゆっくりと近づく・・・
「ヴァ・・・んぅっ・・・」
あ、と思ったときには、唇をふさがれていた。
信じられないほど間近に、ヴァンディットの閉じた瞼がある。
・・・ヴァン・・・
その、柔らかくて、熱い唇。
初めての口付け。ドキドキが止まらない。心臓はもう破裂しそうだ。
ぎこちなく目を閉じて彼のキスを受けるとヴァンディットはふと唇を離し、
私を改めて胸の中に抱きこんだ。
「いやあ・・・ほっとしたぜ。これでふられちまったら、王宮騎士に戻った意味がねえ」
王宮騎士・・・って・・・そうだ、確か婚約式のときに・・・
王宮騎士団に戻らないかとエクターに聞かれていた。
「じゃ、じゃあ・・・ヴァン・・・」
「ああ。俺も今日から晴れて王宮騎士団の一員だ。よろしくな、イレイン」
ヴァンディットが満面の笑みを浮かべる。
「で、でも、王宮は嫌ってたんじゃ・・・?」
「ああ。確かにな。だけど逃げてばかりじゃ、なんも始まらねえ。
あいつに文句言うだけじゃなく、自分で動かねえとなぁ」
「ヴァン・・・」
「ま、時間はかかりそうだが?ぼちぼちやるさ。
お前さんも一緒に・・・いてくれることだしな・・・」
「・・・ヴァン・・・。うん・・・・」
私がうなずくと、ヴァンディットは私の腰に手を回す。
「・・・イレイン・・・」
「・・・あ・・・」
名前をつぶやかれて反射的に目を閉じると、再度・・・あの暖かいぬくもりが、
私の唇を覆った。
ヴァンディットはあわせた唇はそのままに、私の体をぎゅうっと強く抱きしめる。
ヴァン・・・
なんていったらいいんだろう、満ち足りた気持ちが止まらない。
嬉しくて嬉しくて、泣きそうで。
ヴァンディットの腕の中でただ彼を感じていると、彼は一旦唇を離して、
それから何度も何度もキスを繰り返す。
「イレイン・・・っ・・・」
「んっ・・・ヴァン・・・っ」
う・・・嬉しいけど・・・でも・・・
「ね・・・ねえ・・・んっっ・・・だ、誰かに見られたら・・・」
「・・・誰もこねえところだから、稽古場に選んだんだろ?あいつもやらしいよなぁ」
「ランスロットはそんなじゃ・・・んんっ・・・」
抗議も含め師匠の名前を口にした途端、ヴァンディットに勢いよく唇を塞がれる。
彼は驚く私に唇を離して、いささか不服そうに囁いた。
「今あいつの名前出すな。・・・妬けんだろ」
・・・話題出したのはヴァンなのに・・・もう・・・
思わず彼を睨んだら、ヴァンディットは軽く私の頬にまた口付けをして、今度は優しく、
そうっと抱いてくれる。
「・・・好きだぜ。イレイン・・・。これからはずっと、一緒だ・・・」
その甘い声。まるで体中が蕩けそうだった。
こんなにしあわせな気持ちを、私は今まで感じたこともない。
言葉につまって、ただただ何もいえなくて、私はかろうじてうなずいた。
私も・・・大好き、大好きだよ・・・ヴァン・・・
少しでも言葉にならない気持ちを伝えたくて、今度は自分から、
ヴァンディットの唇に触れる。
彼が嬉しそうにそれに応えて、私たちはもう一度、お互いのぬくもりを
深く深く重ね合わせた。
やっとつながったふたりの想い、この想いが二度と、離れることのないように・・・・・。
End




