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ヴァンディットストーリーエンディングA

翌日の早朝。

「イレイン・・・」

朝もやの中、王都の門へ歩いてきたヴァンディットは、私を見て驚いたように

立ち止まった。

とび色の瞳が、私を茫然と見つめている。

「ヴァン、私、私・・・」

「・・・・・・・」

心臓が鼓動を早めて、手が震える。

自分の気持ちを言うだけなのに、どうしてこんなに緊張するんだろう。

でも、言わなくちゃ・・・!

「は、離れたく・・・ないよ・・・。ヴァンと、ヴァンと一緒にいたい」

「っ・・・イレイン・・・」

ヴァンディットははっとしたように私に一歩近づこうとして・・・やめた。

「お前さんは・・・騎士団の仕事があるだろう。クレールに残って、もっと腕を磨け」

懸命に冷静さを取り戻そうとしているような、そんな口調だった。

私は首を振る。

「やだよ・・・やだ・・・」

「お前さん、なあ・・・」

ヴァンディットはため息をついた。

「・・・俺がお前さんさらっちまったら・・・お師匠様に滅多斬りに

されちまうだろうが・・・」

「え・・・」

・・・ランスロット、が?

予想外の答えだった。目を丸くする私に、ヴァンディットは笑ってみせる。

「かわいいかわいい一番弟子なんだよ。お前さんは。あいつの傍に、いてやってくれ」

・・・ヴァン・・・

「・・・それに、お前さんは今まで、騎士になるために頑張ってきたんだろう」

「・・・・・・」

「・・・ここでそれをふいにしちゃあ・・・あいつだって浮かばれねえ」

「あ・・・・」

・・・あいつって・・・ランスロットのこと、だよね・・・。

そうだ、私だけじゃない、騎士になれたのはランスロットのおかげで・・・

途端に罪悪感が胸を広がる。私は、自分のことしか考えてなかった。

「・・・俺みたいな奴のために、お前さんがそこまで、するこたねえよ」

ヴァンディットは自らの荷物を背負いなおす。何も言えずうつむく私。

・・・ヴァンが・・・行っちゃう・・・・・・早く引き止めないと・・・でも・・・・

彼が門のほうへ歩き出そうとする。

だけど私の足は、焦る気持ちとは裏腹に・・・全く動かない。

私をこれまで育ててくれたランスロットや、それだけじゃない、支えてくれた人たちの

ことを思うと・・・どうしても、手も足も、動かなかった。

でも・・・やだよ・・・行って欲しくない・・・嫌だ・・・ヴァン・・・嫌だ・・・

目頭が熱くなって、涙がこぼれそうになる。

ヴァンディットの背中が・・・どんどん、遠くなる・・・・。

ヴァン・・・

そのとき・・・。背後から聞きなれた声が響いた。

「・・・それで私に気を使っているつもりなのか、ヴァンディット」

この声は・・・

え・・・ランスロット!?

振り返ると当のランスロットが立っている。

彼は私の後ろにいるヴァンディットを見つめながら、口を開いた。

「余計な気遣いは、無用だ」

目を見開いたヴァンディットに、ランスロットはきっぱりと言い放つ。

「おいおい・・・」

「イレインがどこにいるべきかは・・・私が決めることではない。

彼女自身が、決めることだ」

ランスロット・・・

思わずランスロットを見つめると、彼は優しい目で私の頭を軽く撫で、

そのままマントを翻して去っていった。

きっと、ランスロットも葛藤があったはずだ。

だけど・・・自分の気持ちは言わずに、私の背中を押してくれた。

・・・ランスロット・・・・・・・・。・・・・・ありがとう・・・ごめんなさい・・・

私は彼の後姿に、目を閉じて謝罪する。

同時に寂しさも襲ってきて、私は胸元をきゅっと握りしめた。

「・・・まったく・・・しゃあねえな・・・」

「ヴァン・・・」

ヴァンディットのほうを向くと、彼は困ったように頭を掻いている。

・・・もしかして、迷惑だった・・・とか・・?

そういえば、私・・・ヴァンの気持ち・・・聞いてないし・・・

急に不安な気持ちに襲われて、私はおずおずと切り出す。

「・・・ヴァン、その・・・無理には・・・」

「だーれが無理だなんて言った」

「・・・え・・・?」

「・・・あ・・・あの・・・、ヴァン・・・?」

「・・・俺は・・・。俺は・・・・・・こんな生き方しかできねえ。

あっちこっちふらふらして・・・」

「ヴァン・・・」

「そんでもお前さん・・・・ついてきてくれるってのか。

こんな俺に、いつまでもついてきてくれるってのか・・・」

そんなことは、百も承知だった。どこかしら切なげな瞳の彼に、私は勢いよくうなずく。

「・・・ついてく。どこまでもついてく。ヴァンが嫌だっていっても、

どこまでだって・・・っあ・・・!」

ふいに抱きしめられて、言葉が途切れた。ヴァンディットの力強い腕が、私を捕える。

目の前には彼の広い肩があって・・・私は自身を覆う暖かいぬくもりに、目を閉じた。

「ありがとな・・・イレイン・・・」

耳元で、彼の低い声が聞こえる。いつもより柔らかくて、そしてなんだか甘い声音。

・・・そうだ、この声・・・ヴァンの声、それからあったかい腕・・・

私は・・・離したくないって、思ったんだ・・・

「・・・ヴァン・・・好き。私、ヴァンのこと・・・好きだよ」

自然に言葉が出ていた。ヴァンディットが私をちょっとだけ放して、本当に嬉しそうに微笑む。

「ああ、俺も・・・好きだ。イレイン。

どうしようもなく・・・お前さんのことが・・・」

「ヴァン・・・」

ヴァンディットは私の頬を、壊れ物でも扱うようにその大きな掌で包み込んだ。

その暖かさに目を閉じる瞬間・・・彼の顔がゆっくりと近づく・・・

あ・・・・・・

朝のひんやりした空気の中、触れ合った唇だけがすごく熱くて、でも、心地よくて。

私は頬を包むヴァンディットの手の甲にそっと手を触れた。

どこまでも・・・何があっても・・・ずっとずっとついていく。

その強い誓いを、改めて胸にこめて。


End


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