アオムシとりんごの国
香月 風香 です。
連続で投稿します。
よろしくお願いいたします。
あるところにりんごの国がありました。りんごの国はそれはそれはあまく純粋な国でした。
なので、その国の住民もまた恐ろしく純粋で、人を疑うことを知りませんでした。そして、りんごの国の中で起こることが、この国の人々の全てでした。
そんなある日のことです。突然、空(といっても白い天井の方が近い表現かもしれませんが)に穴が空き、そこからアオムシが出てきました。
金色の蜜と白いりんごの世界しか知らないりんごの国の人々は、大変驚きましたが、恐怖や怒りといった負の感情に疎い人々は、恐れるどころか、アオムシに興味津々です。
アオムシも、りんごの中に甘い香りのする、蜂蜜色の綺麗な人々の住む国があることに驚きました。りんごの中に住む人々ですから、体格もアオムシよりも一回りほど小さいです。
そして、立派な蝶になるため、食べ盛りのアオムシには、その住民達はとても美味しそうに見えました。
りんごの国の人々と話しをしたアオムシは、この国の人々が外の世界を全く知らない事に気づきます。なにせ、太陽や月が有ることも、自分達が住んでいる「りんご」が外から見ると赤い、ということすら、知らなかったのですから。
そこでアオムシは、とても良い考えを思いつきます。
この国の人々はとても美味しそうですが、一度には食べきれません。なので、何人かを外に呼び出し、少しずつ食べようと思ったのです。
アオムシは、何も知らない、りんごの国の住民に、この国よりも素晴らしい国がある、という、嘘の話しをしました。そして、そこまで自分が案内する、と言いました。
純粋で、人を疑うことを知らない住民達は、とても喜びました。そして、騙されているとも知らず、アオムシの事をとても良い人だと褒め称えました。
アオムシは、りんごの国の住民を連れて国の外に出ると、一緒に出てきた住民をあっという間に食べてしまいました。そして、お腹がすくと、りんごの国に戻り、また美しい住民を連れ出して食べる、という生活を繰り返しました。
りんごの国の住民は、この国よりも素晴らしい国が有るというアオムシの嘘に、いつまでたっても気がつきません。
日を追うごとに、少しずつ、りんごの国の住民は減って行き、とうとう、最後の五人となりました。
最後の五人になってしまったというのに、住民はなおも、アオムシを褒め称えます。
あまりに、人を疑わないりんごの国の住民に、アオムシは言いました。
「君たちは本当に、優しいね。
優しくて、純粋で、美しく、美味しい。
きっと、この不思議なりんごに守られて、何も不自由無く過ごして来たんだろうね。
醜くて、弱くて、生まれたときから一人ぼっちで、大きな鳥達に狙われてる僕とは大違いだ。
だけど、僕は全然、羨ましくないよ。
確かに、僕の生活は君たちよりも危険な事も多いよ。でも、その代わりに、君たちよりもたくさんの事を知っているからね!
君たちと出会って、僕の知っている事は綺麗なことばかりではないけれど、それも大切な事だとわかったから。
鳥達が、僕を食べようとしている事を知っているからこそ、僕の体が、緑の葉と同じだと知っているからこそ、葉に紛れて身を守る事ができるようにね。
そして、君たちも、もしも、疑うことを知っていたならば、きっと僕にみんな食べられてしまう、なんて事にはならなかったかもしれないね。」
そう言ってアオムシは、最後の五人のりんごの国の住民を食べてしまいました。
アオムシの言葉を聞いたりんごの国の住民はもう居ません。
なので、りんごの国の住民が最後にアオムシのことをどう思ったかは分かりません。
しかし、りんごの国の住民を食べて、しっかり栄養を身に付けたアオムシは、サナギになり、寒い冬を耐え、立派な美しい蝶に成りましたとさ。
おわり
読んで頂きありがとうございました。