死への旅路
加害者よ。お前に、被害者の気持ちが解るか?
仮想現実
そこは、死を体験できる場所。死を、味あわせる事の出来る場所。
ここでなら、何度でも、何度でも殺す事が出来る。ここでなら、殺しても完全には死なない。
精神を殺しても、肉体は殺さ無いから。精神が死んでも、肉体は生きているから。
加害者「殺すつもりはなかった」
???「なら、試してみる?」
加害者「はあ?」
???「え〜と君は、高いところから相手を突き落としたのだったね? 君の言い分だと、突き落とされても相手が死なないと思ったからやった。実際にやってみようか。君が、自分で」
加害者「俺に死ねって言うんですか」
???「何言ってるのかな? 君が殺すつもりはなかったと言ったんだろ? なら、君は死なない。怪我はするだろうが、死なない。さっ、やろうか!」
加害者は、目と耳を塞がれ、手を縛られて移動させられた。
途中、案内する人間に文句を付けた所、猿ぐつわを追加され、話せなくなった。
???「高さは、こんなところかな?」
目的の場所に着いたのか、案内していた人間が立ち止まった
その後、加害者は塞がれた目と耳が自由になり、猿ぐつわが外され手の拘束も解かれた。
加害者「ここは」
???「君が相手を突き落とした場所だよ。さあ、そこから飛び降りてくれ」
加害者「ふざけんな。あんたは何がしたいんだ」
???「君に、被害者の気持ちを味わって欲しいんだ。最高だろ」
加害者「どこが」
???「何で? 君が、そこから飛び降りる事で、君の主張が正しいと証明されるんだよ。君に良いことだらけだろ?」
加害者は動かない。
自分が他人にした事と
同じ事をするだけなのに
???「もし、君が飛べないと言うのなら、私が押してあげるよ」
???は、加害者に近付いた。加害者は、落とされてたまるか、と必死に抵抗した。
しかし、???は加害者より力が強く、逆らう事が出来ない。
???「私は、君より力はある。君と、落とされた相手との差と同じくらい」
???は、力を強めた。加害者の上半身が、手すりの上にのる。
???「さあ、準備はいいかい? 死なない事を証明してくれ」
加害者の足が浮いた。
加害者「嫌だ! 死にたくない! 謝る、あれは嘘だったって!」
???「そうなのかい?」
???の力が弱まった。それを、好機とみなしたのか、加害者が???の顔を殴った。
???は、のけ反る事も動く事も無かった。
何故なら
加害者「痛ってぇぇー!手が、手が!!」
負傷したのは加害者だったから。
???「君〜、駄目だろう。私はこう見えて一応公務員なんだから。そんな事したら、公務執行妨害が刑に加わってしまうよ。それでもいいのかい?」
加害者「死ぬよりましだ!」
???「それもそうだね」
???は加害者の意見に納得し、頷いた。
しかし
???「だけど、君がここから飛び下りてくれないと、君の主張は受理されず、君の罪は重くなる。本当に、それでいいのかい?」
加害者「いい!! それでいいから早く下に降ろしてくれ!」
???「分かったよ。君を下に降ろそう」
加害者は安堵した。しかし、次の瞬間
???「さようなら、加害者くん」
???は、興味を失なった声を加害者にかけ、手すりから下に落とした。
一切の躊躇もなく。
加害者「あっ? あああぁぁ!!」
加害者は突然落とされた為、反応が遅れた。
呆然とした表情の後、驚きの表情で、何もせずに落ちていく。
せめて、頭をかばうなりすれば、結果は変わっただろうが。
加害者は、頭から落ち、死んだ。
???「あー、死んじゃったかー。生き残ると思ったんだけどな~彼。残念だ」
???は、死んだ加害者を見て、実験の失敗を嘆いた。
加害者「……ああぁぁ! うっ!」
加害者は、一瞬の痛みの後、意識を失った。
その後、意識を取り戻した場所は。
加害者「こ、ここは。何処だ?」
何も見えない世界。何も聞こえない世界。何も臭いがしない世界。
しかし、一つだけ確かな感覚のある真っ黒な世界が、加害者の傍らには存在した。
その感覚とは
加害者「うっ、痛って~」
痛みだ。加害者は、自分の頭を触った。とても頭が痛い。特に、後頭部が。
加害者は、前頭部から後頭部へ手を移動させ、気付いた。
後頭部が無い事に。
加害者「はぁぁああ?!」
正確には、落ちた衝撃で頭蓋骨が砕け、後頭部が陥没しているだけである。
まあ、それでも、加害者にとっては、一大事だ。
加害者「俺、もしかして、死んだ?」
この場で答える者はいない。だが、加害者には見えず、聞こえない所で、???は返答する。
???「生きてるよ~。君の身体はまだ呼吸してるよ~」
呑気なものである。???に加害者の事を気遣う様子は全く無い。
加害者「嘘だろ……。誰かー! 誰かいないのか!」
誰かー。……。
誰かー。……。
いないのかー。……。
いくら叫んでも、その場で答える者はなく、むなしくなるだけ。
???「いや~、こっちの実験はどうなるかな~。死ぬかな、生き残るかな? どう思う、フランケン君」
???「所長、私はフランケンではありません。そんなことより、早く次の実験の準備をして下さい」
???「お堅いな~、助手君は。そんなんだと、もてないよ」
???「余計なお世話です」
この間も、加害者は叫び続けた。
加害者「誰かー! 誰かー!」
その後も、叫び続けて一時間。
突然、加害者を眠気が襲う。
加害者「駄目だ。寝たら、死ぬ気がする」
加害者は、まだ自分が死んだとは考えていなかったらしい。
必死に眠気と戦う。
しかし
???「早く寝て下さい。あちらで所長が待っています」
助手に眠気を強められ、加害者は眠りに落ちた。
???「こちら助手。被験者がそちらへ行きました。準備して下さい」
???「オーケー。私の準備はいつでもばっちりさ!」
???「不安です」
???「起きたまえ。取り調べの最中に寝るなど、ふざけているのか、君は?」
加害者「……はっ?」
覚めないと思っていた眠りから目覚めた加害者が見たのは、自分が人を突き落とした場所ではなく、取り調べを受けていた部屋だった。
???「聞いているのか。君は何故、人を突き落としたんだ?」
加害者は、状況が良く分からなかったが、質問には答えた。
加害者「相手と、トラブルを起こした」
あれは、全部夢だったのか?
???「あんな高さから落として、相手を殺すつもりだったのか?」
加害者「殺すつもりはなかった」
言ってしまってから気付いた。だけど、
???「そうか。なら、試してみる?」
もう遅かった。一回目とほとんど同じ流れで連れて行かれ、同じように落とされた。
しかし
加害者は死ななかった。落とされるかも知れないと、ずっと考えていた事により、頭から落ちる事はなく、足から地面に衝突した。足の骨は折れ、腰にまで衝撃が及んだが、どうにか生きている。これで助かった。加害者は、そう思った。
加害者「はぁ……はぁ……、いてえ。だけど、生きてる」
???は、ゆっくり階段を下り、加害者に近付いた。
???「生きてるかい?」
加害者「……はぁ……救急車‥‥救急車呼んでくれ!」
???「良いよ。でも、君は何分か相手を放置してから通報したよね? だから、もう少し待ってくれ」
加害者「早く、早く呼んでくれよ!」
???「無理だよ。これは、検証だ。被害者の体験通りに進めないといけない。それに、君がやった事でもある。暫く待ちたまえ」
加害者は、言葉が出ない。
「こいつは何を言っているんだ?」そんな目を、???へ向けるのみ。
???「後、二分」
痛い。足も、腰も痛くて仕方ない。
???「後、五秒。三、二、一、時間だ」
???は、携帯電話を取りだし、電話をかけた。
「え~と、救急車お願いします。はい。一台で。場所は‥……」
電話を終えた???は、加害者に話しかけた。
???「大丈夫かい? 救急車は呼んだから安心してくれ」
しかし、加害者は何も答えない。
何故なら、加害者は既に気絶していたから。
???「おーい。寝てるのかーい。起きなよー。死んじゃうよ?」
???は二回目の実験の終了を悟り、笑顔を浮かべた。
気絶していた加害者は、また、何も無い世界で目覚めた。
加害者「またここか」
また、痛みだけがある。だが、痛みがあるからこそ、自分が生きていると実感できる。
加害者は複雑な気持ちだった。
加害者「誰かー、いないかー」
返事は返って来ない。
加害者「待つしかないのか」
加害者に分からない場所で、二人の人間が言葉を交わした。
???「所長。被験者は既にこの状況に慣れてきているようです。どうしますか?」
???「ほっとく! 今回は怪我を治してあげないから、痛くて仕方なくなるはず。さあ、加害者君。自分が相手に何をしたのか、理解できるかな?」
???「無理でしょう」
助手は、加害者が反省などしないと予測。
しかし、暫く経過した後の加害者の心境は。
加害者「助けてくれ~! 謝る。謝るから! 俺が悪かった。反省してるから許してくれ~!!」
謝罪一択だった。
???「反省したの?」
???「違うと思います所長。これは、反省というより、痛みに負けただけだと思われます」
???「失敗か~。痛みはない方が良かったのかな?」
???「さあ? それより次の実験をしましょうか」
???「あっさりしてるね~オニオン君。ま、確かに早くやらないと終わらないもんね」
???「残業はしたくありませんので」
三回目の取り調べ。
???「起きたまえ。取り調べの最中に寝るなど、ふざけているのか、君は?」
加害者からの返答は無い。
痛みからの解放に、生きている事に対する安心。
加害者の心は、喜びに満ちていた。
???「聞いているのか。君は何故、人を突き落としたんだ?」
良かった。俺、生きてる。
???「私の質問に答えなさい」
次は間違え無い。あんなおもいはもう懲り懲りだ。
加害者「相手と、トラブルを起こした」
あの質問は、この次。
???「あんな高さから落として、相手を殺すつもりだったのか?」
加害者「違う。脅すつもりであそこに連れて行っただけだ」
???「へ~、脅すつもりね~。なら、」
これは、まさかあの台詞か? やばい! 殺される!
加害者「ちょっと! 待ってくれ。少しは死ぬかもしれないと思いながらやった。だが、殺したいとは思ってない。本当に脅すつもりであそこに連れて行っただけだ。信じてくれ!」
???「なるほど。殺意は否定するが、相手が死ぬかもしれないと分かりながらやったと」
???は考え込み始めた。それは何故か? 加害者の言い分が少々、都合良すぎるからだ。
死ぬかもしれないと思っていた。
だが、殺すつもりはなかった。
加害者の本心は、殺す気は無かった、だろう。
しかしそれだと、
死ぬかもしれないと思った行為をさせた事に疑問がわく。
何故だろうか?
自分では殺したくなかった。
だから、自分から落ちて死んで欲しいと思っていた?
相手を高所に連れていき、脅して、追い詰め、自ら飛び降りさせる。
もし、そうだとすると、完全な殺意の否定にはならない。
なので、???は加害者に聞いた。
???「どうなんだろうか。君は何故、相手を足場の端へ追い詰めたんだ? そこから落としたかったのでは無いのか?」
加害者「違う。あいつが、あいつが別れたいって言うから。脅せば、考え直すかもしれないと思って」
聞いていた???は、呆れた言い分に力が抜けた。
???「はあ。君は相手の気持ちを無視し、自分勝手な行動をした、と。とてもくだらない理由で」
ははは、くだらない。くだらないね~。
???は笑い出した。
加害者「くだらないってなんだ。俺には重要な事だったんだ!」
???「そうか。なら、君は、……一度、相手の気持ちを知りたまえ。そうすれば、考えも変わるかもしれないしね?」
???は笑みを浮かべた。その笑みを合図に、加害者は拘束された。
またあの場所に連れて行かれるのか。
そう、加害者は予想出来た為、暴れず素直に従った。
どうせ死なないんだ。あの時間を耐えて、次こそは。
今までより移動に時間がかかった。
加害者の体感時間で、だが。
所長「助手君。面倒だから、君に任せてもいいかな? それにほら、この役は君のほうがちょうど良いと思うんだ」
助手「面倒は余計です、所長。ですが、確かに所長が行くより、私が行ったほうが良さそうですね。仮想現実との差を出すためにも」
所長「でしょう。だから、頑張ってね」
助手「分かりました。行ってきます」
所長「いってらっしゃ~い」
面倒だなぁ。
しかし、やるしかありませんね。
「着きましたよ。ここが、貴方が被害者を落とした場所で間違い無いですね」
今までと違い、加害者は地面に立っていた。
それに、人が違う。
加害者は「誰だ?」と問いかけた。
「申し遅れました。私は、貴方の取り調べを担当した方の部下です。名前を教えるつもりはありませんので、部下とお呼び下さい」
「あ、はい」
部下は、近くの建物の非常階段を指し示し、加害者に言った。
「では、行きましょうか」
部下は歩き出した。しかし、加害者は動かない。一回目、二回目と違うからだ。
これは何かあると思い、疑いの眼差しを部下に向け、問いかけた。
「俺になにする気だ」
加害者に背中をむけ、建物に向けて歩いていた部下は振り返り、言った。
「何も致しません。ただ、現場を確認するだけです。早く来て下さい」
部下は建物に向き直り、再び歩き出した。
加害者は、
何も言わず従った。
今、周りには部下しかいないから、このままここから逃げてもいい気がする。だが、少し離れた場所にこっちを見ている人が何人かいる。逃げてもすぐに捕まりそうだ。
付いて行くしか無かった。
おそるおそる部下に付いて行く加害者。
部下は、加害者が被害者を落とした場所で立ち止まり、加害者に話しかけた。
「早くこちらに来て下を見て下さい。被害者の気持ちを体験出来ますよ」
「そう言って、俺を落とす気なんだろ」
「落としませんよ」
「嘘だ。」
「はぁ、面倒な方ですね。では、私がそちらに行きますので、貴方がこちらに来て下さい。それなら、安心出来ますか?」
「無理だ。下に行くならまだしも、ここにいるのは」
「分かりました。私は下に移動しましょう」
部下は、加害者の横を通り、下に。
地上から上を見上げる形で、加害者に言う。
「そこの手すりから下を見てみて下さい」
加害者は動かない。いや、動けない。
もう既に、二回もそこから下に落ちている。
落ちても死なないかもしれないと思いつつも、恐怖で足がすくむ。
「早くして下さい。やらないと、取り調べ室に戻れませんよ?」
「なあ、俺がこんな事する必要は無いだろ」
「いえ、あります。貴方に落とされた被害者の気持ちを知る為です」
「もう知ってる! 俺はここに二回も来た。だから、もう降りてもいいだろ!」
「そんな事はありえません。貴方は今まで取り調べを受けていたはずです。嘘はいけませんよ」
「あーふざけんな! 俺は三回目だ。お前が何と言おうが、俺は三回目だ!」
ふふふっ。
部下は、心の中で喜んだ。順調に、実験が進んでいる事に。
そして、
「貴方が下を覗く事が出来ないのでしたら、私が手伝いましょうか?」
加害者を更に追い詰める。
「やめろ! 来るな! 来るな!」
「暴れたら、落ちますよ?」
部下は非常階段を上り、加害者に近付く。
加害者は更に叫ぶ。
「来るな! 来るな! 来るな!」
しかし、部下は気にせずに加害者に近付く。
表向きの目的は、保護の為。本当の目的は、実験を最終段階に進め、残業をせずに帰る為。
部下は、一歩、また一歩、加害者に近付く。
「諦めて下さい。高さを確認するまで戻って来るなと言われているんです。さあ、頑張って下さい」
「やめろ、来るな!」
この時の加害者には、部下が悪魔にしか見えなかった。自分を殺すために来た、悪魔にしか。
「それ以上行きますと、落ちますよ?」
「はあっ!?」
加害者は後ろを見た。
「何で」
加害者は、知らず知らずの内に、手すりのすぐ近くまで移動していた。
「良かったですね。後は、下を見るだけですよ。さあ、下を見て下さい」
部下は、更に一歩、加害者に近付く。
「早く見て下さい」
部下は普段と変わらない口調で言った。
しかし、加害者にはこう聞こえた。
「早く、見て『落ちて、死んで』下さい」
「あぁあーー!! 来るなーー!!」
加害者は、狂ったように叫び出した。
……。来るなー!
……。来るなー!
あ~、これは面倒ですね。
さっさと終わらせましょうか。
部下は、加害者へ向けてまた一歩進む。
「消えろー!」
加害者は、部下に殴りかかった。
一回目のように、生きる為ではなく。ただ、恐怖を消す為に。
「危ないですね。やめて下さい」
部下は拳をかわし、加害者を手すりの近くへ突き飛ばした。
もう、まともな判断が出来る状態では無い加害者の拳なんて、当たるはずが無かった。
「ううっ! わっ!」
転んだ加害者は下を見て驚き、建物の近くにいる部下に後ずさりして近付いた。
しかし、今の加害者にとって、部下の近くは安全では無い。
「大丈夫ですか?」
部下は、加害者へ手をさしのべた。
「やめろ!」
悪魔にしか見えない部下の手をとる訳にはいかない。
加害者は部下から距離をとろうとした。
しかし、
もう、
部下と手すりの間の距離は、
「うぅ、うぅ。うわあぁー!!」
ほぼ無かった。
だから、
加害者は、
飛び降りてしまった。恐怖から逃げる為に。
グシャッ
何かが潰れたような音がし、その後
加害者の絶叫が聞こえた。
部下は無線で近くにいる同僚に連絡した。
「救急車をお願いします!」
その後、急いで階段を駆け降り、加害者の状態を確認した。
幸い、死んではいない。
部下は、安心した。
被験者の最後の反応を見れない場合、実験が失敗に終わってしまうから。
「はぁ~、はらはらしますね~、これは」
小さな声で呟いた。
病院に運び込まれた加害者は、病室で目を覚ました。
「あれ、違う。あの場所じゃ、ない」
目が見える。音が聞こえる。臭いがする。
ここは、何処だ?
加害者は、身体を起こして周りを見渡そうとした。
「いてっ」
しかし、身体に痛みが走り、起き上がる事が出来ない。
なので、誰かいないか、呼んでみた。
「誰かー! すみませーん、誰かいませんかー!」
「何ですか?」
「おわっ!」
すぐ近くで声がした為、声がする方向へ視線を向けた。
そこにいたのは、
「起きましたか。自分の名前は分かりますか?」
部下だった。
「わぁ! 来るな! 来るな!」
加害者は、追い詰められた時の光景を思い出してしまい、痛みを忘れて叫び、暴れた。
「落ち着いて下さい。ここは病院です。騒がないで下さい」
部下は加害者の肩を抑え、ベットに押し付けた。
「落ち着いて」
「嫌だ! 死にたくない!」
「大丈夫です。貴方は死にません。しっかりして下さい」
抑え始めて三分後、病室に医者と看護師が入って来た。
「すみません。この人をお願いします。私だと怖がられてしまって」
看護師にお願いし、抑える役を交換してもらう部下。
抑える人が変わった事で、次第に暴れなくなっていく加害者。
そして、しばらくしてから完全に暴れなくなった。
医者が加害者に確認する。
「自分の名前は分かりますか? 自分の歳は? これは何本に見えますか?」
加害者は聞かれた事に淡々と答えていく。
そして、医者の質問が終わり、加害者は問題無しと診断された。
次は、加害者が質問する番。
「何で俺は病院にいるんですか? 取り調べの最中だったと思ったんだけど」
医者と看護師が暗い顔になり、医者が言いにくそうに話し始めた。
「落ち着いて聞いて下さい。貴方は高い所から落ち、足の骨と腰の骨を骨折しました」
「えっ、何言ってんですか。そんな訳」
信じられない加害者は、足に力を入れようとした。
しかし、足に力は入らない。それどころか、全く動かない。
そして医者の口から、加害者にとって、とても気になる言葉が
「骨折だけなら良かったのですが」
「何? だけなら? 何だよ、早く言ってくれ!」
「神経の圧迫が確認されました。そのため、……貴方の足は今後動かないかもしれません」
加害者は一瞬、言葉を失った。
医者が何を言ったのか分からない。信じたくない。
加害者は、信じたくなくて聞き返した。
「冗談、ですよね?」
「本当の事です」
……。
……。
加害者の叫び声が、病室の中に響き渡った。
所長「お帰り~、助手君。どうだった? 被験者の状態は」
助手「酷いものです。動かないと知った途端、叫び始めて耳が痛くなりました」
所長「そうなんだ~、ご苦労様。今日は疲れただろうから、もう帰って良いよ。後は私がやっておくから」
助手「初めからその予定です。残業はしません」
所長「冷たいね~。そこは、『いいえ、手伝います』、くらい言ってくれないと」
助手「絶対にお断りします。遊んでいる人にいつまでも付き合っていられません。私にも生活がありますので」
所長「そう。なら、また明日。さようなら~」
助手「悲しい事ですが、また明日お会いしましょう。出来れば、遊び癖が直っていてくれれば、嬉しいです」
これ以上、ここにいる必要は無いと判断した助手は、監視所の扉へ歩いて向かった。
扉を開け、外に出て、閉める直前に所長から先程の返答が。
所長「無理」
助手は、どうせ返ってくる内容は同じだと思っていた為、所長の言葉は聞かずに
助手「お疲れ様でした」
扉を閉め、家へ帰った。
一人残された所長は、
「少し寝てから考えよーっと」
うるさい人がいなくなった為、だらけ始めた。
実験結果
加害者は、自分が被害者に行った行為と同じ行為をされた結果、足が動かない事に耐えられず、変になってしまった。
原因予想
助手 被害者は順調に回復に向かっているのに対し、加害者は精神を病んだ。このことから、精神の未熟さが、今回の事件の原因と思われます。
感想
所長 心が弱すぎて殺しがいがなく、残念でした。次回はもう少しまともな人間(被験者)が来ることを所望します。お願いね~。
助手 所長が真面目に実験を行うか不安でした。
以上
あーあぁ。本当はこんな話しにする予定は無かったのになー。
なんでかこうなってしまった。不思議だ。
当初の予定だと、こんな話し
くそガキども。
死ね。
一度死んで、死とは何なのか、学んで来い。
死ね。死ね。死ね
軽々しく死ねなんて言うんじゃねえ。
死ね。死ね。死ね。
なら、てめえが死ね。
死ね。死ね。死ね。
死んだら何も出来ないと、分からないのか。
死ね。死ね。死ね。
人に死ねと言って、てめえは生きるのか。そいつはちょっと、都合が良すぎないか?
死ね。死ね。死……ね。
こんな奴ら、殺して何が悪い。人に死を強要する人間なんて、必要ないだろ。
くそっ……たれ。刺したな。俺を、刺したな!
何故怒る? てめえが他人に強要していた事は、こういう事だろ。
だからって、本当に、刺すかよ!
ああ、刺すよ。だから、さっさと、死ね。
いじめね〜。いじめっ子を殺せたら、無くなるんじゃないかな。
いじめの証拠を集め、自分自身で殺す事を条件に、相手を殺せたら。
いじめなんて、無くなるよね。
人間にも弱肉強食が適用されるのなら、弱いものが死ぬのが自然の摂理。
殺して、何が悪い。
こんな話し。
死とは何なのか?
これが分からないくそガキが多いから、いじめが存在すると私は考えた。
なら、死ぬとは何なのか、身をもって経験させてあげれば、いじめがなくなるのではないかと思った。しかし、現実で殺してしまうと、生き返る事は無い。ならば、仮想現実ならどうかと思い、考えてみた。実際の死の体験を、本物そっくりの空間で、そっくりそのまま経験出来たら、と。
ゲームにばかり使われるバーチャルリアリティを、死の教育の為に使う。
とても良いことだと思った。一度死ねば、他人に死を強要するなんて、馬鹿でない限り、やらないだろうって。
だけど、それでもやるなら、何回も何回も、仮想現実の中で殺してあげる。
君の精神が完全に死ぬまで。いじめられっ子の身体を完全に再現してね。
え~、長くなったのでここまでで終わります。
以上